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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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提案と


 ……いつのまに、一話二千五百文字が定着しているんですよね。


 今回の文字数、三千文字強なんですよね。

 ……頑張れ私(現実逃避)














「――。 つまんな」


「言うな。 気が滅入る」


 俺は乱雑に爆薬を投擲し、虚空により点火した瞬間、盛大な爆音を木霊させて粉塵と共に失神する騎士たちが量産される。

 容易だ。

 ライムちゃん製爆薬は彼女の暇つぶし故か腐るほど在庫は残っている。


 現状、この程度の力量の者が相手ならば容易に王城を陥落させることが可能である。

 だからこそ――納得できない。


「はいはい。 ……うん、弱すぎるからこそ違和感しかないんだけどね」


「――――」


「可笑しいと思わない? 数十分前まではライムちゃん印の火薬でも倒れない猛者だっていたのに、今じゃあ一撃で気絶だ」


「――――」


「……やっぱ、油断させておいて一網打尽っていう線が濃厚だな」


「……癪だが同意する。 明らかに、これは脆弱すぎる。 噂に聞く騎士団ならばもっと華々しい活躍をするだろうな」


「同意~」


 生じた違和感に眉をひそめる俺たち。


 そうしている間にも絶え間もなく投入されていった騎士たちが部下やガイアスの手によって一蹴されてしまう。

 確かに、『獅子の目』や『蒼梟』は規格外だ。


 だが、それでも神獣に関しては殺傷能力を極限まで低減させるため未だ本領発揮とは言い難い状況。

 更に『獅子の目』は諜報に特化した舞台だ。

 こうも容易に奇襲を用いらないで無双できる現状が破綻しているのである。


 一旦強力な戦力を集中させ、そ暇を作り出すためのこのお粗末な采配。


 これも先刻まで殺人という大罪で手を汚さなかったからの対応であるだろうし、というか多分そうじゃなくてもあの指揮官ならば対応は変わらない。

 そうして死力を尽くし会得した暇を戦力集中に削ぐか。

 問題は、そのタイミング。


「ガイアス、魔力は探れないか?」


「……無理だ。 それ防止専用のアーティファクトを張っている。 それこそ、俺の感知能力さえも上回るレベルで」


「……ルシファルス家か」


 言うまでもなく『神獣』の手腕は隔絶したモノ。


 だが、その彼でさえも察知できない程の障壁。

 それだけの魔術を展開できるような相手がこの世界にそうそういるとしか思えないし。そもそもアーティファクト関連はいつだってあの名家が起因している。


「ほんと、厄介だわ」


「……本当にな」


「――? お前、なんでそんなに不機嫌そうなの?」


「なんでもいいだろ? というか、お前もいい加減気が付け……ああ、そういえばまだ知らないんだったな」


「だから何を――」


「お前が知るべきことではないという確固たる情報だけは提示してやろう」


「話す気概皆無! そんなに信頼してないの?」


「この世に『厄龍』に肩を預けるような阿呆は存在すると思うか?」


「うぼっ」


 『厄龍』へ例えられることに対して魂が拒絶したのか、唐突に嘔吐感が込み上げ、寸前のところでそれを堪える。

 『厄龍』こそ害悪の象徴。

 あるいはこの世界の悪性腫瘍ともいえる存在である。


 そんなヤツに比喩され、絶賛傷心中。


 まあ、ルシファルス家諸々の情報はともかく。


「――階段だな。 誰を突き落とそうか」


「スズシロ、今すぐ俺の周囲半径数十キロまで離脱しろ。 さもないと殺すぞ」


「ちょ、別に憎たらしい比喩にキレた訳じゃないんだからね! 本当なんだからね! とりあえず、前方は任せる!」


「はて、それならば俺の背中は誰に……」


 こいつはどうしてこんな些事に懊悩しているのだろうか。


「もちろん俺だ。 安心しろ。 ゴキブリだと思って無視してくれ」


「無視できないから跡形もなく潰していいか」


「ごめん、もうそれ以上はギャグ漫画みたいになっちゃう」


 莫大な物量に文字通り押し潰される俺。


 しょうがない、背後を譲るのは忍びないが、これ以上やつの機嫌を損なうのも愚策であるな。


「俺は卑怯な小手先技なんて使わない。 真正面から押し倒すんだあ」


「お前はもう帰ってろ」


 酷い言いぐさである。


 とりあえず互いの前方後方は囲うように配置されていった『獅子の目』が務めるようにし、俺たちは淡々と進んでいく。

 一歩、また一歩。

 周囲の喧騒は依然として納まる兆しは見えないが、どうもこの吹き抜けだけは場違いな静粛が纏っている気がする。


 そうした不気味な階段に多少なりとも警戒しつつ、上階への移動手段がここしか存在しないという由縁で足を進めていく。

 そして、数百は続く螺旋階段を目測で中段程度にまで進んでいったその時。


「――『清罪』」


 刹那、鈴を転がしたかのような澄み渡った声音と共に、耐え難い苦痛が全身を木霊していったのだった。
















――『浄罪』

 

 噂には、聞いていた。


 なんでも術式を付与した対象がこれまで積み上げていった屍の数に比例して、絶え間もなく激痛が襲い掛かってくるらしい。

 現状、俺という存在の根本は無闇な殺傷などを行っていない。

 だが、本体は?


 そして仮に、贖罪の適用項目に、殺人意外にも細やかな罪状などが、補足されていたのだとしたら?


 結果は、必然。


「――くはっ」


「――? スズシロ?」


 反響した声音を不審に思いつつ、振り返ったガイアスは次の瞬間盛大にその瞳を見開くこととなった。


――なにせ、苦痛など知らないと、そういう風体で捉えていた俺がこうも盛大に激痛により崩れ落ちるなんて。


 痛い。

 そんな安易な語彙では到底表現できないような、いっそのこと心地よく快楽のように感じてしまうような苦痛が体に染みわたる。

 それは、俺たちを取り囲んでいた『獅子の目』の面々も例外ではない。

 

 鋼の意思で何とか立ち上がってこそいるが、鉄仮面のようだったその容貌が苦痛により歪まされること自体がある種の奇跡のようなモノ。

 しかしながらガイアスだって例外ではない筈なのだが、しかしながら彼はただ驚愕し瞠目するばかりで一向に多大な痛覚に苛まれる気配はない。


――靴音。


「――ッ。 総員ッ、最低限自己を防衛できる程度に気を配っておいてっ。 俺のことはこの際どうでもいい」


「――委細、承知」


 響き渡る硬質な音源に目を鋭く細めつつ、とりあえずは自分自身の落命を死守する程度の配置をさせる。

 そうして、内野の情操は万全とは言い難いものの、ある程度は整ったといえるだろう。

 問題は――、


「――アレストイヤ・ヴァン」


「おや? 私の名をご存じで?」


「あったり前だろ? ちょっと目を通したくらいなんだけど、やっぱり凄ぇなあんたらの魔術。 俺でさえ正気を保つのでやっとた」


――悠々と歩み寄る華奢な令嬢、彼女への対応である。


 しかも足音からして雑魚兵を代償に集束させた精鋭たちが、群れをなして今か今かと待ち構えている情景がありありと浮かぶ。

 この状況で、ガイアス以外に真面な戦闘は不可能。

 とりあえず、話は聞いてやるか。


「――で? 何の用?」


「不埒な侵入者の撃退。 それに勝る理由が存在するというお考えで?」


「そういうこったあ。 ――今が千載一遇の好機だろ? 見ての通り俺たちはかつてない程の窮地に立たされている。 これだけに有利な状況で、どうして上に待機させている軍兵を動かないのかな?」


「――。 お見事」


 彼女の真意が俺たちを蹂躙するのならば、こちらとしてもガイアスをけしかける程度で済んでいただろう。

 だが、この女はそうではない行動をとった。

 話を一蹴するのはその真意を推し量ってからである。


「……テロリストとのお話合いは禁忌の所業っていう常識、この世界にも通用するんだっけ」


「テロリストなる単語の意味合いは理解しかねますが、言いたいことは何と無しに理解できますよ。 無論、それは自明の理と化していますよ?」


「安心したわ。 ――じゃあ、一体全体俺たちに何の用があるんだよ」


「いえいえ、私たちはただただ提案しにきただけです」


「提案? この戦況でそれは脅迫の聞き間違いかなあ?」


「――。 違いない」


「認めるのかよ」


 もうちょっ腹芸しろよ。

 そうツッコむ気力さえ沸き上がる激痛の前にねじ伏せられ、俺は渋々ながらも相手の声音に耳を澄ませる。

 そして――傲然と、少女は告げる。


「――王国の剣となる気はありませんか?」


「――くっだらねえな」


――聞くに堪えない不毛な提案を。


 そして俺は聞く価値皆無と判断し、悠然と佇むその可憐な令嬢へ容赦情けなく爆薬を放り投げていった。



 

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