無遠慮な嘲り
あえてこんな胸糞悪い展開にしました。
たまにはこういうイベントをいれないと面白くないですからね。
無論、今すぐじゃないのですが少なくともこの章にはこれについて触れる予定です。
今回の問題につきましては、作者的にはどちらもアウトですよね。理解できない者通り、仲良くするどころか同族嫌悪してしまっているのだよ……!
そもそも、この男は勘違いしている。
「仮に俺が誰かを消してて、それがどうした? 俺が消したヤツのことは消えたことすら、誰にも覚えていなんだ」
「お前……ッ!」
「いきりたつな。 それに、どうせ死ぬ一生なのだ。 なら、せめて誰も悲しまずに、ね?」
「――ッッ」
踏み込み、疾風と化す。
どうやら先刻の発言が余程堪えたようでガバルドは悪鬼が如き形相で俺へと猛烈な即座で肉薄する。
そしてガバルドは万力にも勝る膂力で力強く握られたその刀身で俺の細身を流水が如き手並みで撫でる――、
「――はい、そこまで」
「――――」
寸前、突如として介入した第三者によって痴話喧嘩は終幕を遂げる。
「今、そんなことしている暇ある?」
「――ッッ!」
突然間合いへと割り込んだ第三者――魔王は「はあ……」と盛大な溜息を吐きながら、その浅慮な言動を窘める。
「確かに、今のスズシロ君が余りにも無遠慮すぎるのは認めるよ」
「なら――」
「だけど、この異常事態の中で仲間割れなんてする気?」
「――ッッ‼」
歯痒い現状に盛大に頬を歪ませ、それでも渋々ながら剝き出しの刀身を納める姿を確認し嘆息する。
「……スズシロ君、とりあえず、謝った方がいんじゃないのかな?」
「? どうして?」
「……本当に、分かっていないのかい?」
「……俺、なんか変なこと言った?」
「うーん、とりあえず撫でようか」
どうも無意識的であるが俺の言動がガバルドを逆撫でしてしまったらしく、今にも視線だけで人を殺してしまいそうな眼光でおRRを射抜く。
こんなどうでもいい茶番で信用が減ってもらっては困る。
俺は合理に従い魔王に促せるままに頭を下げた。
「まあ、スマンかったな。 ちょっと無遠慮すぎたか?」
「――何も、思っていない癖に」
「――――」
ふむ。
そう真摯に頭を下げる俺を敵愾心を剥き出しに反吐を吐くガバルド。
推し量るに、ガバルドは俺の深淵までとはいかないものの、『目』の異能で魂でも垣間見たのであろう。
無論、俺の推測が正しければガバルドが何を一瞥したのか容易に察することができる。
だが――、
「――望んで、こうなったと思うか?」
「――――」
「俺がこの世の生れ落ちる寸前、こんなクソったれな魂になることに思い焦がれたことなんて一度たりともないぞ」
「――――」
「思いあがるな、『人間』。 偽物を愚弄するもの自由だが、それを自らが切願しただんあて勘違いすんなよ」
「――。 化け物がっ」
「吐き捨てんなよ」
心底嘆かわしいとでもいうかのように唾を吐くガバルドに盛大に顔をしめかつつ、俺はもう一度腰を折り頭を下げる。
「まあ、申し訳ないと思うこの心の嘘偽りはない。 なんなら、自慢の『目』で凝視してみるか? 呑まれてもしらないぞ?」
実際にそれを経験するとライムちゃんの二の舞になりそうなので、俺としては心底覗かないで欲しいというのが本音である。
「――んじゃ、行くぞ」
「? どこに……?」
どこか複雑そうな、自分のことのように、痛々し気に眉を顰める沙織がそう疑問符を浮かべている。
ふと周囲を見てみるとガバルドを擁護しようとしていたメイルを筆頭とした連中が心底複雑奇怪な表情をする。
沙織はともかく、彼ら彼女らはこの会話の意味合いが理解できないのだろう。
だが、それでもどうも一瞬露呈した俺の偽りなき本音にどこか畏怖にも通じるような感情を抱いているのは事実。
そんな彼らにも届くように俺は若干声を張り上げながら告げる。
「――客船さ」
「――――」
――その目は、解体寸前の家畜を彷彿とさせるモノであった。
肥えたその体は頑強なローブによって雁字搦めにされており、身じろぎ一つさえも相当な労力を必要とするだろう。
そして、その糸のような瞳が俺たちを行ったり来たりをし――ガバルドの輪郭を捉えた瞬間、定まった。
「――王?」
「~~~‼」
「――――」
ガバルドが王と呼称した男の口元はそれこそ拷問器具を彷彿とさせる機材によって拘束されており、吐息すらも億劫になるだろう。
「まあ落ち着けガバルド」
「――! おいスズシロ、どうして王が拘束なんてされてんだよ! さっさと説明しろよ!」
「――――」
ライムちゃんの『転移』により再度客船へと足を踏み入れ、真っ先に目に入った光景に目を剥くガバルドが傲然と詰め寄る。
それこそ、今にも抜刀でもしそうな剣幕である。
だが――、
「安心しろ。 現状、俺にはこのオッサンに危害を加える所存はねえよ。 ――ちゃんと言うことを聞いてくれたらな」
「――――」
どうしようもない現状に歯噛みするガバルドを横目に、今回の作戦においてもっともたる功労者を一瞥する。
「――よお、久しぶりだな」
「ほう。 見ない間に随分と交友関係を広め、そして破綻させていっているようだな」
「あんまりそういうこと言われちゃうと傷ついちゃうぞ?」
「ハッ」
短い藍色のウニを彷彿とさせる髪に、細身ながらも引き締まったその体格、そして溢れ出す超越的な存在感。
――『蒼梟』
かつて『神』によって創造されていった獣の一つであり、彼の身に宿るエネルギーはすさまじく多大だ。
それこそ、『厄龍』さえも霞んで見える程に。
どうやら、純然な魔力量はこちらの方が軍配があるがようだ、なんて脈体もないことを思案してみてった。




