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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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終末













「――ッッ」


 俺は迫りくる暴威の根源の対し、即座に虚空に氷槍を展開し、それに指向性を付与すると、それに飛び乗る。

 要は、スケボーの要領なのだ。

 否、軌道さえも一切合切俺が管理しているので、ある種マ●カーに近いかな。


 閑話休題。


「――ッッ‼」


「うっさいなあ……」


 耳朶を嬲る方向がどこまでも轟き、更に文字通り音速さえも上回る勢いで宙を浮遊する俺へ岩盤を粉砕しながら突進した。

 その速力は、先刻の比ではない。

 個人的な触感ではおよそ初期の頃から倍増か、それ以上。


(クソッ……『あるある』かよ!)


 そう、これこそお約束の展開。

 魔石云々は除外し、ほとんどのファンタジーゲームにおいてボスは最終局面を迎えると、比較にならない位に強化される傾向がある。

 いわゆる発狂タイムだ。


 そんな不条理を罵りつつも、流石に無抵抗でなすすべもなく捕獲されるのは勘弁なので、誠心誠意逃げ惑うぞ。

 凄まじい速力で肉薄する式神に対して、俺は全神経を研ぎ澄ましながらも踊り舞うように魔手から逃れる。

 

 が――、


「――――」


「おいおい……」


 逃げ惑い、辿り着いたその虚空に、突如としてそれまで鳴りを潜めていた帝王の細身が露出することとなる。

 

(クソッ……! 推し量るに、屈折光でも制御したのか!?)


 否、今現在重要なのは理屈ではなく、対象の方策。

 そう思いなおし、俺は冷や汗を流しながら迫りくるように見える帝王を対処しようとするが、しかしながらあることを失念していた。

 直後、強大な暴力の奔流が押し寄せてくる。


「――シキちゃん、やって」


「――――」


――『暴炎』


 それを『神威システム』内に存在する魔術の中の一つに例えるのならば、誰しもそれに帰結するだろう。

 『暴炎』を実行できる輩はその術式難易度と高度な要求からほぼ存在しない。

 だが、とある術師がレイドの場においてそれを披露したことにより、その魔術は大いに脚光を浴びることとなった。


 その大まかな概要は――万遍なく押し寄せる爆炎の海だ。


 あくまでも帝王の奇襲はその術式を構築する上でのカモフラージュでしかなく、俺はそれにまんまと引っかかってしまったワケだ。

 その歯痒い事実に舌打ちしつつも、即座に打開策を練り上げる。


 まずそもそも、その圧倒的な効力が及ぶ範囲の広大さにより知名度を飛躍させていった『暴炎』なので、回避などは到底不可能。

 そして、俺の技巧では相殺することも神仏の御業と断じる他ない。

 『転移』のアーティファクトも生憎のところ不在だ。


 絶体絶命の窮地ともいえる戦局であろう。


 故に、今回こそ『天衣無縫』の出番――ではないのだ。


 前述の通り、『天衣無縫』は顕現させるだけでも干からびる程の魔力消費があるのに、それをアレが収まるまで維持?

 そんな悠長なことをしては、とうの昔に魔力が枯渇しているだろう。

 大してまだ帝王には余力がある。


 この戦局で魔力の枯渇は余りにも致命的だ。


 ならば――、


「――消えろ、スズシロ・アキラ」


「お断りだな」


 苦し紛れの虚言だとそう認識したのだろう。


 帝王は一瞬俺のことを同情するかのような眼差しで見下ろし――刹那、世界を猛烈な熱量を宿す爆炎により埋め尽くされていった。
















「――――」


 宙を浮遊する帝王は、眼下の敵対者を駆逐してもなおその厳しい頬を緩めることはなく、ただジッと爆炎の海と化した世界を凝視する。


 相手は並大抵の者ではない。

 故に、これだけ確定的な終止符を打ってもなお効力を発揮しない可能性さえ存在する以上、油断慢心は致命であろう。

 それこそが、帝国に生まれ育った者として、当然の思考回路である。


 が、いつまで経っても彼が出現することもなく、ただただ不毛にも燃え盛る烈火のみが帝王の刺客に移りこんだ。


――死んだ、か


 そう判別し、その事実にさして驚き動揺することもない自分自身へ嫌気がさしながら、ふと使役する式神の維持に限界が生じてしまったことを察する。

 そして、これ以上の持続はあの悲劇の繰り返しとなることも。


「――『解除』」


「――――」


 あの時のトラウマ故か、帝王はついに限度を迎える式神を一瞥し、指をタクトのようにしならせた。

 それに呼応し、爆発寸前であった式神の姿が掻き消える。

 油断慢心はないが、それでも己の勝利は揺るぎようは――、



「――『蒼穿』」



 はず、だった。


 このような鬼気迫った戦局であろうとも未だ飄々とした雰囲気を崩さない青年――俺は、したり顔で狙いを定め、そして加圧したそれを発射する。

 人間において、最も綻びが生じやすいのは勝利を目前した直前とはよく言ったモノで、事実彼もその法則から逃れることは叶わなかった。


「ぐっ……がぁっ」


「死体を見るまで慢心しないの。 次からは気を付けようね」


「――ッッ!」


 そう気安く語り掛けるが、無論彼からしてみればそれは挑発行為以外の何物でもなかったのだろう。


「――ッ」


「ふんっ」


 踏み込む動作を省略し、それでもなお凄まじい重さを宿すその大剣を、俺は巧みに氷獄刀でいなす。

 無論、俺の攻撃手段の一切が斬撃によるモノではない。

 まだまだ初心者とはいえ、それでもある程度は扱えるのだ。


 特に、『色』を見たこの魔術は。


「――蒼水・『蒼散』」


「がぁ……っ」


 圧縮した水滴を、次の瞬間故意で弾け飛ばし、それにより散弾とかした幾多もの弾丸が容赦なく

帝王の華奢な背中を抉る。

 

 そして俺は、ようやくかつてない苦痛に悶える帝王の首筋に、透明質な刀身を添えた。


「――俺の、勝ちだ」


「――――」


 今ここで帝王が何らかの抵抗手段に打って出た瞬間、躊躇もなくその首筋を掻き切ると、そう言外に告げる。

 それに対ししばり帝王は葛藤する素振りを見せるが――、


「重ね重ね申し訳ないが、貴君の宿願を教えて欲しい」


「それに何か関係が?」


「大いにある」


「――――」


 そもそも温和な日本人と、暴力に明け暮れた日々を当然のように謳歌する野蛮な帝国人であるのだ。

 言い方は悪いが、それでも価値観に齟齬があるのは必然といえた。

 流石に俺も、そこまでは考慮していないからな……


 俺はジッと反撃防止に帝王の動向やら魔力因子の気配やらに気を配りながら、特に嘘偽りもなく淡々と答える。


 俺が切願するモノ?


 そんなの、言うまでもない。


「――沙織の笑顔。 これに勝る至福なんて、一体全体どこに存在するんだよ」


「――。 存外、下らない内容なのだな」


「おうおう、勝手に吠えとけ。 俺だって客観的に見てしまえば酷く荒唐無稽なのは理解しているが、それでも本心なんだよな~」


「貴君も難儀なのだな」


「ハッ」


 何故かつい先刻まで殺し合いを興じていた相手に、何故か親しみやら憐憫やらを抱かれる始末である。


「それはそうと、返答は?」


「――貴君の主張は心底下らないが、それでも私好みだ。 いいだろう、私の完敗で納得してやろう」


「そいつは重畳だな」


 そう俺は照れくささやらで頬を掻きながら嘆息したのである。

 


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