呪ってしまったその血を
私ってロリっ子はもちろん大好きなんですけど、実をいうとゴスロリって苦手なんだなと再認識されました。
やっぱりメイド服とかチャイナ―こそが真理ですよね!
「――――」
魔王からの指摘に額から分かりやすい程に冷や汗を流すレギウルスとメイル。
今でこそ有耶無耶になってしまたっが、しかしながら本来反逆など笑止千万、その場で切り捨てられても可笑しくはない。
まして、相手は『傲慢の英雄』さえも上回る超越者。
故に、幾ら修羅場を潜り抜けてきた彼らであろうと怖気づいてしまうのだろう。
ならば――ここは背中を教えてやるよ。
「――言ってやれよ、レギウルス」
「――――」
「何なら、万が一のことがあっても俺が何とかする……する……御免、もしかしたら見捨てるかもしれないわ!」
「お前は一体全体誰の味方なんだよ」
少なくともリア充の敵である。
しかしながら今のやりとりである程度緊張がとれたのか、開き直ったような表情で強かに啖呵を切る。
「――俺は、強い奴に従う」
「――――」
「俺の目的は唯一無二――この世のどんな奴ですら真面に太刀打ちできない『最強』に上り詰めて、メイルを守る」
「――っ」
「――――」
その宣言にメイルは感極まったようにジッとレギウルスを凝視する。
もどかしさと、嬉しさで半々っていう塩梅だろうか。
しかしながらこのような場所でようもまあそんな理由になっていない言い訳をするものだなと感心してしまう。
だが――それでも、少しだけ杜撰で綺麗な理由なのかもしれない。
「――まず、最初に反逆などという愚行に踏み切り、結果的とはいえ貴方様の首筋に刃を添えてしまったことに深くお詫びを」
「――――」
メイルはらしくもない畏まった丁寧語でそう頭を下げながら前置きし、そして本題に切り出していく。
「ですが――私はあくまで、これが魔人族にとって最善策だと愚考し、その結論に突き動かされただけです」
「……それだけかい?」
「――――」
「――君はほんとうにそれだけで、私に牙を剥いたのかい?」
刹那吹き荒れるのはおぞましい濃度の魔力の渦。
品性行為に常日頃気を遣っている魔王にしては珍しく、脚を組み鋭い眼光でふんぞりかえりながらそう問う。
彼を中心に醸し出されるその風格は紛うことなき『王』に相応しい、圧倒的な威厳そのものである。
張り詰めた空気が渦巻き、それと共に魔王を中心として竜巻のように魔力が吹き荒れていく。
だが――、
「――レギがやってのけたら、私にできないことはないのだ」
「――――」
毅然と張り詰めさせた頬でメイルは、掠れるように――されど、世界中に響き渡るように。
「――私はただ、母さんに巡り逢いたいだけなのだ」
そもそも、俺はメイルに対して多少なりとも当初猜疑心を抱いていた。
沙織の報告によると、メイルという少女は、中々に魔王に対して忠誠心を抱いていたようでないか。
故に疑問が沸く。
何故、メイルはあの時俺の荒唐無稽な話に賛同したのか。
それこそ参謀という立場である俺が少し細工をすれば、容易にメイルを葬ることなど可能であることは理解している筈。
圧倒体不利なその状況。
おそらくメイルもそうなる未来予想図は立てていたはずだ。
考える可能性は二パターン。
一つは単純に俺に賛成したフリをして魔王に密告するなんていう可能性であるがしかしながらこれは彼女の行動から除外される。
そして二つ目は――、
「――私はただ、母さんに巡り逢いたいだけなのだ」
「――っっ」
――二つ目は、それだけの危険を冒してでも手に入れたいモノが存在するから。
なんでも、初めて魔人族の中でその声を晒した相手であるメイルとはそれなりに良好な関係を築けたらしい沙織曰く、彼女はもともと孤児だったらしい。
レギウルスも然り。
しかも、失わたはずの龍種の血を引き継いで。
うん、これだけで彼女の人生がいかに波乱万丈であるのかが伺える。
「私はただ魔人族じゃない。 巡る血には少なからず龍のモノが含まれているのだ」
「――――」
「それこそ、それが原因でかつて死刑囚になりかけたこともあったのだ」
「――っ」
なんでも、沙織曰くメイル自身も自らが龍種の血を引いていることを知ってしまったのは幹部になってかららしい。
無論、メイルの存在は大いに議論された。
殺すべきか、それとも生かすか。
龍とは存在そのものがダブー。
それはかつて『老龍』が猛威を振るい牙を剥いたことによって国が壊滅寸前に陥った魔人族たちにとって共通認識である。
しかしながら、メイルの場合更に特殊――つまること、前例なき異例の事態、人族と龍種の混血なのだ。
もう色々とアウトである。
それでも今こうして生きているのは、ひとえに『傲慢の英雄』の尽力が背景となっている。
――もしメイルを殺すのならば、魔人国全土が燃え上がると思え
実際にメイルよりも先に幹部となった『傲慢の英雄』は、裁判の中でそう魔王相手にさえ啖呵を切ったという。
この脅迫まがいの行為により何とかメイルの助命は叶えられたらしい。
たった一人の少女のために国を相手にするその気概。
成程、確かに惚れても仕方がない。 殺すけど。
だからこそ、募る思いもある。
「――私は、何度だって自分の血を呪った」
「――――」
「私は、自分から望んでこうなったわけじゃないのだ。 それだというのに、無慈悲で不条理極まりない運命を突きつけたこの体を恨み呪ったのだ」
「……そうかい」
形容し難い視線をメイルへ向ける魔王。
当時の経緯を知っている者からしたらその複雑の眼差しも納得である。
だが――当然、それだけじゃないよな。
「――でも、それでも私を生んだ母さんには、何の罪もない」
「君を地獄に追いやったのにかい?」
「全く私怨がない――なんていえば嘘になるのだ」
「――――」
俺はちらりと傍らに居座るレギウルスを一瞥する。
不思議なことにレギウルスはどこか誇るかのような、それでいて痛々しいモノを堪えるかのような複雑奇怪な表情をしている。
きっと、彼にしか見えない景色が存在するのだろう。
「でも――それ以上に、一人の子供として対面したいのだ」
「――――」
「私を地獄へ追いやった人を、私を生んだ人を、私に力をくれた人を――」
「――ぁ」
そして、メイルは気丈にはにかんだ。
その微笑はどんな人形にも出せないな、そんな人間味に溢れた泥臭く美しいとさえ思えるようなモノであった。
「――私が、レギを大好きになるキッカケを作った人だから、やっぱり憎めないや」




