女装撮影大会だあ!(参加者一名)
「――まあ、ちょっとしたお茶目さ。 これで人族が滅んでくれればそれで万々歳だし、失敗してもそこまで損害はないからね」
「ロリるぞ」
「ロリっちまうぞ」
「ロリるわよ」
「御免、君たちが使用する動詞の意味が本当に理解できない。
理解されてやろうか?(笑顔)
なんでも、そろそろ龍を封印する器に限界が生じていたらしく、そこでどうせ復活するなら人族殺しちゃってーっていうことらしい。
外道の発想である。
まあ、俺も人の事言えないが。
「というか、どうやって龍なんて使役したんだ?」
「正確には使役じゃなくて『誓約』だよ」
「……もしかして、封印から解放する代わりに魔人国への手出しを禁じたり、王国にけしかけるようにやったのか?」
「まあ、そういうことだよ」
「つくづく便利だなこの魔術……」
俺はその手の魔術に適性がないので実に嘆かわしいことである。
まあ、四十六時中ライムちゃんが傍にいるから別に支障はないかと思いつつ、俺は空気を呼んで正座する魔王を見下ろす。
「取り合えず、寛大な沙織が戦死者は蘇生したけど、心の傷まで消えるわけじゃない。 そこは、分かってるよね?」
「――――」
流石に気まずいのか目を逸らす魔王へ、俺は懐からあるモノを取り出す。
「――だから、スクール水着を着るんだ」
「御免、ちょっと何言ってるのか分からない」
俺が突きつけた『あんせる』と平仮名で胸元に稚拙な文字で描かれたスクール水着、略してスク水に過剰に反応する魔王。
「成程! アキラにしては妙案だな!」
「名案なのだ。 可愛らしい魔王様の水着姿で活気を取り戻す……完璧なのだ」
「君達何便乗しているのかな!?」
安心したまえ、撮影機材は日本のハイテクニックさえも遥かに凌駕する品物だから、鮮明に撮れるよ!
……あれ、どうして魔王はこんなにも怯えているのだろうか。
「まあ、そんな雑念はともかく謝辞の一つや二つが必須なのは事実だな。 今からじゃ時間的にも間に合わないだろうから、次の機会に頭でも下げおけ」
「よかった……冗談だったんだ」
「何を言っている? 俺は『雑念』とは言ったが『冗談』とは一言たりとも言っていないぞ、魔王ちゃん」
「ちゃん!? 私男なんだけど!?」
「些細なことだ。 気にするな」
「気になるわい!」
どうしてこんなにも念を押しているのに、この子は抵抗しているのだろう。
ちなみに、今更なのだが魔王の造形はその物騒な異名に反して中性的なモノであり、意外と体も華奢で小柄だ。
化粧さえ上手くすれば十分映えるだろう。
「さて、それじゃあ行こうか」
「どこに!? どこにいくつもりなの!?」
ヒ・ミ・ツ♡
「――お兄ちゃん、首尾はどう?」
「まあ、上々だな」
「そう。 それはよかったわね」
「うん。 行幸だから膝の上に居座らないでくれないかな? 調査ができないんですけど」
「えっ……? お兄ちゃん、私を拒んじゃうの?」
「いつまでも横になりたまえ」
過呼吸気味にどこから取り出したのかカッターナイフを切っ先を小刻みに震わせながら喉元に誘おうとするライムちゃんに慣れた手つきで対応する。
ヤンデレはチョロインと古事記にも書かれているらしい。知らんけど。
閑話休題。
俺は現在備え付けられた自室(兄妹部屋と化したことに関してはノーコメントで)で件の魔晶石について色々と調査を行っているのだ。
否、あの異形だけではない。
そこらで仕留めた魔獣の魔晶石にも何らかの共通性があるのか見出さないといけないので、色々大変である。
そんな重要な研究に異物(妹)が入り込んでいることに関しては誰も居に意に介した様子もないのは如何なモノなのか。
沙織でさえ普通にスルーしてたぞ。
そこまで仲睦まじく見えるかな?
「それで、何か見つかったお兄ちゃん?」
「まあ、色々とな」
そう俺はしたり顔で答える。
王都へと道中は確実に退屈になるので、こうして自室に引きこもり大問題である魔晶石について探求している俺だが、意外と成果はあった。
「まず、刻まれた術式からこれ生み出したのシステムで間違いないぞ」
「――――」
システムによって模範された魔法と魔術は大きくことなり、『神威システム』直々に刻まれた術式は独特のモノとなっている。
んで見定めていた結果、案の定『神威システム』の痕跡が発見されたのだ。
「……ったく、面倒なことをしてくれるな」
「? あ兄ちゃんだったらそこまで問題はないでしょ?」
「それとこれとは話が別だろ?」
「――? お兄ちゃん以外が死んでも別にいいんじゃないの?」
「極論だな……」
この妹場合冗談抜きに愛情が殺意に直結してるから本当に困る。
おそらく俺と言うストッパーがなければ人族魔人族共にこの子が滅ぼして「静かになったわ」とか仰るんだろう。
我が妹ながら恐ろしい子である。
「ついでに補足すると異形と化した際に生じるエネルギーは本来の魔獣の力量にある程度は左右されるらしいぞ」
「ふーん。 スライムが異形と化してもそこまで脅威じゃないってこと?」
「まあ概ねそういうことだ」
極端だが間違っていない。
魔王が死ぬ間際まで異形と化した龍に追い詰められた理由は、彼自身の鮮烈な純粋な力量が大いに関連している。
俺の推察が正しければ確かにゴブリン程度の魔獣が異形化しても俺たちには何の脅威にもならないだろう。
そう、俺たちには。
「……まあでも、アレに一般ピーポーが出くわしたら確実に死ぬぞ」
「否定はしないわ」
あれだけの力量だ。
あるいは『天衣無縫』を封じるという縛りを設ければ俺でも殺されていたのかもしれない異形化というコンテンツに戦慄する。
あくまで、あの飛躍は元が龍だったから。
だが、それでもスライム程度が異形化したとして、そこらの有象無象が堪え切れるはずがないだろう。
「あー、面倒だなあ」
「私の事だけ考えれば単純明快なのに」
「恋は盲目っていうことかい?」
「そういうことよ」
「ふっ」
俺は何と無しに猫のように頬すりするライムちゃんを一瞥しながら、よくあの性格ブスがこうも丸まったモノだなあとしみじみと実感したのであった。




