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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
四章・「カラミーラの約定」
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目を逸らし合って、また見つめ合って
















――そして、世界から『それ』が消失する。


 それは、まるで最初から存在しなかったように。

 

「――――」


 世界から掻き消されたそれは、完膚無きままにそれに関連する情報を例外を除き『輪廻システム』が削除していく。

 一斉に移り変わっていく世界。

 そんな中、美老人は静かに、神々へと祈りを捧げるようにしてその瞼を――、


「――ッ!」


「ふぁっ!?」


 閉じようとした瞬間、頭蓋より拡散する衝撃によって叩き起こされることとなった。
















「――。 ここは……」


「よお。 お目覚め?」


「――――」


 そう気さくな笑みを浮かべる俺をその瞳に映し出したルイーズは、微睡む意識を何とか強靭な精神力で制する。

 そうしてようやく我に返ったルイーズは、己の身体を確認し――、


「――消えて、ない」


「だろ?」


「な……」


 あまりにも意味不明な展開に絶句してしまうルイーズ。


 ルイーズが幾度となく己の体を血眼になって何か異常がないのか穴が開いてしまう程に凝視し――無論、何も見出すことはできない。

 当然であろう。

 なにせ――俺は、ルイーズという存在を掻き消したワケではないのだから。


「――何を、考えている!?」


「――――」


「私は、殺してって言った。 消して欲しいって叫んだ。 ――救って欲しいとキミに恥も外聞もなく縋った!」


「――――」


「なのに、どこも消えていない。 それどころかポーションか何かを飲ませたのかは知らないけど、さっきの戦闘で生じた傷跡さえも治癒されている! 一体、どういう了見なんだい!?」


「……まあまあ。 年甲斐もなく動揺しちゃって。 もう少し年配らしく、落ち着けよ」


 おざなりにいきり立つルイーズをいなそうとした俺の耳朶を、盛大にその絶叫ともいえる叫び声は打った


「――ッッ! 冷静で、いられるかッッ‼」


「――――」


「どうして君はそうも冷酷に人を踏み躙れる!? あれほど切願して、あれほど願って、あれほど恋焦がれて! それに君は、泥を塗ろうというのかい」


「うん」


「――ッッ!!」


 隠すこともなくいっそ堂々と宣言する俺、射殺せんとばかりの眼光で射抜くルイーズ。

 

 ふぬ、どうやら存外、彼がこれまで謳歌してきた日々の中で募っていったその思いは中々に甚大であったらしい。

 

――今更、生きて欲しいなんて戯言は言わない。


 どうして自分を生かした?

 俺は、そんな激情が宿った問いに、こうも溢れ出す正義感と言う名の残酷な刃を振りかざす程の阿呆ではない。

 ならば、どの回答が正解なのか。


 否、そもそも正解なんて概念はこの不条理満ちる世界には存在しやしない。

 この世界に巻き起こる出来事の一切合切は無骨な数式で解読できるような容易いモノではなく、それこそ神であろうがその正答に辿り着くのは至難の業であろう。

 そんな難題に、俺ごときが挑もうなんて分不相応な思い、今まで抱いたこともない。


 この世界にとっての正解が存在しないのなら。


 ならば俺は、誇りをもって己が正解と信じて疑わないその回答を口にするだけだ。


「――打算」


「は?」


 突拍子もない返答に唖然とするルイーズ。

 流石に俺自身もこんなあまりにも酷過ぎる回答なないんじゃないかと思うが、これこそが俺の魂からの本心であるからしようがない。

 一度貫いた意思だ。


 それを今更曲げる愚行をするほどに俺は愚かではない。


「いやあだって、今あんたを消したら確実に代役が到来しちゃうじゃん。 それじゃあ捜査は振り出しに戻る、というか時間が経過している分もっと劣悪になっていると思うんだよね。 後、単純に魔力足りん」


「は?」


 再度意味不明な回答に絶句する。


 そもそも人間一人を消し去るのって存外魔力を喰う。

 形を帯びるモノを掻き消すのは現状の俺程度の手腕では到底不可能であり、せいぜいささやかな魔術を消去できる程度。

 それだけでほとんど魔力を浪費してしまっているのだから救いようがない。


 だから――、


「――今は、消さない」


「――――」


 俺が編み出した結論に思わず力なく崩れ落ちるルイーズ。


 流石にそれを目にしてしまうと申し訳なさを想えてしまうが、しかしながらこれは覆しようのない事実。

 現状俺にはルイーズを消失させる上で生じる利益は大幅に損失を上回っている。

 というか、前述の通り魔力消費の観点からそもそも不可能だし。

 

 だが、無論これで終わりではない。


「なあ、ルイーズさん。 今一度問う。 ――お前は、これでもなお滅びを求めてやまないのかい?」


「――――」


「その回答によっては、今後の処遇について考えってやってもいい」


「――私はっ」

 

 それは、吐き出すように、叫び出すように――魂に、再度誓いを上げるように。


「――私は、それでも終焉を切願する」


「――――」


「君にあの孤独が分かるか!? 同世代の友人たちは次第に年を取り、そして物言わぬ骸に成り果てて。 一人取り残された私の――僕の気持ちが、君には分かるのかい!?」


「――――」


 それは、余りに大貴族らしからぬ形相であった。

 政界は常に欺瞞に満ち溢れており、故に腹の探り合いは日常的。

 だからこそ基本政治家たるもの、魂から浮き出るその本心を表情などの言動にあらわすことはまさに禁忌の所業である。


 大貴族としては失格な盛大に歪んだその容貌。

 ただ、それは余りにも人間らしくて。

 それが俺には、どうしても羨ましく思えてしまった。 

 だから――、


「――分からねえよ」


「――――」


「あんたの――お前らが抱いている心情なんて、これぽっちも理解できねえよ。 ひたすら不毛で無意味。 どうしてそうも合理を無下にするのかと心底不思議に、滑稽に思えな。 ああ、本当に哀れだなって」


「――――」


――そして俺は、花が咲くような満面の笑みを浮かべ、告げた。


「――でも、俺はそれでもいいんじゃないかって思うよ」


「――ぁ」


「下らないことで生き足掻いて、どうでもいいことで葛藤したり。 本当に些細な出来事に一喜一憂したり、偶にどうしようもないくらいに満面の笑みを浮かべて。 俺はお前らを嫌悪する傍ら、案外そんな姿も悪くないかもって、そんな風に思えたんだ」


「――――」


 俺の声音にルイーズは薄く、それこそ目を凝らさな判別できないほどの、されどきっと万感の思いがその小さな身に宿った水滴を漏らす。


「――どうせ滅ぶなら、俺の元で野垂死ね、ルイーズ」


「――。 約束、だからね」


 


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