表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
311/584

悔恨と


 「――ある朝鏡を見たら」














「――っ」


 呻く。

 中年と形容しても差し支えない年齢の男――否、高貴なる存在、『王』は耐え難い激痛に盛大に頬を歪める。

 王とてこの年でこれだけの大怪我が初めてではない。

 

 だが、王とてその役職故に直々に戦火飛び舞う物騒な戦場へ向かうことなど、それこそ皆無であるのだ。

 かつて負った負傷も不慮の事故。

 だからこそ、これが初めての純然たる悪意によって刻まれた傷跡なのだ。


「――――」


 直後、細心の注意を払って振るわれたその大剣は、容易に人々を蝕んでいた手枷を割断していってしまう。

 だが、戒めから解放されたというのに、騎士たちの顔色は芳しくない。

 そして――、


「――申し訳、ございません」


「――っ」


 先陣を切ったのは『厄龍』相手にさえも啖呵を切った老将。


 彼が残した功績は数知れずであり、その手腕はそれこそかの『英雄』にさえも及ぶほどであるらしい。

 そのような存在が、土下座をする勢いで腰を折り頭を下げたのだ。

 それが王でなければ確実に卒倒していただろう。


「頭をあげたまえ、別に私は憤慨など――」


「――私が不甲斐ないばかりで、王のその御体に風穴を空けされることを許してしまいました。 それをみすみす見逃したその大罪、我が天命によって償う所存でございます。 それでもなお事足りぬのならば、家族を差し出しましょう」


「――――」


「私たちは、それだけのことをした……ッッ‼」


「――っ」


 王は、老将の鋭利な瞳に宿った凄まじい怒気に目を剥く。


 その絶大な憤慨の矛先は、一切合切の元凶である、『厄龍』や、まして裁きを下す王などではない。

 

――不甲斐ない。


 王の懐刀を名乗っていながら。

 それなのに、神聖なる領域、即ち王城へ土足で足を踏み入れる蛮行を阻止することもできずに、更には王の御身へ傷跡が刻まれるのを許容したのだ。

 成程、まさに禁忌の所業である。


 彼の怒りの矛先は、いつだってどうしようもない自分自身にあるのだ。


 先代を凌ぐ程の慧眼を持つ王だからこそ、その圧倒的な自責の念を否応なしに理解してしまうことになる。

 ならば、彼に対する判決は唯一無二。 

 そもそも、迷う必要などないのだ。


「――顔を上げろ」


















「――――」


 それは、王直々の勅命だ。


 例え偉大なる王へ合わせる顔がないとしても、しかしながらそれが王の厳命ならば、騎士として答えなければならない。

 複雑な心境で王の意思に従う老将へ、王は微笑みながらそう――、


「――君への厳罰は、これから一生私と、大勢の身を守ること。 いいね?」


「――――」


 納得など、できる筈がない。


 それでは実質無罪放免ではないのか。


 そんな甘苦しい果実のような、都合のいい未来なんて老将は欠片も期待していなかったし、なによりその判決を誰よりも許容しないのは彼自身である。


「お言葉ですが、その程度で済む程と――」


「ほう、君は王の警護、更に騎士としての宿命を下らないと、そう自ら愚弄するのか」


「――ッ!」


 突飛な意見。

 それはあまりに邪推のし過ぎであり、一般人が言い放ったのならば切り捨て御免とされても可笑しくはないだろう。

 今すぐ、撤回させるべきだ。


 だが、相手は王。

 王が語る言葉こそがこの世の真理なのだ。

 

 それを否定するとなると、それは叡智の申し子である王への反逆行為と、そう認識しても可笑しくはないだろう。

 実際、老将もそう受け取るだろう。

 だからこそ、声を張り上げてそれを否定することなど、到底不可能なのだ。


 だが、心の奥底では長らく担ってきたこの任務はどこか軽んじていたのも紛れのない事実であって。

 だからこそ、否定も肯定もしない、中途半端な立ち位置を維持する。


「もし、それが心の奥底から編み出された本音ならば、首にするのも一興だろう」


「――――」


 死ぬ。

 そう魂が警鐘をあげ、しかしながら理性が培った尊厳がこの場からの逃亡という必然の選択肢をい奪っていく。

 だが、直後王の口元に浮かんだのは優し気な微笑であった。

 

「――違うだろ?」


「――――」


「君たちは騎士は、魂に、剣に、私に誓ったのでないか。 ならば、果たして、それは偽りなのか?」


――理性と本能が凌ぎ合う。


 王を否定するという禁忌の所業を侵しても己を貫きとおすのか、それとも順々なる下僕と成り果てるか。

 そして、騎士は選び取る――、


「――いいえ、違います」


「――――」


 我を貫き通し、それでもなお王へ心身を捧げる覚悟を。


 そうして一世一代の決断を下した老将を一瞥し、王はふっと笑みを浮かべ、抱擁するかのように温かな声音を投げかける。


「だろうね。 なら、これからどうするべきか、わかるな」


「――無論、あの不埒者へ王国の威信を! 我ら人族を愚弄したその大罪を死を以て償わせるべきです!」


「同意見だ」


 王は、チラリと周囲の人々を一瞥する。


 すると彼と真正面から対抗していった騎士たちならばともかく、貴族や政治官の瞳には希望の光が宿った。

 心とパフォーマンスは直結する。

 故にこのような逆境こそ、人々を鼓舞するのも王としての務めだ。

 

 キッカケは与えた。

 それからどうするかは個人差にもよるが、それでも少なくとも絶望の淵に沈むようなものは存在しない――、


(否……)


 王は、すっと目を細め、静かにその有様を一瞥する。


「――――」


 常時目が死んでいるともっぱら巷で噂のエルであったが、現在は死んでいるどころか無そのものである。

 だが、それも無理がない。

 王が直々にアレストイヤの護衛に任命してから既に15年だ。


 エルとて当初は全くと言ってもいい程に心を開いてはいなかったが、その態度も徐々に軟化していって。

 人は、大事な誰かのためならば己自身さえも驚いてしまうような、比類なき力を発揮する生物である。


 そういう意図もあってアレストイヤの警護に任命したのだが、だからこそこの憔悴した様に後悔の念が浮かぶ。


 だが、その天罰を喰らうのはすべてが収束してから。


 言い方は悪いが、この非常事態にたった一人の感情程度に躍起になっていれば、到底時間が足りない。

 ならば、せめてその憤怒を矛先を提示するのも一種の贖罪か。


「――総員、聞け!」


「――――」


 そして、王はアーティファクトにより避難したこの屋敷の至る箇所に響き渡るように、凛々しく声を張り上げる。


「ご存じの通り、私たちは己を『厄龍』を呼称する不埒者に完膚無きままに叩きのめされた! 仮に彼の発言に嘘偽りがないのならば、いずれこの地にすらも『老龍』の災禍が及ぶだろう。 ――故に!」


「――――」


 考えた。

 ありとあらゆる戦局を分析し、そうして編み出した最も多数の人々が生き残る手段を、断言する。



「――不俱戴天の怨敵、魔人国へ同盟を申し入れる」



 



 見返してみたら、「と」シリーズの文字数が四万文字を超えていました。

 

 百万文字の危機! 危機ッ!」


 ……流石に、そんな暴虐、有り得ないよね! そうだよね! ……そうだよね、うん。きっとそうなんですよ


・追伸


 ちなみに、前書きの意味深なアレはエル君についての伏線です。


 色々設定は多いのに何故か露出が包帯レベルで少ないヤツです。

 多分、終盤になったら再登場します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ