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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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『騎士』の証明


 どうでもいいのですが、七章が終わったら二万文字程度の短編でも書こうかと思います。

 多分時系列的に九章の書く内容減らしたくありませんから、沙織が幹部まで上り詰めた話でも書こうかなと。

 












――それは、阿鼻叫喚としか言いようがない無慈悲な光景であった。


「ひっ」


「止めろよ、頼むから止めてくれよ……っ」


「あっ、あっ、あっ」


「神様っ」


「誰かァ! 誰かいないのか!?」


「もう、止めてよ……っ」


「熱っあぁぁああああああ」


「死ねッ! 死ね死ね死んでしまえ! 冥府の底で喚き散らしながら詫び――あっ」


「騎士でも神でもなんでもいいから、助けてよ……っ」


 かつてそれなりに繁栄していた小規模な村はたった一瞬にして火の海となり、そこらかしこに耳朶を嬲る慟哭が響き渡る。

 ある者は運命を嘆き、ある者は灰同然と化した身内にかける言葉さえも見つからず口を噤み、またある者は悲痛に喚き散らす。


 地獄だ。


「うぇっ、おぉっ」


 この世の怨嗟を一身に背負うかのようなおぞましい情景に吐き気がし、騎士――エクアドルは盛大に嘔吐する。

 気持ち悪い。

 

 それなりに笑みが溢れかえっていた辺境はいつしか悪夢と成り果て、その場に居座る者の一切合切を絶え間の無い灼熱を以て蝕む。

 いっそのこと臓腑さえも口元から吐き出してしまいそうなおぞましい感覚が胃液すらも出し尽くした途端不思議と収まっていく。


「落ち着け……落ち着け」


 勘違いするな。


 そう己を戒め、満身創痍のエクアドルは、鬼気迫った形相で懐に常備している片手剣の柄に指先を触れさせる。

 そしてそれこそ眼光だけでありとあらゆる生物が即死してしまいそうな形相で、上空を滑走する影を睥睨する。


「――――」


 エクアドルは何の前触れもなく突如として現れ、容赦情けなく人々を蹂躙していった悪辣の根源へ標準を定める。


 あくまで、エクアドルは主の密命を遂行する最中にこの村に通りかかっただけであり、理不尽の具現化ともいえる存在に抗う必要性など皆無だ。

 龍の出現。

 それを『念話』の魔術が付与されたアーティファクトで主へ知らせれば、被害は最小限に済む。


「――っ」


 それこそが一人の『騎士』として正しい選択。


 小を切り捨て大を救う。

 例え仁義を誰よりも重んじる騎士とはいえ、その程度の真理を弁えないほどに愚昧などではないのだ。

 本来ならば、泣き叫ぶ彼らを見捨てるのが最善策。


 それでいいじゃないか。


 エクアドルのような弱者が世界の不条理の根本ともいえる『龍』に太刀打ちできるはずなどないのだ。

 彼が幾ら足掻いたところで何の意味ももたらさない。


 それに、本音を言えばこの年で殉職する者が後を絶たない騎士としては、もう少しだけ長生きしていたというのが嘘偽りないエクアドルの本音だ。 

 だが――果たして、それでエクアドルは堂々と『騎士』と名乗れるだろうか。

 

 確かにエクアドルは己の無力さを否応なしに自覚している。

 でも、断じてそれを言い訳のように扱ってはならないのだと、理解しているから。

 故に、エクアドルはかじかむんでしょうがない足で、その一歩を万力が如き脚力を以て踏み砕いた。


「――龍、お前を斬る」


「――――」


 咆哮。


 それと共に、閃光と化した一人の『騎士』が威風堂々と大空を泳ぐ龍へと跳躍していったのだった。
















――初撃は、光さえも切り裂く超音速の抜刀を以て針の穴をつくような繊細さで放たれていった。


「――抜刀術【落椿】ッッ」


「――ッッ!」


 ルシファルス印のブーツになけなしの魔力を巡らせ不可視の足場を形成し、それが触れた途端砕け散るようあ脚力で踏み込む。

 音速さえも遥かに上回る速力で跳躍し、龍のもっともそれらしい弱点――その、脆弱な瞳へと一閃した。

 

 無論、龍とてそれを見過ごす程に寛容ではない。


「――っ」


「――ッッ‼」


 咆哮は衝撃波のように爆発的な速度で周囲に拡散し、結果多少なりとも流水が如き流麗さで放たれた至高の一撃にほつれが生じてしまう。

 微かに精彩を欠いたエクアドルを見逃さずに、龍は容赦情けなく触れただけで鉄筋さえも豆腐のように断絶する鉤爪が振るわれた。


 轟音。


 大砲でも打ったかのような金属音が木霊し、エクアドルは一瞬の停滞を劣勢と悟ったのか宙にアッ芝を形成、跳躍。

 凄まじい速度で跳ね上がったエクアドルへと、間髪入れずに猛烈な熱量をその身に宿した龍の吐息が押し寄せる。

 

 あわば灰塵と成り果てる寸前。


 しかしながら、エクアドルとて無策でこのような隔絶した実力を持つ相手に対して挑むような阿呆ではない。

 

「――『付与・反魔』」


「――――」


 エクアドルはいつのまにやら納刀を済ませ、そして再度強靭な足場を形成し、轟音と共に踏み込んでいく。

 エクアドルの囁きに呼応して仄かな青白い輝きを帯びた刀身は迫りくる熱量の塊に触れ――刹那、突如として吐息が掻き消える。


「流石はルシファルス家。 本当になんでも作れるよな」


「――――」


 渾身の爆炎が触れた途端に消え去った事実に目を剥く龍へ、エクアドルは容赦など微塵もない仕草で再度肉薄。


――『付与・反魔』


 これはアメリア家とルシファルス家が手を組んで作り上げた合作の一つであり、その中でも特注品である。


 エクアドルが凄まじい膂力で握るこの片手剣には金属が耐えうる限度まで様々な魔術が付与されており、それこそ売ってしまえば一夜にして有り余るほどの金銀財宝を得られるだろう品物である。


 そしてつい先程エクアドルが行使した機能もその一つ。


「――――」


 『反魔』はその名の通り魔術関連の一切合切を消し飛ばすという世界の歴史に刻まれるレベルの魔術が付与されてある。

 そして、消失させる魔法に一切の例外はない。

 故に、それがたとえ至高の存在である龍の吐息であろうと掻き消えしてしまうのだ。


 無論、本来ならばこのような国宝級の武具をエクアドルが携帯する権利など生まれたその瞬間からないのだろう。

 

 何故エクアドルは今この瞬間その伝説級の刀身を振るえているのかに関しては、アメリア家の事情が関わってくるのだがそれはまた別の話。


「さて……これでも勝てるか?」


「――――」


 武器はこれ以上にない匠の手腕によって鍛えられたモノ。


 ならば不安材料はエクアドル自身である。


 例えどれだけ高価な剣を得たところで振るわれるその剣閃は、所有者の手腕によって大きく左右されるだろう。

 果たして、エクアドルはこの手慣れない至宝の一振りを遺憾なく発揮できるか。

 だが、結局のところそれは杞憂に終わった。


「――ぁ」


「――『爆龍』」


 何故なら、付与された魔術が猛威を振るう前にエクアドルという存在を余すことなく烈火が呑み込んだのだから。



 


 ……どうせ短編書くならインビーチとか書きたいのですが、それは九章になりそうです

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