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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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閑話・四血族当主の当惑


 三人称ですよ!













――脳内をけたましく警鐘が木霊する。


「――。 第二関門の首尾は?」


「未だ突破にまでは至っておりませんが、既に第一関門が制圧されている現状から、それは時間の問題でしょう……」


「――――」


 その朗報とは到底形容できぬ情報の補足に、「報告感謝しますわ」と令嬢風の少女――アレストイヤは謝辞を投げつつ、理不尽な現状に歯噛みする。

 事の発端は数刻前の事。


――報告! 無粋にも尊しこの王城へ土足で足を踏み入れる輩が確認されました!


 本来ならば、今回ヴァン家の現当主であるアレストイヤが神聖なるこの王城へ足を運んだのは資料整理のため。

 だが、この瞬間アレストイヤの政治官としての使命は、戦士たちを鼓舞し、勝利へ導く指揮官へと鞍替えすることとなった。


 だが――、


「……戦局は、芳しくないようですね」


「――――」


 そもそも、だ。


 無謀にも今日この日まで王の安息が保たれてきたこの絶対領域へ一歩でも足を踏み入れること自体が自殺行為に等しい。

 実行者は余程の死にたがりか、それとも狂人の類。

 当初は、その程度の自覚しかなかった。


 だが、眼前に広がる満身創痍ともいえる戦局を凝視してもなおその意見を曲げない者など存在するのだろうか。


「……嬢、俺が直接迎撃に向かった方が得策だと思いますよ」


「今は勤務中ですから嬢という呼称がご遠慮願えますか。 ……今は状況を見極めるのが先決です。 こんなところで失うワケにはいかない」


「――――」


「皮肉にも彼らは現状死者を出すような手荒な真似はしておりません。 その法則がいつ捻じ曲がるかは知りませんが、今はまだ大丈夫でしょう」


「――。 だが」


「エルは『目』のアーティファクトで相手の力量を見定めてくださいまし。 その慧眼に全てがかかっていますよ」


「――。 承知」


 心配そうに問いかけるアレストイヤ直属の騎士――エルはその淀んだ瞳を瞼の裏に隠し、静かに瞑目する。

 王城には所々『目』と呼ばれるアーティファクトが設置されている。

 現在エルは散らばった『目』の一切合切と視界をリンクしているのだ。


(……我が騎士ながら、優秀ですね)


 無論、一切の『目』と視界を共有すると脳が許容限界を遥かに上回ってしまうので、リンクするモノは限られている。

 だがそれでも視覚を共有する『目』は数十にも及ぶ。


 それらを集中する程度で余すことなく把握するエルの手腕に感服しつつ、アレストイヤの思考が再度白熱する。


(しかし……本当に何者ですの、この侵入者たち)


 人数は精々十数人。

 しかしながら少数ながらも彼らの手腕はそれこそ騎士団長さえも遅れを取りそうな領域にまで到達していた。

 もちろん、神聖なるこの城へ在籍する傭兵が並大抵の者な筈がない。


 今回のような万が一の場合を想定し、この王城にはおよそ数百人体制で常に頑強な兵士や騎士たちが守護しているのだ。

 故に、その突破は至難の業。

 否、それこそ不可能とさえ形容できるであろう。


「――――」


 だが、たかだか数十名程度の侵入者は、片手間で襲い掛かる騎士たちを一蹴し、あまつさえ致命傷を負わせずに失神などの手段で。

 そうして容易に薙ぎ倒されえてしまった屈強な騎士たちは既にもう半数以上が戦闘不可能な状態と化しているらしい。


 しかも、エル曰くまだ一片たりとも本気を垣間見せることはなく、余力を確実に隠している状態での凶行だという。


 狂気の沙汰だ。


 何故、それだけの圧倒的な力量を持ち合わせておきながら、それを王国の剣として振るわないのか。

 彼らの実力――主格と思われる長身の中年の実力に関しては、それこそ騎士団長さえも敗北を期す程の実力である。


 それだけの実力者ならば容易に山のように富を築くことが可能であるのにも関わらず、何故このような沙汰を。


「……惜しい」


 彼らという戦力が人族に加われば、容易に不倶戴天の宿敵、魔人族との拮抗が容易に崩れてしまうだろう。

 引き入れたいというのが邪推される可能性を無視して告げられたアレストイヤの偽りなき本音である。


 だが、問題はその手段。


(……状況が変動した場合を考慮せずに判断すると、現状彼らは使者を一人たりとも出していない。  せいぜい器物損害、不法侵入、また殺人未遂程度の罪状)

 

 王城への不法侵入や、数多の騎士たちを平和的に再起不能にしたその罪状は、それこそ死刑となっても可笑しくはないだろう。

 だが、それでも死人が出現する気配はない。

 その姿勢からある程度の目的は理解できる。


(……無血主義なのか、それともあくまで穏便に交渉でもしに来たのか)


 このご時世、前者はそれこそ眉唾話。

 ならば最も有力な候補は消去法で後者となる。

 だが、問題はその交渉とやらの概要であり、仮にそれが夢物語などであれば流石に応じるわけにはいかないだろう。


 そもそも、テロリストとの脅迫は愚行の極み。


 故に彼らの願望を聞き入れるつもりは毛頭ない。

 だが――、


(今ここでそれを無下にし面倒な局面になることは避けたい。 ……ならば、『誓約』を利用した罠が最適ですね)


 彼らの手腕から魔術の局地へ到達していないという可能性は皆無であろう。


 ならば、魂レベルで約定を履行させる『誓約』の魔術が最適解。

 指針が定まってしまえば、後は話が早い。

 最強の矛となるこの詭弁は常備しており、そして矛となる誰よりも頼れる騎士は眼前に佇んでいるのだ。


 凄まじい速度で思考を巡らし、プランを模索する。


 そして――、


「――エル。 護衛は任しましたよ」


「……一応聞きますが、何処へ?」


「無論、阿鼻叫喚と化している戦場ですわ。 推し量るに彼らは私たちとお話をしに来たようです。 ならば、その要求に従った方が得策でしょう」


「御身は?」


「民が蹂躙されているのにも関わらず、この私が何故重い腰を上げないと?」


「――。 委細承知」


「いい返事ですわ」


 この鬱病気味な騎士との付き合いも長い。


 それこそ物心がつくまえから彼はすぐ傍らにいて、心底どうでもいいような脅威に対しても主を死守しろうと過敏に反応していた。

 それは忠誠心故か、それとも親愛の類の情からか。

 真意は依然として不明である。


 だが、『四血族』の一角ヴァン家の現当主は、そのような些事を気にと留めるようなことはしない。

 ただ、背中を守ってくれる。

 それだけで、十分。


「――それでは、参りましょうか」


「どこまでも」


 そして、言葉さえも不要な程の信頼によって結ばれていった二人の主徒は、各々の修羅場へと向かっていったのだった。













「――如何いたしましょうか」


「うん、臨機応変な対応を期待しているよ。 あくまで、君は君を演じるといい。 今ここで露見すると非常に困るからね」


「承知」


「そういえば、『龍』は?」


「既に、封印は掻き消させたかと」


「ふむ……やはり、向こうも抵抗するか」


「……お言葉ですが、貴方様は向かわないのですか?」


「いや、僕は僕で面倒な事情がある。 理解してくれ」


「――。 委細承知」




 

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