――答えは
「――ま、そういう訳だ。 理解できたか姫さん」
「え、えぇ。 私が今ここで五体満足で居る理由も、国が私を助けた理由も。 ――彼女たちが死んでいった理由も」
「――――」
訂正。
こいつ、全然淑女じゃないだろ。
見目麗しい淑女はこんな答えづらい返しをしない。
……ワザと、なのか?
自分が責められたいから?
自分が慰められたいから?
どちらにせよ、くだらんな。
「さてさて。 状況理解は済んだよーだな」
「……えぇ。 私のようなポンコツでも理解できましたよ」
「そいつは重畳」
そして、沈黙が訪れた。
当然のことだろう。
俺はあくまでも事務的に淡々と事実を述べただけ。
そんな相手と世間話なんてね。
しかも、今はかなり不安定な状態だ。
押し黙るのも仕方が無いのか。
しっかしこうなると気まずいよね。
何という居心地の悪さ。
もしやガイアスをこうなる未来を見通して馬車から降りたのだろうか。
それが本当ならば、策士としてちょっと尊敬してやってもいいな。
「――ジュースは、よく私のちょっとした悪戯を叱って貰っていたんですよ。 そういえば、幼少期に「ジュースと結婚する」なんてことも言いましたね」
「――――」
「カペラは何も考えていないようで、よくこっそりと私のフォローをやってくれました。 今でも本当に尊敬していますよ。 そういえば、そこそこ絵も上手かったですね」
それは、愛しむように、弔うように。
俺はただ足を組み、それを聞いていた。
「ジーザスさんは、最近入ってきたばかりの新人さんだったんですけど、子猫みたいに可愛かったんですよね。 特にあのゆるふわの髪。 何度かアレを撫でて寝たこともありましたっけ」
「――何が、言いたい?」
「――私が、殺したんですよ」
その声には悲壮感が張り付いていた。
悲劇という狂気に沈んでしまったのか。
俺は目を細くしながら続きを促す。
「私のせいなんですよ。 私がそこに居たから。 私がルシファルス家の長女だったから。 私が――生まれたから」
「――――ッ」
「何もかも、私が悪いんです。 私のせいなんです」
あぁ、そうか。
それが、あんたの本音か。
なら、ここで嘘偽りの言葉を吐きだすのは余りに無粋だろう。
目には目を。
敵意には敵意を。
そして――真実には真実を、だ。
俺は言葉を選び、そして言い放った。
「――『そんなわけないじゃないか』『貴女のせいじゃない』『貴方の存在と彼らには何の因果関係もない』『悪いのは給仕たちを虐殺した男だ』『貴女は悪くない』」
「――――」
「そう言うつもりだったが、止めだ止め。 気が滅入る」
「――ぁ」
姫さんは信じられないモノを見たかのように、その猫さながらの瞳を大きく開いた。
そんな姫さんにお構いなく、俺は淡々と告げる。
「あぁ――お前のせいだよ。 お前のせいで死んだんだよ」
唖然呆然。
幽霊でも見たかのように固まる姫さんに、俺は冷や汗を流しながら次の言葉を考える。
――本当なら、素直に慰めた方が合理的だったんだけどな。
だが、それはどうも俺自身が許さないらしい。
誰かを欺くことを慣れている。
だが、それでも俺には俺なりの美学があるんだよ。
「聞こえなかったか? なら、何度だって言ってやるぜ。 ――お前が殺した。 お前という存在が彼女たちを皆殺しにしたんだ」
「ち、違っ――」
「違う? お前、自分で言っておいてそれはないんじゃないのか?」
俺の言葉に姫さんははっ、と目を見開き、わなわなと自分を見つめる。
自分で、言ったじゃないか。
俺はただそれを復唱したに過ぎない。
自分がどうしてこんなにも怒っているのか分からない。
そんなトコロだろう。
おそらく、無意識だが姫さんは求めていたんだ。
甘い慰めの言葉を、涙を拭ってくれるその指先を。
だからこそ――俺は拒絶する。
「――自分の罪と向き合え。 たとえその罪が余りに理不尽だとしても、お前という存在のせいで給仕たちが殺されたのは紛れもない事実だ」
「――――ッ」
「――なら、抱えろよ。 その罪を一生死ぬまで。 納得ができるまで恥も外聞もなく、葛藤するのも青春さ。 姫さんが大人になってもその亡者の影は纏わりついているかもしれない。 なら、せめて少しでも誇れる自分になってみるのはどうだ?」
「――――ぁ」
「もし、俺が甘い言葉を吐いて、それでお前が救われたら――誇れるのかよ。 『自分は悪くない』って自分自身にまで言い訳して。 俺だったら余りの黒歴史ぶりに文字通り穴に入りたくなるね。 ――お前は、どうだ」
不意に、姫さんはまるで眩しい物でも見たかのように目を細める。
それはまるで、太陽を間近で見てしまったようだ。
そして、少女は静かに、でも確かに吐露する。
「――わたしは、嫌です、そんな未来」
「だろ? どうせしんどい人生なら、大半は笑った方が幸せじゃないか」
「――――」
「俺からできる助言はここまでだ。 後は自分でゆっくり考えな」
「――はい」
その声には先程まであった陰りは一切無く、まるで暗闇を煌めく数多の星屑のように輝いてた――
ようやく七章の三分の一の二分の一が終わりました。
それはそうと、どうだってでしょうか?
それはないんじゃないかな、とかそういう批判もあると思いますが、これが私的に最適だと思った結果です。
なるべく叩かないで欲しいですね(笑)
しかし、嬲られようとそれすらも快感へと変換してまうのが何を隠そうこの私。
さぁ、どんと来てください!




