愚者のメロディー
サブタイトルは今更ながらハマった楽曲のパクリです。
「――どういう意図だ、少年」
「そのまんまだよ。 もしかして、難聴なのかなあ?」
「……随分と無礼な少年だ。 ガバルド、これは貴君の差し金か?」
青筋を浮かべながらも、ポーカーフェイスを装い、俺の慇懃無礼な態度に文句を申し立てようとする帝王。
だが、それへの返答はあまりに予想外であった。
「他人です」
「いや、でも――」
「他人です」
「で、でも明らかに貴君を見知ってるようで……」
「――ストーカです」
「よしガバルド、テメェその醜悪な顔面を二度と拝めないようにしてやろうか? ア”ァ?」
老衰した中年の付き纏いなんて、屈辱以外の何物でもないだろう。
「……今の一連の流れで貴君らの関係性はある程度把握した」
「傀儡とご主人様だろ」
「何言ってんのかよ。 ペットと『英雄』だろうが」
「「アハハハハハ」」
お互い頬は盛大な笑みを浮かべているというのに、その瞳は能面を彷彿とさせるレベルで無表情である。
戒杖刀が不在なのはいただけないが、だがそれでもガバルド程度素手で……!
「……随分と、仲がいいようだな」
「「ア”ァ?」」
「やっぱ仲良しじゃんか」
どうやら殺害対象がまた一人増加してしまったようだ。
「――って、そうじゃなくて! スズシロ、毎度毎度思うのだが、いい加減脱線は自重した方が――」
「人生に、何一つ無駄なことなんてないよ……!」
「お前と今こうして会話していることこそ何よりも不毛なことだと思うのだが……」
……だが、確かにガバルドの見解も一理ある。
俺としては一瞬たりとも逃したくない所存であるので、これ以上有意義ではない会話が続くのは勘弁したかった。
「――さて、そろそろ本題に戻るぞ」
「これで何度目だよ」
「シャラップっ」
無駄な茶々は慎むように。
確か、それまで俺が語っていたことは……ああ、確か帝国の流儀を以て同盟を成立させようとか言ってたっけ。
無論、これは虚言はブラフの類ではない。
俺とて馬鹿正直な交渉なんてクソ喰らえだと、そう考えている。
だが、虚言や妄言の類が存分に効力を発揮する戦局は割と限られており、全てを見透かすようなこの帝王相手には不毛だと、そう判断した。
実際それは見当違いではないはず。
「お前にとっての実力至上主義ってのは、強いモノが弱者を支配する。 この見解に語弊はないよな?」
「肯定しよう。 それこそが我らにおける唯一無二の真理」
「ふーん」
「――――」
確かに確固たる意志や覚悟を得ていると言ってしまえばある程度風貌のいいだろうが、幾ら取り繕うがその本質に差異はない。
帝国は、国民の一切合切へ実力至上主義を強要し、無論そこに本人の自由意志などとうの昔に存在しないのだ。
少数派はやがて社会から排斥されるのと同じ。
一応はその歪な主義に異議を唱えるような存在だって多少なりとも存在したのだろうが、それこそその総数は両指で収まる程度。
少数は多数派に押し殺されるのが自然の摂理。
故に、横暴にも受け付けられたその価値観を疎ましく思えるが、それでもその主義が今回功を奏するのならば万々歳である。
「なら、仮にだけど――今この場で俺があんたを完膚無きままに叩きのめせば、そしたらどうなると思う?」
「――。 まさか」
そして、ようやく俺の真意を悟ったのか、微かに瞠目する帝王を見据えながら、いっそ恥を捨てて啖呵を切る。
「――帝王、あんたに決闘を申し込む」
「――――」
正直な話、未だかつない程に恥ずかしい。
基本的に無機質な俺ですら、あんな今時の小説であろうが描写されることのない大言を吐いたことに痛烈な羞恥心が沸き上がる。
だが、この場でそれを露呈することは許容されないであろう。
「――ほう。 決闘か」
「そうそう。 単純明快でしょ?」
「同意する。 仮に貴君がその博打に勝利すれば、貴君は俺の支配者という立ち位置となり、容易にこの国の情勢をほしいままにできるだろうな」
「仮に、ね」
「――――」
そう付け足された発言に目を細めていると、ガバルドが心底慌てたように俺へ問いかける。
「――おい、スズシロ。 お前本気なのか!?」
「本気と書いてMAZI」
「――――」
それなりにこの雑多な帝国に滞在していたガバルドが、帝王へ死闘を挑むという選択肢を考え付かないワケがない。
だが、それでもガバルドは断念した。
それ程までに両者の実力が隔絶していることの裏付けである。
無論、そもそもガバルドが『術式改変』を会得していないという理由も存在するのだが、それはそれ、これはこれだ。
しかもこの条件下であると、俺は安易に『天衣無縫』を利用することはできずに、せいぜい絶対防壁として運用するのが関の山であろう。
(本当に、厄介な魔術だ)
『天衣無縫』により生じる影響は良い意味でも悪い意味合いでも極端。
今の俺の技量ではそれを調節することは至難の業であるが故に、そうやすやすと存在消去の魔術を多用するワケにはいかないだろう。
そのハンデを背負いながら、王国が誇る『英雄』さえも怖気づいてしまう程の猛者と、小細工なしの死闘。
成程、確かにガバルドが焦燥する筈だ。
「おいおい、俺が心配なのか?」
「頓死寸前のゴキブリを見て、可哀そうだって思う阿呆が存在すると思うか」
どうやら俺は自然とガバルドの中で『ゴキブリ』と、そう変換されているらしい。
「オッケー、王室を中年の血飛沫で深紅に染め上げてやろうか?」
「おい、いきり立つなよゴキブリ。 落ち着くだゴキブリ。 ほら、ゴキブリだってついつい口が滑ることなんて幾らでもあるだろ? なあ、ゴキブリ」
「ライムちゃん、人をGにできる魔術ってある?」
「もちろん、お兄ちゃんのお望みなら何でも叶えて差し上げるわ」
「自分調子に乗ってました」
ライムちゃんへ確認の一声を投げかけるのと同時に、思わず見惚れてしまいそうな程に鮮やかな土下座を披露するガバルド。
どうやら、この男にとって恥や外聞なんかよりも騎士の――否、一人の人間としての責務の方が先決であったらしい。
その無様なザマに爆笑し溜飲を下げ、いい加減それにも飽きてくると、俺はようやくその茶番を傍観する帝王へ向き直った。
「あー、済まんな脱線しちまって」
「構わない。 この程度の揺さぶりで動揺する程に愚昧ではない」
「ふーん。 ――で、返答は?」
「――――」
返答。
つまり、俺の無謀な決闘を承諾するか否か。
数瞬瞑目し、ようやく考えが纏まったのか静かにその瞼を開き、どこまでも鮮やかな瞳を見開いた。
「愚者スズシロ・アキラよ。 ――貴君の愚行、受けてやってもいいぞ」
アアアアアアアアア!!!??
データが、消えたあああああああああ!!??
……ただいま、書き直しております。




