黒or白?
「――楽しかったです☆」
「魔王様、私たちの心配を返してください」
異形の始末を確認した俺、、倒れ伏す魔王をライムちゃん経由でっとっと回収し、こうして安静にしている。
どうやら先刻の戦いで一皮剥けたのか、どこか清々しい表情で爽やかに挨拶する魔王を見ていると思わず殴り飛ばしたくなる。
「にしても魔王……んっ、様って結構強いんだね」
「言い直すところも最高に可愛いよ。 まあ、マゾ、じゃなくて魔族を束ねる王だからな。 これくらい当然だろ」
「なあ、今俺たちのことをおぞましい言い間違えしなかったか?」
「気にしたら負けよ」
誰だって誤ちはあるモノである。
「さて……それでスズシロ、データは取れたか?」
「ああ、勿論。 どうも術式改変とは別口の方法らしいぞ。 なんでも魔晶石を弄ったとか。 随分と荒唐無稽な話だな」
「? どういう意味?」
「ああ、そういえば沙織には見せていなかったっけ」
そう思いなおし、俺は懐から深紅の結晶を取り出す。
その結晶は多大なエネルギーに耐えきれることができずに亀裂がはしっており、それこそ触れてしまえば消えてしまいそうな儚ささえ放っている。
「……ボロボロだね」
「ああ、あと数秒魔王が回収するのが遅かったら確実に木っ端微塵になっていただろうな。 魔王、感謝するぞ」
「……釈然としないね」
「ドンマイドンマイ」
死力を尽くしてこれを回収したのにも関わらず、実際は時間稼ぎさえしておけば勝手に自滅すると知り渋い顔をする魔王。
「まあ見ての通り、魔晶石は多大なエネルギーに耐えきれていない様子だ」
「……? それがどう荒唐無稽なの?」
「色んな意味でだ」
「?」
こてんと可愛らしく小首をかしげる沙織が天使のように思える。
まあそんな雑感はともかく、さっさと考察を述べるか。
「だっておかしいだろ? 生き残るためならまだしも、この術式じゃ確実に魔晶石砕けるから絶対死んじゃうじゃん」
「……それが?」
「いやな、生物って生き残るために勝手に進化していくんだよ。 だからこそ、この不便極まりない機能の意味が分からないわけ」
「巻き添えとか、そういう目的じゃない?」
「……でもなあ、なんか気になるんだよな」
刻まれた術式に嫌な予感がし、魔王の療養中に適当な魔獣を捕獲してみると、案の定こいつにも自滅の術式が刻まれていた。
推し量るに、これは龍だけの専売特許ではないのだろう。
分からないのはその理由だ。
「――――」
(ルインの野郎、何考えていやがるんだ……?)
十中八九この珍妙かつ迷惑極まりない設定を作り出したのはすべての元凶ともいえる存在、即ち『厄龍』。
『神威システム』を掌握しているのは彼一人。
ならば犯人はあの確信犯において存在しないのだろう。
そんな彼が思い描いたこの歪な機能が、ロクな目的に運用されるか分かったものじゃない。
「というか今更だけど、どうして龍なんかがこんなところに?」
「あー、うん。 ソウダネ」
「ガバルド、挙動不審な魔王への尋問は任されたぞ」
「合点承知だっ」
「ちょ、止めたまえよ『英雄』! 僕が君程度に屈っしないよ!」
「エロゲーさながらの展開だな」
「アキラ、えろげーって?」
「沙織には一生縁のないコンテンツだよ」
「ふーん」
仮に縁があったのならば制作会社を滅ぼしてくれよう。
俺としては純粋無垢で清らかな沙織をご所望なのだ。
「――で? 心当たりあるならさっさと吐いが賢明だぞ魔王」
「ふっ。 君達この僕に勝てるとでも――」
「ガバルド、撮影機材一式と可愛らしいゴスロリをふんだんにもってこい。 微笑ましいアルバムを制作するぞ」
「ニーソは黒or白?」
「即答!? しかも話が突飛すぎやしないか!?」
「全部だ。 無論、パンチラも撮るから可愛らしいおパンツもよろしくな」
「委細承知だ」
「嘘だよね!? きっと不出来な冗談なんだよね!? ちょ、どうして皆目を逸らすのかな!?」
女装写真集爆誕の危機に盛大に慌てふためく魔王へ、慈母が如き微笑みを浮かべるメイルは優しく嘆息する。
「大丈夫ですよ魔王様。 ――きっと似合ってますから」
「違う、そういう問題じゃないよ!?」
「ライムちゃん、傀儡魔術は健在かな? もちろん記憶は永久保存するヤツの」
「君は鬼なのかな!?」
それなりに長い道中になると覚悟していたのだが、これならばあっという間に王国についているだろう。
「分かった!?_ 分かったから!」
「撮影を?」
「違う!」
ふむ、普段冷静沈着としている魔王がこうも慌てる姿はそれなりに新鮮で、実にからかいがいがある。
「君達、今すぐ吐露するから、隠し持ったゴスロリを窓の外に捨てたまえ」
「「チッ」」
「なんで君たちはそんなに残念そうな顔をするのなかあ!?」
魔王のゴスロリ姿、きっと高値で売れるだろうに……
それが失われることに心底歯噛みしつつ、俺は再度魔王へ問いかける。
「――で? お前の、可愛らしいゴスロリ姿にも勝る話を見せつけてくれるんだよな? ア”ァア?」
「どうして君はキレているのかな? というか私の記憶が正しければ、ロリータファッションとは少女へ着せるモノであった筈だが……」
「? そんなどうでもいいこと言ってどうした?」
「どうでもいい!? どうでもいいの!?」
どうしてこの人はこんなにも驚愕しているのだろうか、心底不可思議でたまらない。
「……正直に話すと、アレをけしかけたのは私たちなんだよ」
「魔王、密室に行こうか。 ガバルド、お供しろ」
「了解したぜっ」
「止めて!? というか一体全体どうして皆「もうだめだ……」みたいに私を見るのかな!?」
「安堵しろ、話したいことがあるのならばじっくりねっとり聞いてあげようじゃないが。 どこにとは言わんが」
「事情を、事情を聞いて欲しい!」
この後起こった出来事は……ちょっと、生々しくてとてもじゃないが描写できなかった。




