いがみ合い
今回はシリアスです。
さて――、
「よお、本体」
「よお、分身体」
と、満面の笑みで手を合わせる俺と瓜二つの容姿の少年。
俺も俺であり、彼も俺でもあり、そこに存在する差異なんて、力量の配分程度でしか滞在しないのだ。
「――何とか、無事に成功したんだな」
「一応、ちゃんと報告したんだが……」
「俺だ。 平然と虚偽報告するだろう」
「言い得て妙だな」
実際事実である。
と、素知らぬ顔で旧交を温める俺と分身体を唖然と凝視していた面々は、ようやく復活したようだ。
事情を知らない一因の筆頭――レギウルスは、露骨に頭上に疑問符を浮かべながら痛烈な疑念を払拭しようとする。
「……えっと、それお前? 気持ち悪いな」
「レギウルスさん、それ暗に罵倒していますよ」
「気色悪いな、お前ら!」
「明言しておけばいいってモンじゃないから」
そろそろプライバシーという概念を脳裏に刻み込む必要性があるようだ。
だが、流石に今の一連の会話では全く分身体の意味が分からないのか、沙織が小首を傾げながら問う。
「えっと……双子?」
「俺にそんな存在が居て、仲良くできてると思う?」
「あっ……」
多分、普通にいがみ合うだろう。
分身体に関しては、彼こそが俺で、俺が彼であるからこそ一定の信頼はできるが、イレギュラーな事態を想定して互いに常時腹の底を探っているというのが現状だ。
結局のところ沙織以外全員クソという話である。
「種明かしすると、こいつはライムちゃんの万能魔術で俺をコピーしただけなの。 まあ、ある意味俺だし、俺でもないともいえる」
「……何その魔法」
「正確には魔術な」
魔法ならばともかく、魔術に関してはそのレパートリーは無限であり、そしてライムちゃんはありとあらゆる魔術を行使する権限を得ている。
だからといって片手間のように超級の魔術を駆使できるという簡単な話ではないが、それはまた別の話である。
「それで、何の意図でそんなことをしたのだ?」
「単純に、人手不足」
「人望なのだ」
「その真意は後で鉄拳を以て捻りだすとして、これで納得はできたか?」
「――――」
おそらく、納得の域には到達していないだろうな。
そもそも開示した情報があまりにも少なすぎ、首肯するか否かを判別する材料が気薄というのが主な由縁である。
だが、それでも一応理屈は理解できた筈。
「……それで、お前はその分身を使って何を企んでいやがったのか?」
「おいおい、そう牙を剥くなよ。 ライカちゃんに嫌われるぞ」
「――。 さっさと話せ」
「へいへい」
先刻の一件はまだ尾を引いているからなのか、それとも単純に忠義を誓った王が束縛されている事態にいきり立っていたのか。
俺としては心底どうでもいいが、まあそれは俺に限った話で、彼にとっては執着し固執すべき要点なのだろう。
「――今、法国で帝国、亜人国、王国の要人たちが来るべき危機へと備え、調印を行っている頃合だろうな」
「は」
ちなみに、この王様に関しては適当に言い訳を並べて、念には念を押して洗脳を強めている最中である。
閑話休題。
俺の唐突な声音に瞠目し、疑念に脳裏を埋め尽くされるガバルドへ声を投げかける。
「――どうだ? 納得したか?」
「テメェ、話す気皆無だろうが……!」
「当然」
「――――」
この状態で俺がこれまで成してきたことを語ると確実に爆発するので、なるべくそういう事態は避けたい所存である。
無論、そんな俺の真意は彼には伝わらなかったようで。
「ふざけんじゃねえぞ、クズ野郎」
「へいへい。 クズ野郎でも何でもいいから、とりあえず落ち着いて。 こんなところで刃傷沙汰なんて、止めてよね」
「――――」
今にも抜刀しそうなガバルドを諫めながら、俺は薄い笑みを浮かべ、そのやりとりを傍観する魔王を一瞥する。
「――魔王、準備は出来ているな?」
「……至極残念なことにね」
「ハッ。 俺は俺で諸々の事情で参戦できないから、代役として頑張れよ」
「言われるまでもない」
と、肝心の前提が抜け落ちている会話が繰り広げる中、またも己の知らぬところで起きた事項に歯噛みしながら、ガバルドが乱雑に問う。
「……どういう意味だ?」
「そのまんま。 魔王はなんだかんだいって『誓約』結んでいるから信頼できるし、立場も十二分。 共犯者の選定としては妥当っしょ?」
「――。 ああ、そうかよ」
「――――」
これ以上は明らかに不毛だと悟ったのか、そう粗雑に吐き捨て、俺を露骨に視線から除外するガバルド。
奴もようやく学習したようで何よりである。
「あっ、魔王の護衛としての責務があるレギウルスとメイル以外は、皆この客船に居残りね」
「……護衛?」
「そう、護衛だ護衛だ」
「――――」
不可解な発言に小首を傾げるメイルへ俺は懇切丁寧に反芻するが、その反応は場の雰囲気を相まってかあまり芳しくはない。
「……敵の根城でも叩こうっていう魂胆か?」
「違う違う、そうじゃない。 それじゃあ流石に戦力不足」
「それは認めるのだ」
確かに『傲慢の英雄』や、その幼馴染であるメイルの実力は疑うまでもないが、だがそれにも限度がある。
流石にこの程度では襲撃するに足らないとそう断じる他ないのだろう。
だが、少数人数、選定された面々の一切合切が魔人族であるなどから、多少知恵が働くヤツならば容易に判別できる筈だ。
「――会議?」
「そういうことだ」
まあ、つい先刻それを仄めかしただから辿り着いて当然か。
メイルは一応とはいえ参謀としての側面を持ち合わせているので、そこら辺の推察は容易なのだろう。
「ちょっと何言ってるのか分からないです」
「死ねばいいのに」
「そこまで言うか!? 普通!」
その常識は俺には通用しない。
まあ、この脳筋にその当然の帰結を理解できると、そう期待するのが酷ともいえるだろう。
「阿呆はさておき、ライムちゃん、用意はできた?」
「愚問よ」
最近刻一刻と妹のドラ●もん化が進んでいっている気がする。
それはさておき――、
「――んじゃ、頑張っておいで」
「せいぜい足掻かせてもらうよ」
そう魔王は言い残し、ライムちゃんの詠唱が途絶えた直後、その姿が掻き消えた。
(⋈◍>◡<◍)。✧♡




