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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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怪人と


 まさかの再登場。


 色々と設定は多いのに何故か露出の少ない包帯野郎です。














「――『風流』」


「ふむ……」


 溢れ出す魔力に呼応して体が脊髄反射で対応し、頭部を刈り取ろうとした一閃を屈むことによりそつなく回避。

 ヴァン家令嬢の保有魔術のうち一つは『風』か。 

 だが、相伝魔術に極端に特化しているからか熟練度はお粗末だな。


 無論、それは逆説的に極みあげられたその魔術は十分以上に脅威ちなってしまうワケで。


「――『清罪』」


「――ッ」


 激痛。

 到底そのような言葉では言い表せないような苦痛が耐え間もなく俺を苛む。

 しかもタイミングを見計らっているからか、踏み込んだ直後に蝕んできやっがたので、実に中途半端な体制で硬直。

 

 無論、その無防備を逃がすワケがない。


「――『嵐針』」


「くっ、中級レベル……余力かくしていやがったな!?」


「御名答です」


 詠唱に呼応して鋭利な風流により圧縮された弾丸が俺の脳天を撃ち抜いてしまおうと飛翔していった。

 回避は無理。

 ならば、残る対抗手段は迎撃は放置の二種。


 無論後者は論外。

 消去法で俺がとるべき方策はたった一つということになってしまう。


「――蒼海乱式・『蒼穿』ッ」


「――――」


 そして、なけなしの魔力を振り絞って虚空に水滴を生成、拙い手並みでそれを圧迫し、射出していく。

 間一髪で『嵐針』が俺の脳髄を引きずり回す寸前に誤差なく発射されたその弾丸が迎え入れ、互いの勢いを殺し合った。


「……変ですね」


「ああ? 何がだよ」


 現在、ヴァン家令嬢の周囲には有事の際に駆け付ける筈の騎士も、その他諸々の存在も『獅子の目』やガイアスたちの尽力により不在だ。

 俺の現状だと、一対一でしか勝算がないからな。

 歯痒いが、それでも紙一重の接戦を繰り広げるしかないか。

 

 そう結論づけている俺へ、不意に疑問符を浮かべたように心底不思議そうに首を傾げるヴァン家の令嬢が問いかける。


「つかぬことをおうかがいしますが、あなた分身か何かですか?」


「どうしてそう?」


「――技巧と、純粋な力量がかみ合っていない」


「――――」


「あなたの魔術展開技術は、ルシファルス家当主程ではないにせよ、中々の品物。 ですが、それにしてはあまりに魔力が少ない」


「……風邪でな」


「それはそれは」


「――――」


(ちっ……目聡いな)


 伊達に四血族の一角を統治する者じゃないな。

 その慧眼は、容易く俺が不本意ながらも分身体という理由により本調子が発揮できないことを看破されてしまったらしい。

 無論、ハッタリはかましている。


 だが、それもどこまで効力を発揮するかどうか。


 あんまり期待しない方が賢明であることは確かだな。


 そう嘆息しながら、俺は消耗した魔力を自然的に補充するべく、とりあえずは時間を稼ごうとしていった。
















 不意に、澄み渡った声音により問いかけられる。


「……できることなら、本体のあなたを観察したかったのですがね」


「今観察っていったよな! 絶対、俺のことモルモット以上に認識していないじゃないですかあ~!」


 まあ、俺も人の事も言えないが。


「おっと、これは失敬。 ついつい口が滑りましたね」


「そいつは結構なことだな。 なんならその失言を謝辞するついでに辞任でもして、もうちょっと柔軟になればいいんじゃないのか?」


「おや、それでは今の私はそうではないと?」


「そりゃあそうだろ。 ――お前、一度でもこんな下らない戦乱をしたいなんて、そう思ったことはあるのか?」


「――――」


 押し黙るヴァン家の令嬢へ向けて、俺は中々に挑発的な嘲笑を浮かべながら、彼女の内心を指摘する。


「お前は心の奥底では花を愛でるような、そんなどこにでもいる少女になりたかったなんていう、下らない悔恨を抱いているだろう?」


「――。 何を根拠に」


「一応言っておくが、根拠なんてないぞ。 ただただ直感。 でも、実をいうと俺の直感ってだいだい必中するんだよなあ」


「――――」


 この慧眼には長らく悩まされていたが、今この瞬間のように相手を当惑される目的に用いれば天下無双である。

 他者を弄ぶのはまさに俺の領分だ。

 あわよくば盛大に隙でも垣間見せて欲しいなんて思ってもいる。


「お前はただただ、周囲に推し進められることを何の疑いもなく率先と実行しているだけの、マリオネットだと思うんだけどなあ」


「……戯言を」


「ふーん。 そう断じるのなら、そうすれば?」


「――――」


「しっかし、案外その経歴に似合わない願望を抱いているじゃないか。 いやー、流石に堅苦しい軍人キャラだったら失望していたわー」


「……黙って、くれませんか」


「うーん? 掠れていて聞き取れましぇーん! もっと俺にも聞こえるように声を張り上げようっか?」


「――黙れ」


「ハッ」


 直後垣間見せたヴァン家令嬢の瞳は、激情を押さえているからか、機械さながらに冷え切っていた。

 今や丁寧語も忘却している。


 己を押し殺す輩は基本的にベールに包まれていたはずのその内心を暴露されると、いっそ滑稽な程に動揺すると相場が決まっているのだ。

 そこら辺の心理はある程度熟知している。

 無論、この後の行動も。


「――『嵐針』」


「はい、阿呆の一つ覚えありがとうございます!」


 直線で俺という心底忌々しき存在を穿とうと、圧迫された弾丸が、凄まじい速度で発射されていく。

 そう、直線で、

 こいつの技量ならば軌道程度、自由自在に操作できるというのに。


(やっぱ挑発がそれ相応に効いたか)


 だが、懸念はある。


 それはこの動揺自体がこの少女なりの迫真の演技という可能性の存在という、いささか荒唐無稽な話である。

 確かにそれが的を射ている可能性は限りなく低いが、それを考慮しておいて後悔することはないだろう。


 懸念は、多ければ多い程上出来だ。

 別に嫌な可能性が無数に存在すること自体がハッピーなこととは到底表明するつもりないが、それでもイレギュラーな事態に瞠目し対応が遅れるよりかはいくらかはマシである。

 

 油断も、慢心もない。


「――さて、喜劇と洒落込もうか」


 そして、そう小さく呟く俺は――、



「――残念、それは叶わないぞ、愚民」



 直後、死角から突如として出現した全身を包帯により包んだ怪人が無作為に放ったモーニングスターの鎖が俺の首筋を絡めとった。



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