変態じゃないですかッッ‼
パロネタです
それから、王様は誰かさんの意思に順々に、それこそ犬のように従い、色々とやってくれたらしい。
「ふむ……とりあえず、法国と、亜人国の方が順調か」
「――? どうしたんですか、アキラ様」
「ちょっとね」
「――――」
そう、何と思いのほかに王の権威は強大らしく、存外容易に亜人国と、あまつさえそれなりに険悪な中である法国と同盟を結ぶことに成功したらしい。
というか、やってやたぜ。
何を隠そうそこに至るまで大いに尽力した人物こそ俺なのだ。
そもそもの話、もはや王の魂に自主性はない。
というか、あっちゃいけない。
うっかり普段の言動とは矛盾するような発言なんてしてしまえば、迷わずスピカ君を派遣してしまうじゃないか。
……人として、この発想は如何だろうか。
そろそろ、周囲の俺への評論が大いに気になる頃合いだ。、
とりあえず俺は、この頃常時勤務中の俺とは打って変わって部屋で寝転ぶクソ中年へ、問いかける。
「おいニート、俺って人げヴォッ‼」
「うるせぇ」
「アキラ様――!?」
「…………(永遠の沈黙)」
頭蓋を万力にも勝る膂力で握られ、なんだか蜂蜜の甘味さえ感じてしまう……。
不思議なことに到来するはずの激痛は今や鳴りを潜め、安らかな心境でこれまでの人生に想い馳せる。
ああ、あの頃は良かった……。
沙織と笑い合ったあの黄金時代……些細なことで喧嘩になって、それでもまた仲直りしたっけ……。
「こいつ、走馬灯見ていやがる……」
「アキラ様ァ!?」
激痛。
ふと、閉じた瞼を開いてみると、何故かガイアスとスピカ君が俺の顔面を幾度となく殴打している光景が浮かんだ。
えっと……ナニコレ。
「オッケー、落ち着――」
「生きろ! 生きてくれスズシロ!」
「寝たら駄目ですよ、アキラ様!」
「ぐぼっ、がはっ」
亜人族の中でも特段身体能力がズバ抜けているスピカ君のはもちろん、ガイアスの殴打だって他のとはひけと取らない。
歯がひび割れ、それどころか吹き飛び、骨格が歪められる感覚がありありと理解できてしまい、再度気絶寸前に陥る。
と、そんな時、借りていた部屋の扉が――、
「ちょっ!? 君達、なにやってんの!?」
「何って、見ての通りだ。 ――救命活動だよ」
「死んでるじゃん! スズシロ君死んでるじゃん!?」
「「えっ? ちょっと何言ってるのか分からない」」
息の合った連携に、来訪者であるルイーズは数秒熟考した後――、
「――すみません、人違いです」
「いえいえ、お構いなく」
あいつ、逃げやがった。
「――ルイーズ、お前、分かっているだろうな?」
「えっ? 殺してくれるの♡」
「変態じゃないかッッ‼」
「お前が言うな、お前が」
まるで俺が度し難い変態であるかのような物言いである。
なんだか、俺の助言が契機となって吹っ切れたのは凝固以外の何物でもないのだが、それにしては極端すぎる傾向だ。
あの頃の純真な大貴族を返して欲しい。
あっ、主犯俺か。
「……どうしたのかな、人の顔を苦虫を噛み潰したかのような形相をして眺めて」
「ごめん、俺は無力だよ」
「――?」
可愛らしく首を傾げるこの美少年であるが、その実態は今日も元気に心中する手段を模索する探究者である。
どうせならば魔術関連を極めて欲しかった。
何故その熱の矛先を見誤ったのやら……。
「そういえば、法国と亜人国がこの国と同盟を結んだらしいな。 ――絶対お前が関連してるだろう?」
「いや、そんな一+一=二程度のことをしたり顔で宣言されても……」
「うるさいわい」
ちょっと自意識過剰が過ぎるのではないだろうか。
閑話休題。
色々あってスク水を着る羽目になろうそうになった俺は、渋々ながらもそれに至るまでの紆余曲折を語ろとする。
「とりあえず、法国に関してはそもそも生い立ちが生い立ちだから、『龍山』の警備に大量の人員を派遣してるかた、当然『老龍』復活については大雑把でこそあるにせよ、一応は察知していたらしいんだよね」
「そうなのか?」
「ああ、なんでも監視員が全員殺害されたらしくね」
「ああ……」
場所が場所なので、巻き起こった惨状がそれまで漂っていた魔力の残滓が薄くなっているなどの事態から、ある程度は把握していたとのこと。
「まあそんなワケで、ぶっちゃけ王国よりも迅速に対応してたらしく、そんで俺とも同じ結論にも至ったそうで、逆に向こうから同盟を推し進める始末で思わず苦笑しちまったぞ」
「それはそれは……」
これに関しては行幸以外の何物でもない。
そして、肝心の亜人国であるのだが、これに関してはどこぞのクソ中年ナンバーⅡを不本意ながらも利用させてもらった。
「亜人国に関しては、そもそも先にガバルドが話を進めているから相当に順調だったそうだぞ」
「……ガバルド、ですか?」
「あれ、スピカ君って知らないんだっけ」
「え、ええ……。 自刃したい程お恥ずかしい限りです」
羞恥心は何故こうも人を突き動かす。
「ガバルドっていう男はな、なんか『英雄』なんて呼ばれている騎士の中の騎士とも形容できる存在で――端的に言うと、めちゃ強い」
「アキラ様がそこまで言うとは……」
戦慄するように肩を震わせるスピカ君。
前回のループでガバルドは魔力回路に異常があるとかいう理由により魔術が扱い得ないらしく、その実力を発揮する機会は限られていた。
だが、今回のループ――否、厳密には『賢者』であるメィリ・ブランドが存在しない時間軸でのガバルドは少々、いや大いに異なる。
ぶっちゃけてしまうと、なんでも前回のループでガバルドの魔力回路に癌的なモノを埋め込んだ犯人、メィリさんなのだよ。
なんでも『厄龍』さえも危険視する程の才気に溢れていたとのこと。
しかしながら俺が『天衣無縫』によりメィリをライムちゃんという存在に改竄してしまったことにより、辻褄合わせが生じていったのだ。
これにより、それまで秘められていた才覚が猛威を振るい、名実ともに彼は人族最強の騎士と化したらしい。
現在の実力を正確に把握することは叶っていないが、漂う濃密な魔力から相当なモノだということは否応なしに理解できてしまう。
「多分、あいつだったらレギウルスでさえも打倒していたのかもね」
「ほう……」
単純にそのような未来が訪れなかったのは、互いに勝利の女神が微笑み、運よくエンカウントしなかったからである。
(さて……残るは、帝国だな)
そう、小さく吐露していった今日この頃。




