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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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迷子の迷子のアキラちゃん


 最近、まふまふさんの声高いよね。

 ホント、生命の神秘だよね










 周囲を一生懸命見渡す。

 壁、壁、壁、壁、壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁……

 考え、努力し、奔走し、そしてようやくある結論にたどり着いた。

 その答えは――、


「……あー、うん。 迷った」


 俺はそう力ない声で断言した。


 当然だよね!

 ここは「四血族」の中でも、対魔族戦で最も貢献したルシファルス家が所有する広大な屋敷なのだ。

 加えて、この空間属性仕様。


 ドアを開けるとその先にある景色は部屋なんかじゃなく廊下。

 扉が部屋に続いているパターンは本当に稀だ。

 こんな屋敷、迷うしかないじゃないか。

 なんだか沸々とこの屋敷を設計しやがった野郎へ殺意が湧いてきやがった。


 殺ろ~そ♪ 殺ろ~そ♪


 もしやこれ、永遠とループするクソ設計なのでは?

 アッハッハッハ、もう綺麗に詰んでるね。

 ここまで不利極まりない局面は初めてだ。

 いや、もしやこれはあのおっさんからの遠回しな嫌がらせなのではないだろうか。


 あのおっさんだって一人のファザー。

 当然、娘が余りに理不尽な理由で叱責されたら怒髪冠を衝くよな。

 まさか、あの笑顔は擬態……!

 おっさん強し、である。


「まぁ、流石にそれは邪推し過ぎか」


 というか、今更だけどガイアスどこに行きやがった。

 もう本当に今更だけど。

 あいつ王都に入ってからちょくちょく消息を絶っては数日後にひょっこりと何気ない顔で現れるからな。


 一体何を企んでいるんだか。

 まぁ、ある程度は分かっているけどね。

 やっぱり、俺がガイアスという神獣の器だからかな?

 まぁ、どちらにせよあいつの動向は今すぐ改善すべき――ではない。


 どちらかと言うとまだまだ全然放置しててもオッケーなレベルである。

 だってあいつおっさんだし。

 単独行動の方が慣れているからなのかな。

 あいつのことは正直あんま分からんわ。


「取りあえず、このクソ難易度の迷路をクリアしてからそこら辺の事を考えますか……っ」


 俺は無遠慮にドアノブへ触れる。

 刹那、扉ごと俺が吹き飛んでいた。


(おいおい、初出勤からいきなり襲撃かよ!?)


 もうちょっと休ませて欲しかった。

 俺はアイテムボックスから『戒杖刀』を取り出し、いつでも抜刀できるように居合いの構えを取る。

 そして現れたのは……


「……………………侵入者は一名か」


「――――」


 黒い。

 それが彼を認識した瞬間生じた紛れもない感想だった。

 漆黒の長髪は背後にポニテール風に束ばねており、そして生じる微風によってそれがゆらゆらと揺らされる。


 漆黒のマントを着ており、剣の刀身でさえ真っ黒である。

 しかし、場違いにもその双眸だけが深紅に煌めていた。

 

 さて、何となく先刻の一言でこいつの立場は理解できたぞ。

 おそらく、こいつは俺と同じくあのおっさんに雇われた〈プレイヤー〉の一人。

 彼が纏う濃密な威圧感から見ても間違いなさそうだ。

 そしておそらく、俺のことを不埒な侵入者と勘違いしている。


 当然だよね!

 なんせどこぞのおっさんのせいで顔合わせどころか道案内すらもなかったんだからな!

 もう本当に迷惑極まりないおっさんである。 

 

 だが、俺がこいつの敵ではないことの証明は非常に容易である。


「――あ、俺は敵じゃない。 疑うなら、これを見てから疑え」


「――――」


 俺は急いで「交戦の意思はない」と刀をアイテムボックスにしまいながら伝え、同時にあるペンダントを取り出す。

 まるで揺らめく炎のような装飾に、その中央に鮮やかな深紅の宝石が嵌めこまれている。

 そういえば、この世界にもルビーってあるんだね。


 そのペンダントを見せつけた瞬間、男が放っていた殺気が消え、無音で黒塗りの鞘に剣が納刀される。

 どうやら誤解は解けたようだ。


「……………………失礼した。 護衛の者か」


「あぁ、その通りだ。 こいつを見れば一目瞭然だろ? あと、できるなら姫さんの部屋、教えてくれない? 見ての通り迷子でさぁ。 いやー、本当に困るよね。 俺今日雇われたばっかりだから、ここの構造知らなくてな」

 

「………………………付いてこい」


 男は俺に背を向けたすたすたと歩いて行った。


 確かに、この屋敷の構造上それが最善だよね。

 にしても、なんとも独特の口調だな、この男。

 しかし、俺に背中を晒す男には一切隙が無い。

 俺がいつどのように反撃しても多分避けられるな。


 やがて、沈黙が続く廊下を俺たちは淡々と歩く。

 そういえば、『傲慢』ってどうやってこんなところに入ったんだろう。

 絶対無理じゃね?

 正式に認められた俺ですらこのザマだ。


 侵入者対策が万全すぎる件について。

 これ、住む方も住む方で苦労しそうだね。

 少なくとも俺はあまり住みたくない屋敷である。


 扉を開き、廊下へループする。

 広大な廊下には幾多もの扉があり、もはやそこらの迷宮がお遊戯に思えてくる。

 しかし、男は淀みのない動きで前へ前へと進んで行く。

 

 やっぱり、古参なのかな?

 雰囲気もそこそこあるし、あり得るな。

 俺はそう勝手に判断しながらも淡々と進む男の背中を追いかける。


 そして、数十分進むと。


「……………………着いたぞ」


「? 着いたのか?」


 俺は周囲を見渡してみるが、無数の扉と奥すらも暗闇に閉ざされ、ハッキリと確認することができない廊下が広がっていた。

 どう考えても姫さんは居ないよな?

 

「………………………この扉の先だ」


「あぁ、そういうことね」


 男が指さすのは一つの金縁の扉である。

 今までに類を見ないタイプの扉だ。

 おそらく、ここが姫さんの居場所で間違いないのだろう。


「………………………責務は果たした」


「あ、帰るの。 まぁ、お互い頑張ろうぜ」


「………………………了解」


 そして男は暗闇に紛れてどこかへ消えてしまった。

 俺は再び金縁の扉へ向き合い――扉を開く。

 そこには――、


 シミなの一つとしてない清潔そのものの柔肌。

 意外と豊満なその胸部。

 湯気によりほんのり赤くなった肌。


 桃源郷が、広がっていた。


「変態ーーーー‼」


 ちょうど入浴中の姫さんから罵倒と共に洗剤を投擲され、それは猛烈な勢いで俺の顔面へと激突ししていった。


「解せぬ……」




 

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