「メッ」「うっす」
どうあ足掻いても沙織さんには逆らえないアキラ君。
「――貸し一つだよ」
「……ん?」
「――――」
おそらく魔王の性格を考慮してそれなりに残虐な罰を予想してたであろう沙織が心底驚いたような心境で目を見開く。
無論脳筋の象徴レギウルスも同様である。
しかしながらかつて参謀を務めていただけあって、メイルはそこまで驚く素振りを見せていないようだ。
まあ、それは俺も同じだがと苦し紛れに呟く。
「貸ってことは……」
「『実質』無罪放免ってこたあ。 間違いはないか?」
「いやいやそんな都合のいいことがあるわけ……」
「概ねスズシロ君の言葉通りだよ」
「あるのかよ!?」
脳筋がけたましく叫んでいるが、無視だ。
魔王のその解答にメイルは驚くこともなく淡々と、されど少しばかりは憂慮していたのか嘆息する。
「レギ、ちょっと浅慮がすぎるのだ」
「? どういう意味だよ」
「おいおい……単純な話だよ。 俺たち全員の共通目的を考えて反芻してみろやい」
「うざったいアキラには後程制裁を加えるとして……ああ、そういうことか」
「理解したようだな」
頭の悪い同僚をもつと苦労する。
俺はハッと何かを悟ったような表情しながら魔王を畏怖と畏敬の眼差しで見つめるレギウルスを一瞥しながらそう嘆息した。
「――つまること罰と称してセッ」
「ちょっと黙るのだレギ」
「ぐほっ」
レギウルスの首がコマのような踊り舞ったとだけ言っておこう。
詳しい描写をすると確実に凄惨なモノになってしまうので自重する。
ふん、リア充は人生の墓場でとっとと死ね!
だがしかし、俺はまだ降りかかる厄災がどれほどのモノなのか想像だにできていなかったことをしみじみと痛感させられることとなった。
「……ねえ、レギウルスは何を言おうとしたの、アキラ?」
「えっ」
不味い不味い不味い不味い不味いッッ!?
俺は目を背けながらその端正な美貌を盗み見する。
沙織はそのいたいけない顔で心底不思議そうに小さく首を傾げ、じっとこちらの正答が下されるのを心待ちにしている。
純粋無垢な、少女の眼差しで!
果たして、この天使の美貌を俺に穢すことができるのだろうか!?
かつてこれほどの局面に対面したことはあっただろうか。
否、否、断じて否である!
考えろ、スズシロ・アキラ!
今ここで燃え尽きる覚悟で必死に脳内細胞を活性化させ、かつてない効率で最善策に辿り着こうとする。
そして――、
「――沙織も大人になったら分かるよ!」
これが、これが俺が編み出して最善策だッッ!
「そ、そうなの……? 私胸は小さいけどこれでも大人だと思うんだけど……」
「大人になったら、分かるから!」
「あ、アキラがそう言うなら……」
よ、よし……!
少々強引という自覚はあるのだが、しかしながら純粋無垢な天使が穢れてしまう悪夢に比べたら全然余裕――、
「――セックスだけど?」
「ガバルドぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッ‼」
俺は猛然と素知らぬ顔で天使を汚しやがったクソ野郎へと怪鳥が如くルパン●イブを決行したのであった。
先程俺の怒号でガバルドが何を言っているのか分からないと仰る寛大なる沙織の言葉に従い、『半殺し』にしたガバルドを乱雑に投げ捨てる。
「半分骨負ったから『半殺し』だよね!」
「カネキ●ンかっ」
はてなんのことやら。
俺は拳にこびりついて落とせない汚物が吐き出した吐血を丁寧にハンカチで吹きながら、再度魔王へと向き直る。
「本題に戻るぞ。 ガバルドは殺すぞ」
「なんでナチュラルに殺害宣言してるんだよ」
「レギウルス、お前も同罪だからな」
俺の天使を汚そうとした貴様の狼藉を一体全体誰が許したとでも?
「もう面倒くさいし無駄に脱線されると話進まない方端的に言うけど、魔王がお前たちを容認したのは今後を考慮したからだろうが」
「今後……?」
「推し量るに、十中八九『老龍』関連の案件なのだ。 ……自分でいうのもアレなのだが、この切迫した事態の中で私たちのような貴重な戦力を失うのはあまりに痛手であることを考えたら至極当然の結論なのだ」
「俺も↑と同意見だ」
「ああ、そういうことね。 つまり――」
「黙れクソ野郎。 お前が吐息する度に天使の笑顔が曇る。 それを理解したのならば自主的に断頭台にでも行けよ」
「……下ネタは、ちょっと」
「ぐはっ」
辛辣な俺の意見、というよりかはドン引きするメイルの言動に深く傷つけられたレギウルスはまるで腸にナイフでも刺されたかのように苦痛に呻く。
無論、メイルに悪意などない。
今回は完全にレギウルスの自業自得なのである。
「ざまあー! クソリア充ざまあー!」
「――メッ」
「うっす」
「……なあ、お前って実は多重人格者なんじゃねえのか?」
沙織の苦言に従い自主的に正座する俺を形容し難い表情で眺めるレギウルスがドン引きしたかのようにバックステップ。
知ってるかレギウルス、それがメイルにとってのレギウルスの印象を類似していることを!
それを知ったらさぞかし凹むだろうなあ。
「……ゴホンッ」
「――っ。 これは失礼を」
「大丈夫、君たちのコントは若々しくて面白いからね」
「俺たちは別にコントなんてやっている心算じゃないんだけどなあ……」
毎度の如く脱線しそうになった俺たちをこの場で唯一冷静な魔王が咳払いして窘める。
あれ。
今更だけど、そこまで騒がしくはないのだが一度ヤンデレスイッチが入ると暴走する思うとはどこに……
「すう……すう」
「こいつ、寝ていやがる……!」
ふと見下ろしてみると、そこにはスヤスヤと安らかでいたいけな表情で俺の膝を枕にして熟睡している光景に度肝を抜かれる。
図太いというか、何というか……。




