王国へと
人生において最も悲惨なのはデータが消し飛ぶ。
そう、しみじみと感じ取りました。
よかった……ストックたくさんあってよかった……なんてしみじみと思っております。 マジでデータ紛失ってクソですよね(涙)。
「――まあ、スズシロ君とメイル君の推察は概ね事実だよ。 『老龍』との激闘を控えた今、君たちを失うわけにはいかない」
「――――」
「まあ、レギウルスにでも分かるように要約すると『老龍』戦に征けばお前の罪は無罪放免になるってこたあ」
「ほ、本当なのか……?」
心底不思議そうにそうレギウルスが問い返す。
そもそもの話、もう既にレギウルスの謀反を知る者自体が絶滅危惧種なのである。
それに確固たる証拠は俺が隠蔽した。
この状況下でレギウルスウを罪に問うのは極めて難しく、それはおそらく『魔王』ですら容易ではないだろう。
まあ、多分レギウルスはそんなことに気が付いていないだろうがな。
何となしに魔王の魂胆が露呈してきた。
つまること、この男は『天衣無縫』によって既に無罪の罪を身勝手にも贖えと、そうおっしゃるのである。
俺ならば普通に無下にするが。
まあ、こんな状況でもなかったらの話だけど、な。
「――じゃあ、やってやんよ」
「――――」
「つまり、『老龍』をぶっ殺せばいいんだろ? なら簡単じゃねえか」
「流石脳筋。 発想が違うよ」
「黙れクズ野郎。 それで、メイルはどうする?」
「――――」
レギウルスはちらりと俺たちのやりとりを傍観していたメイルを一瞥する。
メイルは特に気負うこともなく、淡々と返事をしていった。
「――無論、レギと同意見なのだ」
「おおっ。 そうか」
「まあ、他にも色々と理由はあるのだがな……」
心なしか胸を弾ませるレギウルスを苦笑しながら、しかしながら確かな愛情が秘められた眼差しでメイルは眺める。
うーん、理想のバカップル。
是非とも裁きを下してやりたい所存である。
まあ推し量るに、メイルがレギウルスと同意見なのは単純に元々『老龍』は殺すつもりだったからだろう。
もう既に『老龍』と相まみえることは告げた。
つまること、魔王の言葉も今更なわけで。
「もしかして、そこまで見透かしていたり?」
「さあ、どうだろうね」
ニヤニヤと得体の知れない笑みを浮かべる魔王。
流石にポーカーフェイスはお上手か。
どうせ魔王に何言ってもこいつ意外と強情だから情報吐かないだろうし、変な事企てる仕草でもあったら即座に殺すからまあいいかと納得する。
「さて、さっき告げた通り魔族は基本的に『老龍』への準備。 ちなみに、魔王とバカップルは別ね」
「別……? どういうことなのだ?」
「ああいや、別に大したことはないさ」
「はて、最近一語一句違わぬ言葉に騙され文字通り死んでしまった記憶があるのだが……」
「認知症なんだねっ」
「流石にその言い訳は度肝を抜かれたのだ……」
「アキラ、女の子にそんな暴言言っちゃダメでしょ?」
「――――(無言で土下座)」
「……か、カメン。 お前は珍獣使いだったのだな」
はて、珍獣とは一体全体誰のことを指しているのだろうか。
「――で?」
「おいおい、幾ら俺だってたった一言で万象を察するとかそういうチートめいた特殊能力なんてないぞ?」
「……今度は何を企んでいるのだ?」
「失礼なっ」
メイルが警戒でもするように鋭い眼差しでこちらを見据える。
頼れる仲間たちの解けぬ信頼に頬から涙が零れ落ちそうである。
「あー、今回に関しては特にお前らが苦労することはねえよ。 ――まあ、魔王は別の意味で心労するだろうけど」
「ちょっと待ってくれ。 唐突に心配になってきたのだが」
「安心しろ。 失敗したら処け――お仕置きするから」
「訂正前と訂正後の言葉の可愛らしさが全く異なる気がするのが」
「大丈夫だ魔王、骨は拾ってやる」
「どういう意味で言ってるのか分からないんだけど、絶対ロクでもない意味だよね」
そういえばこの世界、謎に鬼●の刃や呪術●戦なんていうパクリ漫画が存在するのに諺自体は割と少なかったな。
そんなことを思い出しながら、俺は言葉を続ける。
「いやさあ、一度だけ王国も魔人国と同じ手段で洗の――洗脳しようと思ったんだけど、無理くさくてね」
「訂正しきれてないぞ」
野次は禁止である。
「――今回の認識改変は、あくまでこの国に放送なんていう日本さながらの概念が満遍なく広がっていたからこそ成立するモノだ」
「――――」
「ガバルドはもう理解したと思うが――王国に放送などという概念は一切存在しない」
「なっ!? ちょ、どうするのだ!?」
そう、そうなのだ。
残念至極なことに、国境というモノはそこらの城壁よりも鮮烈に互いの文化を遮断させてしまっていたのだ。
放送と同じように、人族と魔人族とでは異なる文化は相当膨大だ。
そして、『老龍』討伐は人族と魔人族の同盟が前提条件。
魔人族に関しては俺の魔術によって洗脳まがいながらも、一応は忌避感などといった感情の一切合切を押し消すことに成功した。
だが、である。
同盟というのは両者の合意によってはじめて成立するモノ。
魔人族は何の問題もない。
というか俺の洗脳と魔王の演説が効きすぎて嬉々として同盟を結ぼうとする光景が容易に想像することができる。
問題があるのは人族の方で。
「言っとくが、人族の認識はお前らと遜色ないぞ」
「うわあ……無理臭そうなのだ」
「だろう? 無理ゲーだろ?」
「ならばせめて満面の笑みで宣言しないでくれ。 殴りたくなってしまうのだ」
「もう殴ってますが」
流石は龍種の血を引き継ぐもの、その手腕は衰えていないか。
「まあ、そんな事情で脅迫、もとい平和的交渉には必然手的に魔人族のトップが望ましくてな。 ちなみにバカップルは護衛だ」
「バカップル言うなし」




