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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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護衛依頼に至るまで


 PCバグってクプラきゅんの声もバグるの草










「――スズシロ・アキラ。 君にルシファルス家の護衛を任せる」


「ちょっと何言ってるのか分かりません」


 俺は混乱する思考を何とか抑えながらそう返答した。

 何故かにまにまと――まるで下世話でもする中年のおっさ……ジジイのように――心底面白そうにこちらを見ている。


 何というか、心外だ。


「……一応、理由を聞かせて貰いましょうか。 話はそれからです」


「えぇ。 承りましたとも――」


 俺はどうしてこうなったんだが、とまるで走馬灯でも体験するかのようにここ数日の記憶を漁り始めた。













 俺という先輩を心の底から敬愛している後輩――月彦は、


「……先輩。 僕は生涯先輩程の大馬鹿と出会うことはないと今確かに断言しましょう」


「敬意の欠片もねぇな」


 哀れなモノを見るかのような、呆れの眼差しを俺へと一切隠すことなく送っていた。


 ここはガバルド団長は個人的に所有する館だ。

 俺たちは部外者とはいえ、立派な功労者であり戦力。

 これくらいの対応が適正だろうと思えた。


「あの安吾ですら考えもしなかったことをあんたは……! 恥ずかしいですから半径百メートル以内に近づかないでくれません?」


「一度お前の中の俺の評価をしっかりとじっくりと聞きだす必要があるみたいだな」


「アハハハ。 愚問って言葉、知っていますか?」


 物凄く心外である。

 俺は少し汗ばんだ体をアイテムボックスから取り出したタオル(もこもこ天才ウサギブランド)で汗を拭いながら月彦へ疑問を浮かべる。


「一体何がお前を変えちまったんだ……!」


「少なくとも、馬車すら使わず人力で僕たちと並走する先輩を僕は尊敬できませんと。 正直、揺れ動く馬車の中で先輩と目が合った時『うわぁ』って思いましたよ。 ファンタジーだからか動きもやたら気持ち悪いし」


「オブラートって言葉知ってるか?」


 だってしょうがないじゃないか。

 あんな啖呵を切った後で、姫さんと同席できると思うか?

 幾ら図太い俺でも流石に無理だった。 

 故に――俺は爆走という唯一の選択肢へとたどり着いたのだ。


 魔力操作のちょっとした修練にもなるし、なによりあの気まずさの極みとも言える馬車に入らなくて済む。

 きっと、月彦だって同じ境遇に陥ったら俺と同じ選択肢を取ると思う。

 

 だというのに、この反応。

 余程酔っていたのか、それとも俺が月彦がドン引きする程気色悪かったのか……

 後者ではなないことを神に祈ろう。


「そういえば、安吾は?」


「露骨に話題逸らしますね。 安吾ならもうログアウトしてますよ。 なんでも、そろそろ期末テストが近いそうですよ」


「……勉強するのか、あいつ」


「本人曰く、そこそこの成績は維持しているらしいです」


「マジか……」


 正直、明日世界が滅ぶと言われてもまだ信じられるくらい信憑性のない話だ。

 目玉が飛び出るほどの衝撃に襲われた俺は、


「――与太話は済んだか、小僧」


「おっ。 あんたも健在だな、団長殿?」


「お前のような無礼者を我が隊に引き入れていなしし、今後もその予定はないぞ」


「そいつは辛辣なことで。 ――で、何の用?」

 

 この数日間でガバルドの立場はだいたい理解できた。

 馬車で魔族領に向かう時なんて剣を持ち、戦う姿より、書類仕事に勤しんでいた光景の方が印象的なくらいである。

 少なくとも、ただの戦士、だということではないな。


 だからこそ、当然日々多忙を極めるスケジュールを消化している。

 今回、色々と得られる情報が多かったしな。

 ガバルドの責務はその信憑性の確認と確定。

 何というか、現代のサラリーマンを連想させるような男である。


 異世界サラリーマンとはこれ如何に。

 まあ、そんなサラリーマンは必然的に時間が非常に限られているわけで。 

 当然、世間話なんてもってのほかだ。

 

 つまり、そんなガバルドが直々に出向いたということはそれなりの要件があるということである。

 

「――スズシロ。 一応聞いておくが、国籍は?」


「つい最近高原にトリップしたヤツが持っているとでも?」


「確かに、愚問だな。 今は俺が居るから大丈夫だが、この先はどうかは分からない。 なるべく早めに発行することだな」


「へいへい。 で、要件はそれだけ?」


「――正確には、要があるのは月彦、お前だ」


「――――」


 瞠目する月彦を冷徹な眼差しで射抜くガバルド。

 月彦、か。

 なら、必然的に内容は絞られてくるわけで。


「――『英雄』。 この件ですか?」


「正解だ。 詳しく調べていくうちに、不可解な情報が見つかってな。 貴様も元は部外者とはいえ今では立派な関係者だ。 話しておくべきだと思っていな」


 さしもガバルドも緊張を孕んだ声色でそう告げる。

 

――『英雄』


 言うまでもなく、人族に未曾有の厄災を齎したたった一人の男だ。

 だが――、


「――奴は『賢者』によって滅んだはずだろ?」


「あぁ。 実際、ほぼ全ての関係者がそう証言している。 そして『賢者』には十分それを成せる実力と信頼があった。 故に、今まで信じて疑わなかったが――」


「つい先日、滅んだ筈の『英雄』――ハ―セルフ・メイカが再び姿を現した。 ――つまり、『英雄』は死んでいなかったと」


「だから私は再び書類を漁り、『英雄』の死をくまなく探し――一つ、判明したことがある」


 そしてガバルドは、重苦しい雰囲気のまま、告げた。



「――無いのだ。 どれだけ探しても、『英雄』滅亡の記録の一切合切が消失していた」




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