「クーデターやって☆」「墓はどこがいいか?」
時系列は多分アキラ君が亜人国へ出発する直前くらいです
――そして、時間は少し巻き戻る。
「――クーデター?」
「そそ。 理解できるじゃないか」
怪訝そうに俺の発言を反芻する藍色の短髪の中年――『蒼梟』であるガイアスは俺をじろりと抉り取るように睨み上げる。
「無許可に見下すな。 ……今度は何を企んでいる?」
「普通に見ればいいじゃんか」
「それができたら誰も苦労せんよ」
俺たち神獣とその器はいわば一心同体であり、故に多少の誓約こそあれど、ある程度は相手の意思などを閲覧することが可能なのだ。
しかしながらガバルドは嘆息しながら己の憂慮を語る。
「お前の無に呑まれたくはねえよ」
「ガバルドレベルの精神なら汚染されずに済むんじゃない?」
「推し量るに、相性が極端に悪いのだろうな。 そこの娘ならばともかく、俺のような奴が侵入すれば廃人コース一直線だ」
「お兄ちゃん、この人私の鼓膜をお兄ちゃん以外の醜悪な声帯で震わせた。 殺していい?」
「うんうん、確かにガイアスが酷く醜く見るに堪えない醜悪極まりなき顔面だったとしても、そういうことを言うのは止めようぐがっ」
「いい度胸じゃないか。 殺すぞ」
「もう既に瀕死ですが」
こいつ、予備動作なしで俺の技巧を遥かに上回る手並みで水滴を超圧縮し、瞬時に射出しやがった。
一歩間違えれば貫通してたぞ。
だがしかし、この男にそのような些事を吠えてもなんの痛痒にもならないことは火を見るより明らかである。
無論、制裁無しというのは俺の性格には確実に相反した行為だ。
目には目を、鉄拳には鉄拳を。
「――ライムちゃん」
「分かっているのよ」
直後、ライムちゃんを起点として莫大な魔力が荒れ狂い、ガイアスが妨害する暇もなくその術式が完成する。
そして――ガイアスの無骨な普段着がふんだんにフリルを使用した日曜朝の魔法少女さながらの風体ととなる。
――今ここに、魔法少女ガイアスちゃん爆誕である!
「似合ってるよ!」
「似合ってるわ!」
「よし、お前たちには生誕したことを心底後悔するような厳罰を与えよう。 具体的にはこの鉄拳で」
キャー、魔法少女が照れてる~!
この後ガイアスは魔法少女の装いのまま、平然とその極限まで鍛え抜かれた肉体を遺憾なく発揮し顔面さえも歪む程の殴打を見せつけたのは言うまでもない。
「……それで、お前は本当に何の用なのだ」
「恋しくって……」
「○%×,/#$」
「そこまでされると、泣くぞ」
俺の純愛溢れる声音にまるで幽鬼でも垣間見たように口元から胃液ごと消化物を盛大に嘔吐するガイアス。
お前俺の事嫌いすぎだろ。
一応は相棒(笑)なんだかね!
しょうがない、ここは互いの上下関係をもっと明瞭化させるためにライムちゃんけしかけてスク水を――、
「――動くな。 息をしたら殺す」
「死にますが」
どうやら多少なりとも俺の思考の一部を読み取ることができるらしいガイアスはその身に迫る悪意に過敏に反応する。
その眼光は鬼気迫っており、余程先刻の魔法少女☆スタイルが堪えたことの証明のように思えて、思わず吹き出してしまった。
あっ、殺気。
「――『穿龍』」
「ちょっ!?」
超短時間で加圧を済ませた水滴が弾丸さえも血を這う亀と見間違えてしまいそうな速力で俺へと飛翔する。
何とかこの生涯培ってきた経験の一切合切を総動員して唐突な襲撃に対応することに成功した俺を一瞥し、ガイアスは「チッ」と舌打ちする。
「――仕留め損なったか」
「それが相棒へのコメントかよっ」
世の中世知辛いとしみじみ実感した瞬間であった。
「――それで、俺がそれに協力するメリットは?」
「自尊心の稼ぎ際だあ!」
「おい娘。 もとよりの頭の病院はご存じだろうが。 なんなら緊急搬送してもらっても構わないから」
「俺が大いに構う」
ガイアスはそれこそ蠢く混沌、漆黒の蠢動者でも見るかのような眼差しでライムちゃんにそう問う。
遠回しに頭がおかしいと明言された気がしたのは気のせいだろうか。
「……それで、実際のところどうなんだ?」
「大切な相棒が大いに途方に暮れている! 親愛なる捨てご――ガイアス君はこの逆境にどう対応するのかな!?」
「取り合えず、灰も残さず火葬するな」
敵をだよね? 俺じゃないよな?
ガバルドは盛大に眉を顰めながらこ盛大に溜息を吐き、ちらりと呆れたような表情で俺を一瞥する。
「で? 何もないなら俺は変えるぞ」
「まあ待て待て。 そう焦るなよ。 物事を焦りすぎるとハゲやすくな――あっ、御免、なんでもない……」
「どうしてお前はそこで心底申し訳なさげな顔をするんだよ」
だってね……? もう手遅れだもんね?
何故か水が加圧される気配がうかがえたので「どうどう……どうどう」と宥めるが、しかしながら芳しくはないらしい。
「お前、俺のことを牛か何かだと勘違いしてないか?」
「テメェ……ッ! 眼球が破裂するレベルの醜悪な中年とそれなりに可愛らしいお牛さんを一緒にするなよ!」
「なんでお前は逆ギレしてんだよ」
それはお前がこの世の禁忌に触れたからだ……!
と、毎度の如く茶番を繰り広げる俺を憮然とした眼光で射抜くガイアス。
「で? 遺言はそれだけか?」
「失礼だけど、俺が死ぬ前提になってない?」
「――――」
「ねえなんで答えてくれないの!? ちょ、無言で加圧するのは止めなよ! 冗談だとしても物騒が過ぎるよ」
「おい、勘違いするな」
「――?」
明らかに射出の準備態勢に心底慌てるが、しかしながらガイアスは心底呆れたような表情で俺を見据える。
ふむ、どうやら悪質ながらも先刻の言動は出来の悪い中年なりの冗談だったらしい――、
「――俺は冗談を言わない」
「――ッッ‼(無言で逃走)」
「ふむ、退屈でありふれた日々を自らが得物と化すことで鮮烈に彩ろうと。 中々良い心がけではないか」
違う、全然意図違うから‼




