目玉の知人
今日全リア充滅びないかな
「人違いです」
俺に目玉の知人は居ない。
というか、なんで目玉が喋ってるんだ?
確かに、異形の姿形でありながら対話かのうな生物だって偶にはいる。
だが、目玉はとてもじゃないが見たことない。
某鬼●郎の世界観と見紛うのも不思議ではない話だ。
「先輩、落ち着いてください」
「ついさっきまで某ひぐ〇しのヒロインみたいな台詞をほざいていた奴の一言じゃねえと思うぞ、オイ」
「ご、誤解です! これには事情があって……」
こ、この手腕!
もしかして、これはオレオレ詐欺なのでは?
この目玉は俺を騙し、そして金を巻き上げようと企んでいるかもしれないというあまりに突拍子もない考えが突如として現れる。
「……成程。 遠隔操作か」
「えっ? ガイアスまた分かったの? 今度はお預けじゃないよね? 俺としてはそれはそれでゾクゾクするからどっちでもいいけど」
「それでいいのかお前は」
いいんだよ(真顔)。
「魔力がかなり遠くにまで繋がっている。 余程奇妙な能力でも持って居ないかぎり十中八九、遠隔操作……いわゆる召喚術式の延長線上だ」
「あぁ」
その言葉に俺は納得する。
確かに、システムにはそんなのもあったな。
俺はバリバリの近接タイプだからそこまで詳しくはないが、確か召喚魔法に使役した魔獣を遠隔から操作できるスキルがあったはずだ。
なるほど、確かにそれなら俺がこの目玉と知り合いな可能性も生まれるわけだ。
というか、
「月彦だよな、お前」
「やっと分かってくれましたか! いい加減、そろそろその憎たらしい顔面殴って分からせようとしていたんですが、どうやら杞憂だったようですね先輩!」
眼球に表情もクソもないというのに、どうして月彦の満面の笑みが思い浮かんでしまうのだろう。
「お前俺のこと先輩って呼びながら全然尊敬してねぇだろ」
「だって尊敬してませんからね!」
「正直でなにより。潰してやろうか?」
月彦は生徒会の書記を担当している一年だ。
当然、仮にとはいえ生徒会長である俺とはそこそこ縁がある後輩だ。
良く言えば普通、悪く言えば平凡。
だが、生徒会に入っただけあって本人のスペックも見劣らない程度にはあり、俺もちょくちょく頼っている。
しかし、彼女を頼る度に軽蔑されるのは何故だろうか。
「……知り合いか?」
「あぁ。 ちょっとした腐れ縁ってやつだ」
「その台詞、僕が言いたいですよ」
「というか、その目玉どうやって喋ってるの?」
「ふむ、微弱な魔力で周囲の空気を振動させ、疑似的だがしっかりと声を作りだしているようだな。 実に興味深い」
「あんたには聞いてないんだけど」
まぁ、正解を知れたから良いんだけどね。
「それはそうと、そもそもなんでお前がこんなところに? というかお前はここがどこか知ってんのか?」
「多分、僕も先輩と同じくあの遺跡に入ったら突然ここに飛ばされました。それと、僕もここについて多くは知りません。ただ、一つだけ認め難いんですが、あることだけはしっかりと理解しました」
「……それは?」
一拍置いて、目玉もとい月彦が言い放つ。
「――ここは、異世界です」
「うん、知ってた」
「はっ?」
当然、目玉に表情なんて概念は存在しない。
そんなの赤子でも理解できる自明の理だ。
だが、異形に詳しくない俺ですら月彦の動揺と驚愕がしっかりと伝わってくる。
「そもそも、俺たちは異世界を目指してあのダンジョンに来たんだからな」
「風邪の噂が事実だった……無論、此処が異世界ではなうという可能性は常日頃存在する。たとえば新エリアなだけだとか」
「気分でそういうこと言ったっていいだろ」
「ハッ」
というか、真面目な話どうしてこうなったんだろう。
俺は掲示板に記載されていた情報をガイアスにも共有しながら、考察を徐々に組み立てていく。
「規則性は……ないな」
「多分、何らかの原因で空間やら時空やらが歪んで、異世界へ吹き飛ばされると思うな。 仮に……この現象を「ゲート」と呼称することにしよう。 十中八九、ルインの『神威システム』とやらの計らいだろう」
「…………」
「ちょっと、勝手に話を進めないでくれません?」
当然、無視だ。
今はゆっくりと考えたいから黙ってくれ、後輩。
かつて、沙織もこれと同じような現象に遭遇したことがあるらしい。
そして行き着いた世界は荒涼とした大地。
とてもじゃないが、この世界とは異なっている。
本人からも「違う」と念を押された。
つまり、「ゲート」が繋ぐ世界は一つじゃない。
もしかしたら、沙織が見てきた過去に登場した、あのネズミとやらが関係しているのかもしれない。
例のネズミの能力は「転移」。
魔力さえあれば、世界すらも超えることが可能な魔術だ。
偶然かもしれないが、その可能性を放置するのは愚策だろう。
しかし、分からないのがルインの思惑だ。
「ゲート」に一体どのようなルインのリミットが存在するのか。
幾ら考えてもやはり不明だ。
「……一体何が目的なのやら」
「やはり、情報が少なすぎるな」
「同意」
ガイアスの言う通りだ。
俺が確認できた「ゲート」現象は月彦を含めてたった四ケース。
これだけではとてもじゃないが真相にたどり着くことは至難の業だろう。
とりあえず、今は一旦諦めるか。
「そういえば、月彦。 お前なんでこんなところに? この高原、魔獣とかいねぇし平和だろ? なんで哨戒なんてしてるんだ?」
あの魔獣、クソ雑魚故に気配が悟りづらかった。
月彦本人ではないってことは、おそらく索敵だろう。
「あ、スミマセン。 言い忘れていましたね。 今、戦争してるんですよ」
「えっ」