雨過天晴
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意味合いは『なんか変わる』らしいです。作者の語彙力が残念でスミマセン。
……というか、赫狼の天魔術式のネーミング、なんか意味あったけ。
造語の気がする……よし、P丸様見っ(現実逃避)
――アンセルの人生は、退屈に彩られていた。
そもそも魔王という称号は代々受け継がれていたモノであり、そしてアンセルは先代までの魔王を孕み続けたレグルス家に生を受けた。
――お前は王になるべき存在なんだ
――相応しい王になるために勉強しませんとね
――流石、王
王となるべき存在が背負ったのは、押し潰されるようなおぞましい重圧、そして機械的な日々であった。
分単位で管理される自分を、何度も機械みたいと感傷に浸る。
だが、それすら殺せ。
己という人格をそぎ落とし、消し飛ばしたその先にみんなの未来があるのならば。
それならば、自分一人の犠牲、厭わない。
「――――」
――きっと、これは教育と名ばかりの洗脳だったんだろう。
そう、今にして思う。
レグルス家はこれまで輩出してきたその経験から、幼い子の思考回路を熟知、そして巧みに誘導していく。
それに、異論はない。
王となるべき人材はそれ相応の人物でなければならない。
王が無能ならば苦しむのは民。
それを考慮すれば、レグルス家の考えは全く間違っておらず、そればかりか世間からの称賛を得てしかるべきモノなのだろう。
きっと、これに納得してしまっている現状こそが既に洗脳された証なのだろう。
もう、既にアンセルの自我はひしゃげている。
アンセルはそれを自覚し、そして黙認してきた。
それでいい。
感情などという要素、統治において不要以外の何物でもなく、そしてそんな些事を気にとどめるような者はどこにもいないのだから。
誰も、アンセルを見てくれやしないのだから。
「――――」
でも、それでも心残りがあるとするのならば。
アンセルは何と無しに表向きは敵愾心をあらわにしながらも、それでも心の奥底では彼を信頼しきっていた部下を想起する。
その姿が自由に羽ばたく白鳥のように思えて。
鳥籠の中でしか息ができないアンセルにとって、それは酷く眩しい者だった。
他者を信頼する?
下らない、戯言の類だ。
常に誰かを疑い、誰にも心を許すこともなく日常的に魂が擦り切れるような孤独な戦いを続けるアンセルにとって、それは無縁なモノだ。
そもそも、王が誰かを信じてどうする。
世界は欺瞞に満ち足りていると、彼らは言った。
実際その言葉は真実であり、この世界で息を吸う以上一度たりとも虚言を吐かない者は誰一人だって存在しやしないだろう。
でも、彼らはそれでもいいと、寛容に認め合い妥協し合った。
きっと、それこそが彼らにはあってアンセルにはない『愛』なのだろう。
無論、それを食わず嫌いのように触れもしないで投げ捨てた変われないアンセルにとって、無縁なモノだ。
きっと、今の自分ではそれを理解することは不可能なんじゃないかな。
そう誰からも愛されず、誰も愛せなかった孤独な青年はぽつりを掠れるような声音で呟く。
そして――、
「――偶には、誰かの真似事でもしてみようかな」
そう、朗らかな笑みを浮かべ、再度不条理満ちるこの現実へ向き合い、そしてこの逆境をぶち壊そうと奮闘する。
そもそも、別段一気に変わる必要性など皆無なのだ。
少しづつ、ほんの少し歩み寄って、また距離をとって、そしてもう一度勇気を振り絞って近づけばいい。
そうして、人は変わっていく。
例え、とっとくの昔に自我が掻き消えていようとも、その世の真理がアンセルに該当しないことなど断じてない。
「術式改変――『雨過天晴』」
それは、雨が降れば虹が世界を鮮やかに彩るように。
刹那、雁字搦めにされた独りぼっちの小鳥は、彼を覆う鳥籠を完膚無きままに木っ端微塵にし、まだ見ぬ世界へ羽ばたいていった。
「術式改変――『雨過天晴』」
「あがぁじゃっ(・・?」
そして、ぶっ飛ぶ魔王を中心に尋常ではないエネルギーが吹き荒れ、それに異形は物怖じるように後ずさる。
異形は心底困惑したように大仰に首を傾げ、濁りきったその眼球の焦点が、静謐に微笑む一人の青年を移した。
「――――」
刹那――世界が反転する。
「あがぁぁぁ!!!???:」
「――――」
反転、回転、流転、暗転。
何度も何度も転げ落ち、硬い地面に接地する度に足場が消え去り、その度に異形が再度この世界から消え、吐き出される。
何だ、何が起きているのだ。
常時切り替わる視界の中、異形の不出来な頭ではその疑問符しか浮かばずに、無抵抗に打ちのめされる。
「――これで終わりとでも?」
「――――」
無論、これでは直接的な打撃はほとんど生じず、ただただ問題を先送りにするだけなので、魔王は嬉々として膠着状態と化した戦局を動かす。
爆音。
それと共にばら撒かれた火薬が点火し、直後盛大に爆破する。
「――~~~ー!!?・」
「龍の火薬袋をふんだんに使用した爆薬だ。 そうやすやすと死ねないよ」
火薬に微量の炎が点火されるたびに血肉が無遠慮に抉られ焼き爛れてしまう。
何とか抵抗しようと無闇矢鱈にその剛腕を振り回すが、しかしながら世界の取っ手に縋った瞬間その希望が牙を剥く。
再度世界に呑み込まれ、虚空という最も隙が生じやすい空間の中で猛威を振るう爆薬の餌食となる異形の化け物を、魔王は目を細めながら見物する。
――術式改変『雨過天晴』
実のところ魔王は固有魔術こそ保有しているが、術式改変の性質上をそれを発言させることもなく宝の持ち腐れとなっていた。
しかし今、こうして死と隣り合わせになることによりそれまで鳴りを潜めていた『色』が溢れ出し、セピア色の魔王の魔術を鮮やかに彩ったのだ。
そもそもの話、魔王は己の魔術『天呑』を完璧に使いこなしていなかった。
精々火薬庫や絶対的な防壁程度の認識しか抱いていなかったが、こうして己と向き合うことにより、その壁をぶち壊していったのだ。
――『天呑』多重展開
それこそが術式改変『雨過天晴』の神髄かつ概要である。
これは、異形のように異次元空間にさえも容易く侵入するような相手がこれまで存在しなかったが故に発送だにしなかった術式だ。
この魔術はそこらかしこに『天呑』を展開し、それこそ逃れることなど到底不可能な是4ッ大漁旗と化すというモノだ。
だがしかし、それ自体にはさして殺傷能力はない。
だが、魔王の魔術はそれだけが全てではないのだ。
「――『加速』」
「――ッッ!!??>?」
魔王は指をタクトのようにしならせ、弾丸が如き速力で飛翔していく火薬に指向性を示し、更に加速。
更に着弾の瞬間遠隔から引火させることにより猛烈な爆破を披露する。
その度に異形が満身創痍となっていき、何度も幾度も再生し、間髪入れずに存在さえも否定するような爆裂が世界に木霊する。
原理は不明だが、この化け物は著しい治癒能力を会得している。
それこそ、通常ならば致命傷となる重傷でろうとも瞬く間に再生してしまう程に。
ならば――再生する暇もなく、絶え間の無い猛攻を与えればいい。
「さて、私の火薬が尽きるか、それともあなたが先に両腕を上げるか。 ――比べっこと洒落こもうじゃないですか」
「――――」
直後――世界が爆炎に包まれていった。
ちなみに、明日はちょっと用事があるのでストックから捻出します。 しかしながら予約投稿は基本的に分刻みは不可能なので、ちょっと更新時間が変動するかと思われます。
……普通、こういう時って更新停止のお詫びをするんじゃ




