■■■■の烙印
どうでもいいけどレグルス家は明らかにリゼロ唯一無二の天然（？）ボケ担当の語感がよかったので利用しました
さて、ある程度の指針は決定した。
「どうやって馳せ参じるかは、ライムちゃんがいるから度外視してもいいと思うよ。 今日も頼らせてもらうよ、ライムちゃん」
「頼られるかしら」
「――――」
「どうしてお前らはそんな慈母でさえ霞む慈愛の眼差しをしているんだよ」
何故かこのやりとりを傍観していた周囲の幹部連中やガバルドはただ静かに微笑んでいらっしゃる。
大変、不本意である。
すると、渋い顔をする俺の袖を引っ張る少女が。
「ぶーっ」
「うん、拗ねてる顔も可愛いね」
「す、拗ねなんかないもん！」
若干幼児退行しつつある沙織という至高の存在に目を細める。
「それじゃあ、血液のストックも兼ねてここはレギウルスに――」
「――それに異議を唱えるね、スズシロ君」
「……居たんだ」
俺は何の前触れもなく背後から木霊する声音に驚くこともなく、振り返りもせずに心中を口にする。
気配の主――魔王は苦笑なのか微笑んでいるのか判別できない笑みを浮かべながら、淀みなく答えた。
「――ちょっと所要で参じるのが遅れた件に関しては非礼を詫びるよ」
「前置きは良い。 で、異議ってどういう真意だ？」
「ふっ」
こんなところで足並みを乱されるワケにはいかない。
そう言外に剣呑な眼差しで告げる俺に「まあまあ。 別に君の意見を根本から否定する気はないよ」と否定する。
「？ じゃあどういう意味だ？」
魔王の物言いに余計戸惑う。
いや、先刻の魔王の口調に少々違和感が――、
「――その調査に、私を起用してくれないかい？」
「ちょ、魔王様っ！？」
「――――」
魔王が発した発言に目を剥きながら、かつてクーデターを巻き起こしたとはいえ忠誠心はそこまで差異はないのか不平不満しかないような表情でメイルが立ち上がる。
成程、やはりそういう意図か。
「その真意は？」
「ウォーミングアップさ。 これから私たちが向かうのは不倶戴天の怨敵の根城。 準備するに越したことはないだろう？」
「本当にそうならな。 普通警戒するだろ」
「おや、信じてくれないのかい？」
「言っとくが俺が無条件で心酔できるのは沙織ただ一人だからな。 基本的にそれ以外はクソだと思ってるから、お前のことも感情的な意味合いではルイン並みに信頼してねえよ」
「ちょっと、そんな言い方……」
辛辣な俺の物言いに注意を促そうとする沙織を一瞥しながら、俺は己の理屈を述べる。
「沙織、俺みたいな嘘吐きは素知らぬ顔で真理と一緒にさりげなく法螺話をぶち込むんだよ。 そういう輩を、俺は腐る程見てきた」
「アキラ……」
自分でも突き放すようであるという自覚はあるが、しかしながら例えそれが沙織であろうともこれだけは譲れない。
人間とは、俺を含めて醜悪かつ間違いだらけ。
幾ら説き伏せようともこの認識が覆ることはおそらく未来永劫ないであろう。
「まあ、そんなこんで現状お前という人格を見定めている中途の俺としちゃ、信じ切ることはできねえ。 ――まあ、この世界じゃちょっとばかり勝手が違うと思うがな」
「……成程。 君が言わんとしていることは分かったよ」
「？ どういうことだ？」
「おいおい脳筋。 もうちょっと考えろ」
こいつは本当はこれまで思考を停止しながら生きていたのでないかという嫌疑が浮上する中、俺は乱雑に語る。
「――『誓約』」
「そうそう。 沙織冴えてる～」
「そ、そう……？」
俺に賞賛され心なしか頬を赤らめる沙織をガバルドは信じられないモノでも見るかのような眼差しで凝視する。
「なんだガバルド。 幼気な少女に浴場でもしたのか？」
「酷い言いようだな。 まるで俺が変態紳士みたいじゃないか。 ……というか、そんなことすれば、殺される」
「あ、うん……」
「分かるか！？ 分かるよな、お前には俺の気持ちが語弊なく伝わるよな！？」
「や、止めろ！ 服を掴むな、皺が生じるだろうが！ というかお前の嫁どんだけ浮気に寛容じゃないんだよ！」
そもそも浮気に寛容な女子など存在しないと思うがな。
俺は虚ろな瞳で錯乱するガバルドを宥めながら、ライムちゃんを媒介にさっさと『誓約』を結んでいく。
「ほら、それじゃあさっさと行け魔王。 これ以上長引くとまた人死にがでるぞ」
「長引かせた元凶が、よく言うよ。 やはり、この世界は疑心暗鬼に苛まれる人々にとって有益だね」
「同意見だと言っておこう」
互いに立場的にも真っ先に誰かを疑う性質だ。
そう考えると意外なことに無縁とも思っていた魔王にもそれなりに親近感がわいてくるから不思議である。
案外友達になれるかもしれない二人であった。
「それじゃあ、ライムちゃん、準備はよろしくて？」
「変態的な口調ね、お兄ちゃん。 また女装趣味にでも目覚めたの？」
「また……？」
「止めてください沙織。 衝撃の事実に錯乱しているのは分かるけど、フリフリのゴスロリを俺に渡そうとするのは止めようか」
ぷるぷると信じられないように目を見開きながら、それでも健気に持参していたらしいゴスロリを俺に渡そうとする。
や、止めろ！
それ以上は言い逃れ――沙織の残り香。
「ありがたくもらうよ、沙織」
「う、うん。 大丈夫、誰にだって趣味はあるよね……？」
クンクンカーッ、嗚呼満たされる……。
「お前……もうなんでもありだな」
「シーッ！ レギ、見ちゃダメなのだ！」
なんだか意にそぐわない烙印を下された気がするが、しかしながら俺にとっては人知れず沙織の香りを嗜むのが先決だ。
というか、沙織こんな服も持ってたんだ。
基本的に沙織の服装はややフリルが混じっているが簡素といえば簡素なモノだったので、新鮮である。
おっと、その尊い光景を想像した刹那に流血が。
どうやら存外俺は業が深かったらしい。
「さて……この場合、私はどんな反応をすればいいのかな？」
「そんなのどうでもいいから……ハァハァ……さっさと準備でも……ハァハァ……してなって……ハァハァ」
「変態だ！」
何故こうも変態紳士認識が定着している。
さて、茶番もそろそろ幕を下ろそうか。
「それじゃあ魔王、さっさとその威信を遺憾なく示していけよ」
「情緒不安定かな？」
「ライムちゃん、座標は高度数百キロでいいね？」
「了解したわ。 『転移』」
「ちょっ！？」
さらば魔王。
