表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
31/584

紡がれた約定












 今この瞬間、約定は結ばれた。


 非常に不本意なことだが、もう後戻りすることは許されないだろう。

 俺は内心で盛大にため息を吐きながらおっさんと向き合う。

 この契約は非常に合理的であることは分かる。

 そこらの貴族に聞いてもそれを知り得る人物は非常に限られているだろう。


 それを探しわけるのは余りに非合理的だ。

 信憑性云々に関してはどうとでもなる。

 問題はその情報をどのようにして得るかだった。

 だが、それもこの契約で一発解決だな。


 『賢者』の知恵は凄まじいと聞く。

 これが上の連中の世論操作だったら……我慢できるか本当に心配だ。

 くっ……!

 鎮まれ我が右腕!


「さてはて、一人茶番も飽きてきたところだし、そろそろこの護衛依頼とやらの詳細を聞きましょうか」


「おや、初めから聞いた方が良かったのでは?」


「別に。 ちょっとした気まぐれですよ」


「そうかい」


 まぁ、本当はちょっとした思惑があったんだけどね。

 

「一応言っておきますが、三百六十五日二十四時間姫さんを護衛し続けるのは無理ですよ? そこんとこ理解してくださいね」


「だろうね」


 俺には学業という若者の義務があるのだ。

 あんまりそれを放棄したくはない。

 なんせ、学校に行けば沙織に合えるのだからな!

 これに勝る幸福などこの世界において存在しないだろう。


 ただえさえ世界規模で距離が離れているんだ。

 リアルでちょっといちゃいちゃしても誰も咎めないだろう。


「その点も理解しているよ。 君たち〈ぷれいやー〉は、時間帯はバラバラながらも一日の四分の一は寝むりについていると報告書に書いてあったからね」


「……あぁ」


「? どうしたのかね?」


「いいえ、何でもないです」


 さっきも言った通り、俺達〈プレイヤー〉は不眠不休で働けるような存在ではない。

 やろうとすればそれも叶うだろうが、待っているのは寝不足による死亡ルート一択である。


 しかし、よもやそれがこんな風に解釈されるとは……

 ログアウトしたら確かに寝るけどね。

 確かに、そう考えると〈プレイヤー〉とこの世界の住民との差異はあんまり無いよね。

 つまり、その程度障害ですらないということだ。


「勤務時間は十二時間以上なら幾らでもいいよ」


「それは重畳」


 十二間かー。

 その退屈な時間に勉強でも済まそうかと考える俺。 

 しっかし、十二時間も年頃の男女が二人きりになるとはこれ如何に。

 俺のような紳士じゃなかったら即既成事実発生だ。


 ちなみに、俺は沙織一筋なので安心安全なのです。

 まさか、それすらも見通しているわけではあるまいな。

 もしそうならば戦慄せざるを得ないだろう。

 おっさん強し、である。


 それから俺たちは様々な確認事項、懸念を話し合い、そして潰し合った。

 討論(?)は深夜まで続き、ようやく解放される。

 ちなみに、この討論を経てガバルドと同じ類のペンダントを貰った。

 

 効果はそこらの貴族を言いなりにできるそうだ。

 よし、信頼に応えるべく悪用しよう♡

 だが、念には念を入れるのは致し方ないとして、この時間消費はいさか非合理が過ぎるのではないかと思わなくもない。

 

 ちなみに、収穫は余りなかった。

 もう本当に時間の無駄使いである。


「おや、もうこんな時間だね。 済まない、少し私も君も話し過ぎたようだ」


「いえ。 問題ないです」


 俺は睡眠不足故に発生した眩暈を何とか抑えながら、そう返答する。

 そして返ってきた言葉に虚をつかれることとなった。


「――では、早速娘の部屋へ行ってきたまえ」


「……もうこんな時間ですよ? 明日でも別にいいんじゃないんでしょうか」


「いいや、今直ぐ行きなさい。 どうせならできるだけ慣れておいた方が都合がいいだろう?」


「ま、まぁそうですけど……」


 渋々、俺はおっさんの言葉に従いアイテムボックスから大振りな太刀――『戒杖刀』を取り出し、武装する。

 だが、それは真っ先に咎められた。


「おっと、折角の再開なんだ。 刀なんて装備したら……台無しではないか」


「何がですか!?」


 護衛なら武装が普通でしょ!?

 正論を振りかざすが、中々おっさんは折れてくれない。

 こういう場合は立場が下の奴が仕方が無く折れるのが悲しいセオリーである。

 結局、誠に不本意だが俺は丸腰で姫さんの部屋へと向かうこととなった。


 ――が、どうやらこれで終わりではなかったようだ。


「そうだ。 今頃娘は入浴しているだろう。 絶対に、絶対に覗かないように」


「舐めんなっ」


 思わず素が出てしまった。

 いやさぁ、俺そういう変態に見える?

 俺は非難の眼差しをおっさんへ向けた。

 だが、腐っても「四血族」の生き残り。


 俺の殺気混じりの眼光もどこか吹く風である。

 本当に、このおっさんは謎だ。


「それと、娘の部屋には防音の魔法が展開されてある。 ――間違えても、()()()()()()をしないように」


「オッケー、あんたの俺への評価はよーく理解できたよ」


 し、鎮まれ俺の右腕……!

 この右腕で決して人を傷付けてはいけないのだ!

 あれ?

 左腕なら、セーフじゃない?


 ……………………。

 

 よし、これ以上無駄話が続いたらいっそ……


「――私からは以上だよ。 さぁ、愛しの姫が待っているよ」


「チッ。 それと、別に愛しのじゃないですよ」


「その舌打ちは何なのかな?」


 それと姫がこんなにも待ったのはあんたの長話のせいだよ。

 いや、待っていないのかもしれないけど。

 にしても、貴族ってこんなにも個性的なのか?

 しばらくは貴族なんかと対談したくないわー。


「――それじゃあ、今度こそ俺は行きますよ」


「ふむ。 朗報を期待しているぞ」


「…………もうツッコミませんからね」


 おかしい。

 いつもは月彦にツッコまれている俺が、何故こんなおっさんをツッコんでいるのだろう。

 おっさん強しである。


 そして俺は今度こそおっさんに踵を返したのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ