演戯
「と」シリーズ終幕のお知らせ
「――突然だが、ウンコ漏れそう」
「本当に突然だな」
というか、今更だけとこの体でも排便なんていう不似合いな概念も存在するんだねと妙に納得してしまう。
それはそうと――、
「……で? お前もう最近ずっとニー活しているだろ」
「うぅ……! 気にしてるのに!」
「ガイアスさん……」
「ガイアス君、最低……っ」
「えっ!? 今の俺が悪いの!?」
かつてならばともかく、今の貴様には支持者なんぞ皆無なのだよと中指立てながら高笑いを披露したら殺されかけた。
最低の人間である。
あっ、そういえば人間じゃないのか。
閑話休題。
そう、この俺ことスズシロ・アキラはつい先日までガイアスさえも関心するほどに勤勉に勤労していたのだが、この期に至ってパジャマ姿でソファーに寝転ぶニートスタイルを堂々と披露しているのだ。
もちろん、それをガイアスが咎めない筈がない。
「あの頃の勤労の徒だったスズシロはもういなんだな……」
「一応言っとくけど、これでも仕事してるからね」
「おいおい……冗談は体臭だけにしておけよ」
「えぇ!? 臭いの!? 俺臭いの!?」
「が、ガバルドさん……! 確かにアキラ様はアレですけど、そういう直球な発言はないかと思いますよ!」
「そうだよガイアス君! 君の言う通りちょっとアレだけど!」
「もう止めてッッ‼」
何!?
弁護してるの!? それとも罵倒しているのかな!?
そろそろ身内の俺への評価が定かではなくなり、困惑しつつある今日この頃である。
ちなみに体臭の件については、俺は生まれつき汗を掻かない体質なのでおそらく悪ふざけの類だと思われる。
「……確か、諜報とかそういうのだっけ」
「覚えてよね、そういう重要事項」
「い、いやスマン……。 ついつい本能がスズシロ関連のおぞましき情報を記憶するのを拒絶して……!」
「世界よ、これが謝罪だ」
辞書でも叩きつけてやりたい所存だ。
まあ、確かにガイアスの言う通りニー活を行っている間俺が何を行っているのかと言うと、王国の情勢の把握、調節を行っているのだ。
俺は先日の騒乱の最中、どさくさに紛れて王の脳内にある特殊な信号をルシファルス印のアーティファクトで発したのだ。
ちなみに、これに関しては王国の宝物庫から強だ――もとい、拝借して得ていったモノである。
このアーティファクトに付与された魔術は『補足、盗聴、遠隔起動、自然魔力治癒、洗脳、思考閲覧』の六つ。
もうね、チートとかそういうレベルじゃないの。
それこそ正真正銘の国宝として扱われていたらしい。
ちなみに、これの存在を発見した後日、ちょっとヴィルストさんに聞いてみたら、なんでも先代がある人物の嫌がらせのために製造したとかしてないとか。
流石は『四血族』、やることなすことが奇想天外すぎる。
閑話休題。
「まさか、お前がアレを起用するとはな……」
「――? 知ってるの、ガイアス?」
「まあな。 まあ、昔色々とアレのせいで面倒なことに巻き込まれたんだよ。 ……ほんと、主には苦労する」
「――――」
分かってはいたが、この男、俺に秘匿している情報があまりに多彩過ぎる。
これ程にまでに胡散臭い人物像など、中々に拝んだことはなく、流石に扱いに困惑しているのが本音である。
「――で、首尾は?」
「フッハッハ、いつ俺が非協力的な輩に情報を公開するとでもちょ止めて止めて女の子になっちゃう!」
「沙織とかいう女と百合じゃねえか。 良かったな」
「それはそれで……」
想像してみる、仲睦まじい可憐な美少女二人のその光景を……、
「最高じゃん!」
「お前もうなんでもありだな!」
ぶっちゃけ沙織関連ならば何でもいいというのが本音である。
紆余曲折あってそれなりにこの男のことは信頼しているのだが、しかしながら懸念すべきはその素性の知れなさ。
なにせこの男、そのルーツの一切を俺へ開示していないのだ。
恥ずかしいのか――それとも、閲覧されたくない情報が存在するのか。
前者ならばまだいい。
俺が真心こめてその秘密を赤裸々にして、いつまでもそれをネタに弄ってやる所存であるのだが、問題は後者。
多分、ガイアスの性格で前者は有り得ないと思う。
ならば、消去法的に後者となるのだが、現状それが全く輪郭を帯びていないので咎めることもできない。
否、それには少々語弊があるだろう。
(あの少女……)
俺が術式改変を習得する最中に垣間見た記憶の中に幾度か登場していったあの真っ白な印象の可憐な少女。
少なくとも、あの少女がガイアスの根幹に大いに関与していることは確かだな。
だが……どうもあの少女からはヴィルストさんとどこか似ているように思えたのだが、錯覚だろうか。
やはり、情報が致命的に足りないな。
見込みはないが、とりあえずガイアスに関してはあの少女を軸に長期的な目で色々と調べていく必要性があるな。
それはそうと――、
「えっと、近況を報告して欲しいんだっけ」
「……嫌に素直だな」
「俺だって女の子になって沙織と百合百合したい! だが、それでも純粋なる恋人としてイチャイチャしたいんだよッッッ!!」
「心底どうでもいい話をありがとよ」
「どういたしまして」
「……本当に、なんなのこの生物」
何故そこを人間ではなく生物と大幅に範囲を広大にしたのか、追々殴打で聞き出すとしまして――、
「――まあ、首尾に関しては上々かな。 イイ感じに先日の一件が効いているみただよ」
「――――」
俺が王城へ進行していった理由は色々と混在するのだが、そららが相まってそれなりの結果を叩き出しているようだ。
「とりあえず、俺は王様の思考回路を色々と弄りつつ動向を探って厄介なことになったら方向修正する所存」
「……地味に大変なんだな」
「いやいや、地味じゃなくて滅茶苦茶だぞ。 なんせ、他人の思考を操作するなんて禁忌の所行が故にむっちゃ繊細なセンスが必要になるからな」
「ふーん」
「もうちょっと興味をもとうか」
そろそろ真面な相棒を所望する。




