美老人と
スズシロ一家の混沌がどんどん極まっていきますね
それから、数十分後。
「――よし、これで全員だな」
「ふっ。 精々感謝して咽び泣け」
「クソ中年、戯言も大概にしろや。 脳髄引きずり出すぞ」
「おいおい、ゴキブリの方がまだ可愛げのあるような生命体が下手な冗談を吐いているじゃねえよ」
「「ア”ァ?」」
俺はは飛び舞う極限まで加圧された水滴により形成された弾丸をはんば無意識的に回避、そのまま抜刀する。
しかしながら振るわれた鋭利な刀身はガイアスが全身を液状化してしまうことにより効力を発揮しない。
(くっ……! 長期戦になりそうだな!)
温存していた余力を遺憾なく発揮し『神獣』の暴威に応戦しようと死闘を繰り広げてる光景を眺めながら、スピカ君はしみじみと呟く。
「ああ……今日も平和ですね」
「この光景を見てそれが言えるにならば頭おかしいね」
「ゆるふわ……」
「この子こんなにあどけない容姿なのに満面の笑みで執拗に相手を嬲るんだよね……」
ちなみに、敬愛する主を盛大に侮辱するという禁忌を侵してしまった包帯男の顔面は冗談抜きで昆虫さながらになっている。
どうやら俺の部下には真面な奴がいないようだ。
というか――、
「ルイーズさんや、気まずくないの」
「全然」
「一皮むけたね……」
それが良い役割を果たしているのかは知らんがな。
――そう、ルイーズさんである。
『賢者』であるメィリの存在が掻き消えたことにより新たなに『厄龍』の手先となった、ルイーズさんである。
どうも、この男は何故か感銘を受けたらしく、俺に滅ぼされる日を心待ちにしながら協力する所存らしい。
他者の精神を看破するアーティファクト使って閲覧してみたら本当に魂の奥底からそうおもってから普通にヤバい人である。
否、純然たる変態か。
で、結局のところこのショッタジジイが何を為したのかというと――、
「王城へまさかの顔パス。 分かっていたけど信用されてますなあ」
「その信頼は今や水泡に帰しているけどね」
「細かいことは気にするな」
「「「「――――(射殺せんとばかりに睥睨する周囲の人々)」」」」
「ああ、気にするだけ不毛だな」
「これだけの怨念を目の当たりにして平常運転とか、あんた本当にヤベェ人だな。 流石は『厄龍』が直々に手先にした筈だ」
「それほどでもない」
『獅子の目』やガイアスの活躍などが相まって、今や城内の人々の一切合切はこうして雁字搦めにされ、組み伏せられている。
もちろん反撃ができないように、それに用いた手かせも魔力を封じ込める特殊な品物を併用しているぞ。
閑話休題。
この男が一体全体何に尽力したのかと言うと、単純な話王城へ足を踏み入れるための鍵的な意図がある。
ルイーズ・アメリアは今や王国の誰もが周知の存在だ。
必然、その信頼も凄まじい。
流石にライムちゃん抜きで王城に侵入するのは厳しいので、開き直ってルイーズという手駒を起用したワケだ。
無論、ルイーズの謀反を察知した周囲の人々の糾弾は凄まじいモノで。
「恥を知れ、クソジジイ!」
「冥府の底で犠牲になった人々に詫びろ!」
「死ね! ホント死ね」
「アハハハハ、駄犬が騒がしいねえ」
「もうそのスルー技能一種の才能だと思うんだけどな……」
俺ですらも悪寒を発してしまうほどの殺意を、この美少年はこうものらりくらりを躱してしまうのか。
メンタルがタフとかそういう次元じゃないぞ。
やはり、先日の一件が大いに彼の根幹を変異させてしまったようだ。
「……アキラ、もうちょっと自重しよう。 俺ですら同情するようなルーツをたどったあの老人が、こうもお前色に染まるのはなんだか悲しい」
「ごめんなさい」
流石にこればかりは後悔している。
だが、反省はしていない。
そうして『獅子の目』の面々が王城内の人々の一切を回収し終わった頃。
「アキラ様、チェック済みの人員は全員回収致しました。 アキラ様に歯向かったのですから、全員死刑で宜しいですね」
「う、うーん、ちょっと待とうか。 彼らにも色々とやってもらわなくちゃいけないこともあるから、それはちょっとね……」
「そうですよね! 無闇な殺傷なんて唾棄すべき蛮行ですよね!」
「スゴイ掌返しだね」
滝のように汗を流しながら、先刻までの意見とは真逆の発言を堂々と発するスピカ君に俺は渋い顔をせざるを得ない。
と、そんな俺の方を優し気に叩く感触が。
「――アキラ、もっと自重しよう。 これ以上頭がおかしい面々に囲まれたら、俺の魂が破滅してしまう」
「スンマセンでした」
こればかりは同感ではある。
兄狂いの妹、自殺願望者な元四血族、笑顔で死骸を嬲るショッタ……。
成程、このラインナップではガイアスでなくとも即座に発狂するような悪夢的な光景と成り果てるだろう。
今度から、もう少し人選を考慮しようと固く誓った瞬間である。
「……茶番ですか?」
「ん? そういうの、嫌い?」
「いいえ、このような鬼気迫った環境でなければそれなりに好きですよ、私は」
「そっかそっか! なら精一杯楽しめるね!」
「あなたもしかして難聴ですか?」
「うーんスピカ君、ちょっとこの無礼な女どうしようかなあ?」
「絶え間もなく治癒魔術をかけながら、その腸をチェーンソーで切り裂き、己の臓腑が潰される光景を眼球が破砕しても脳裏に浮かぶ程に焼き付けてしまえばいいんだと思います!
即答である。
「うん、放置で」
「はいです~」
「ひっ」
ちらりとスピカ君がアレストイヤちゃんを一瞥した瞬間、彼女の方が盛大に揺れる光景は中々に愉快である。
というか、どうしてこの子はあれほど残虐な内容をスラスラと淀みなく即答できてしまうのだろう。
誰の影響かなあ……(遠い目)。
「ガイアス、保育園経験は?」
「アキラ、頼むからこの幼児と俺を関わらせないでくれ!」
というか、今更ながらこの子たち見た目だけはあどけない少年少女なんだね。
なお、その精神に関しては知らぬ。
きっとガイアスが彼らを更生させるために奮闘すれば、心労で某白カ●キみたいなヘアスタイルになるだろう。
「あれ……それってハッピーな光景なような……」
「――ッッ‼(無言で逃走)」
チッ。




