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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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虚無と道化師


 最近、今更になってバレンタイン企画を画策しております。


 はて、バレンタインの概念とは。












 

 『それ』が発する気配の一切合切が俺の神経を逆撫でし、悪寒はもちろんそれこそ嘔吐感さえも込み上げてくる。

 

 これ程にまでおぞましい存在を目の当たりにしたのは、それこそ初めてではないのかと思えてしまう。

 だが、そんな感慨も一瞬。

 何故ならば、それを認識した直後に、その剛腕が凄まじい勢いで俺を吹き飛ばしていったのだから。


「――ッッ!」


 受け身は――勢いが強すぎる。

 『天衣無縫』を展開するにはあまりに足りない衝撃故に、所々に氷獄刀で氷結晶を引っ掻いて勢いを殺すが、それでもなお衰えることはない。

 

 轟音。

 それと共に俺は成すすべもなく王城の強靭な壁へ激突し、それと同時に文字通り口元から血反吐を吐く。

 舌を染みる錆臭い味に頬を歪める。


「スズシロ!?」


「――――」


 流石に、これに関してはガバルドも予想外であったのか、分かりやすい程に狼狽し俺の身を案じる。


 成程、確かにガバルドが憂慮する筈だ。

 これこそが、『帝王』ライカが有する魔術――、


「――式神かっ」


「御名答だ」



 式神。

 古臭い呼称であるが、基本的に手懐けた魔獣にはこの呼称が浸透しているらしく、それはこの世界においても例外ではないらしい。


 そう、帝王に刻まれた魔術は式神の召喚、及び使役である。


 それだけならば狼狽する程でもないが、驚嘆すべきはその式神の尋常ならざる隔絶した実力である。

 膂力はもちろん、魔術操作さえも自由自在。

 それこそ、『英雄』の異名をほしいままにしたガバルドでさえも、直接的に打倒することはできなかった品物である。


 推し量るに、純粋な力量では俺さえも上回るな。


 本音を言うのならば『天衣無縫』で抵抗する暇もなく消し去ってしまいたいが、そうすると最高戦力を喪失することなる。

 流石にその末路は回避したいな。

 

 無論、俺とて無策で挑む筈がない。


――かつて、この式神が暴走した時がある。


 様々な要因が相まって、ライカという術者を除いて周囲一帯を焼け野原にしたあの事件で、ガバルドは死力を尽くし奮闘した。

 が、それでもなおガバルドがあの天上の存在に白星を刻むことは生涯なかった。

 ならば、何故その事件が無事に解決されたのか。


 それは――、


「――五分」


「――――」


「それこそが、その式神を召喚・使役できるだけのタイムリミットだろ? んで、それを一秒でも上回れば、暴虐の限りを尽くす。 そういう寸法だ」


「――。 貴君は、どこまで……」


「さあ、想像に任せるよ」


 前のループでの一幕を言及するとほぼ確実に本人から面倒な追及をされると思うので、黙秘の姿勢を表明する。

 そう、あくまでも数年前の記録とはいえ、それでもそれに近い刻限であることは瞠目する帝王の容貌が証明している。


――五分


 そのたった五分さえ乗り切ってしまえば、ほとんど確実に帝王を打倒することは可能であろう。


 ようやく、この段階へ足を踏み入れたなと妙な感慨を抱きながら、静かに神経を研ぎ澄まし、式神の動向に集中し――、


――刹那、魂が凪ぐ


「――――」


 微かな、魔力因子の気配。


 それを察知した瞬間、俺はまるで将棋のように数分先の未来までを超高速で予測しながら、降り注ぐ雷雨から避けていったのだった。
















「なんだ、アレは……」


「――――」


 踊り、舞い、身を屈める。


 その洗練され、どこまでも合理を追求した動作が宿す無骨さは、いっそのことある種の芸術のようにさえ感じられる。

 

「――ッッ‼」


「――――」


 音速の勢いで肉薄し、更にそれと同刻に地下より莫大な水流の濁流により動きを硬直させようと目論む。

 だが、無機質な瞳を揺らめかせるアキラにとって、それは極々自然と認識できていたらしく、十分に襲撃の責務を果たすことはない。


 最低限の動作で射程範囲から逃れ、そのまま電光石火が如き勢いで異形の式神へ接近し――すれ違う。

 そう、それだけだ。

 アキラの細身が砕け散ることも、まして肉塊と成り果てることもない。


 それを成すのがどれだけ難解なのか、かつてあの暴威を存分に味わったガバルドは痛い程に理解できる。

 

「おいおい……何がどうなっていやがる……?」


「――迎撃を捨て、回避に全神経を注いだ結果よ」


「――――」


 誰に問いかける意図がなかったその疑問は、隣の少女がスラスラと答える。


 その間にも明らかに異常な状態と化しているのにも関わらず、のらりくらりと幽鬼のように式神の猛攻を躱していく。

 確かに、よく観察してみればアキラは反撃する姿勢さえも見せずに、その五分間を生き抜こうと、懸命に足掻く。


 まるで精密機械のように計算され尽くし、洗練された立ち回りにより、迫りくる危機の一切合切を回避する。


「お兄ちゃんは、色々と極端なの。 でも、普段は諸々の事情で雁字搦めになって、たった一つのことに集中することができていない」


「――――」


 その少女の見解に、人知れずガバルドが本当によく見ていると感服する。


 この少女が述べた通り、スズシロ・アキラという少年の立ち位置は揺るぎようのない参謀兼臨時戦闘員。

 彼は常日頃この絶対的に不利な逆境を乗り越えようと四苦八苦し、様々な情報を統合しながらも策略を弾き出す。


 故に、彼がたった一点のみを見据えることはなく、今この瞬間のように言われてみれば眼前の敵対者へ心血を注ぐ光景は中々に新鮮であった。


「じゃあ、アレはその分の弊害っていうことか?」


「概ねそういう感じだわ。 まあ、あのパフォーマンスは存命に極端に縋った時にしか発揮されないらしいわ」


「難儀なこったあ」


 基本的にアキラが物事を乱雑に思案するガバルドとは異なり、多大な懸念を背負っていることは流石に理解している。


 だが、それがまさか死闘に支障を齎してしまう程とは。

 確かに、今現在の彼のパフォーマンスは『傲慢』と繰り広げた激闘さえも霞んでしまう品物である。


「……前から気になってたんだけど、お前らってどういう関係なの?」


「……益体もない」


「自覚してるけど、なんか気になってな」


「――――」


 それなりの月日をこの兄妹と過ごしてきたのだが、どうもこの不可思議な関係性はハッキリとしない。

 状況が状況であるのだが、それでも好奇心を制することができるのならば、今頃ガバルドはもっと苦心していなかったであろう。


 故に、もはや今更である。


 そんな開き直りに呆れ果て、それでも兄の勇士をその瞼に焼き付けるライムは、初めてハッキリと明言した。


「――兄と、妹。 それだけだと思うわ」


「――。 ふーん」


「……何なのかしら、その下卑たる笑みは。 焼き殺すわよ」


「お前ら、もう本当にソックリだよな」


 恐ろしき遺伝と、背筋を浸透するおぞましい殺意に萎縮するガバルドであった。

 


 元ネタは……なんだったっけ

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