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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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扇動の秘訣


 秘訣って言う程でもないですね!













 王城。


 それは、本来ならば微弱な吐息さえも轟音とさえ思えてしまう程に静粛がどこまでも反響する空間である。

 その場に勤務する者一切合切がそれこそ単身で国を動かせる程の権力者。

 傭兵さえも一部とはいえ魔術を会得している。


 無論、この煌びやかな城へ足を踏み入れることができる者は相当に限られているのは自明の理である。


 例えば、重鎮。

 例えば、ガバルドなどを筆頭とする騎士団上層部。

 例えば、政界を牛耳るトップ。

 例えは――王。


 そんな、庶民禁制の絶対領域は今――、


「賊だ、賊が出たぞ!」


「傭兵っ。 傭兵はどこだ!?」


「非戦闘員は速やかに避難室に退避――なっ、『転移』のアーティファクトが使用できない!? クソッ、賊共の手引きかっ」


「騎士団長、団長はどこに居る!?」


「と、とりあえず貴族の方々な速やかにご避難をっ」


「ひっ」


――未だかつてない程の騒乱によって満たされていた。


「アッハッハ、ナニコレ気持ち――い!」


「――『捉腕』。 ――『穿龍』」


「対象を拘束」


 俺は無闇矢鱈にメイドインライムちゃんの爆薬を破裂させていく。


 空を舞い踊るその火薬が点火した瞬間、盛大な爆音を伴って周囲を取り囲もうとする人々を薙ぎ倒す。

 無論、このような場で死者を出すわけにはいかない。

 その数字は好感度に反比例する。


 なのでこの爆薬は派手でこそあるものの、しかしながら殺傷能力自体は無く、大抵は気絶させる程度の効力しか保有していない。

 だが、それでもその強制力は流石はライムちゃん印。

 容易に屈強な傭兵を吹き飛ばし失神させるその火薬に感服したり。


「――『絡捉』」


「前から思ったんだけど、『蒼海』って本当に便利だよね」


「ふっ。 お前のような初心者にはまだまだ届かない技術だぞ」


「羨望くらいさせろやい」


 この男はこうも無慈悲に俺の幻想を打ち砕いてしまうのか。


 ちなみにガイアスは虚空に大量の水滴を生成し、それを盾のように利用しつつも鞭のようにしならせその寝首を絡めとる。

 軽い刺激に頑強な衛兵の意識は暗転。 

 その手慣れた手並みに畏怖を隠しきれない。


「……しっかし意外だわ。 お前がこんな悪事に関与するだなんて」


「ハッ。 俺だってできればこのような荒業、やりたくなかった。 だがこの結果多くの人々が救われるのならばこの程度、安いモノよ」


「もしかしたら、それで万事解決ってことにもならないかもだよ?」


「……お前はどうして自分から信用を下げようとするんだよ。 まあそれに関しては杞憂だと思うがな」


「――? どういう意味?」


 不可解な物言いに首を傾げつつ、さりげなく爆薬を無造作に投げ捨てた直後、爆風を伴った轟音が木霊する。


「これでも共存関係。 ある程度は思考は読める」


「へえ。 リスクはどうなったの?」


「流石にやむを得ないと判断したまで。 確かにお前の魂に触れると発狂するリスクはあるだろうが、俺もその手の耐性は高いぞ」


「ふーん」


「――――」

 

 心底どうでもいいとばかりに鼻糞をほじる俺の頬を、何故か照準の狂った水弾が掠めていった気がする。
















――時は、少々遡る。


「――それで、クーデターとは?」


「――誇示」


「は?」


「は?じゃくて。 目的だよ目的」


「成程。 さては貴様俺に説明する気皆無か」


「オッケー、お前の要求は聞き入れるからこそ、真顔で無駄に芸術的な龍を生成しないでもらいたい」


 容量を得ない俺の発言に「さっさと説明しろやクソカス」とばかりに冷徹な眼差しで見下ろすガイアス。

 ちなみにその片腕を起点として圧倒的な隔絶した威厳を無言で主張する水龍という強大な存在が渦を巻いている。

 

 つまること、言及しないのなら殺す。

 そういうことらしい。


「こ、この殺人ヴヴォ」


「ハッ」


 殺人鬼と悪罵しようとした瞬間顔面を嚙み千切られそうになり、寸前のところで瀕死の重傷を負い帰還する。

 

「アーク君、お願いできる?」


「委細承知」


 ああ、温かな陽光が……


「スズシロ、慈母が如き晴々とした顔で殺意しかこもっていない短刀を投擲しないでくれるか?」


「チッ。 悟りを開いたフリは失策か……」


「あっ、演じてたのか」


 人間はどこまで無邪気に殺人行為を成せるのかという単純明快な実験である。


 閑話休題。


「まあ、詳しく言及すると、俺がクーデターを行う理由の一つとしてはキッカケの一つとなるであろう『王』を押さえるためだ」


「……確かに、王以上に扇動に関しての適任者は存在しないな」


「そういうこと」


 王とは、即ち絶大な権威を誇る者の総称。


 無論その信頼は得体の知れない俺なんかより数段、否もはや天と地ほどの差異がどうしても生じていってしまう。

 その結論に達したからこそ本体もああいう行動に打って出たわけだ。

 体は分裂しても、どうやら思考回路自体は左程変動しないらしい。


「で? 一つ目ってことは複数形。 最低でもあと一つは由縁があるのだろう?」


「おっ、察しが良くて助かる~。 言ったじゃないか、誇示行為だ」


「――――」


 押し黙るガイアスへ、俺は薄い笑みを浮かべながら語る。


「――なあ、人々が一致団結できる方策って、なんだと思う?」


「……暴君?」


「まあ、そういう意見もあるけど俺にとっちゃあ0点、更に言うとそれ以下。 独裁主義なんて面倒ごとのオンパレードさ」


「――――」


 まあ、それでも時にはそれが猛威を振るう局面だって存在はするはするのだが、それは断じて今ではない。

 人々が手を取り合う秘訣は、二つある。

 一つはガイアスの回答、つまること独製者による厳命だ。


 そしてもう一つは――、


「――共通の敵をつくる。 月並みにありきたりな手段だとは思うんだけど、シンプル程厄介極まりないモノはないでしょ」


「……成程な」


「おっ」


 「はあ……」と嘆息するガイアスは、俺をちらりと一瞥しながら語る。


「つまり――お前は『厄龍』、またはそれに代わる存在を共通の怨敵ということにしようっていう魂胆か」


「理解した?」


「ああ、否応なしにな」


 仮に、だ。

 人族と魔人族とのいがみ合いにを裏で意のままに操る存在が仄めかされ、不信感募るその状況の中で何かしらの異常事態が起こったら。

 

――一体、彼らの刃の矛先は誰に向かうんだろうなあ


「さて――まずは第一段階だ」


 

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