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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
254/584

――戦え














「――――」


 喧騒が木霊する住宅街には多くの人々が入り乱れており、彼らの容姿や姿形は多種多様の一言である。

 ある者は背中に龍を彷彿とさせる翼を、ある男の額には禍々しい角が、ある女は人族と何ら変わりがなく。


 雑多。

 魔人国を一言で示すのならばそうであろう。

 しかしながら普段笑顔が溢れかえる魔人国であったが、この時ばかりは皆が皆何かに怯えるように息をひそめている。


 淡々と街をあるく青年もその一人だ。


「――爆薬事故、ね」


「……痛ましいね」


「それに関しては同感だ」


 街行くその青年の容貌は平凡そのものであり、普遍的という形容が一番似合うような雰囲気を纏っていた。

 その青年に追随するのは小柄な少女だ。


「……兄者、不安か?」


「まあな。 なんせ、いつこの街に潜む刺客がこの国ごと火の海にするのかわかったもんじゃないからな」


「――――」


 少女は微かな焦燥と苛立ちが宿ったその声音を否定することも肯定もせずに、淡々と補装されたッ道路に靴音を響かせる。


 一日前に突如として生じた爆発騒ぎ。

 突如として何の前触れもなく街の一角が文字通り爆炎に呑まれ火の海と化したあの光景は今も瞼に焼き付いて離れない。

 響く慟哭も怨嗟も、何もかもが。


「――――」


「――っ」

 

 眉間にしわを寄せる兄をいたわり、少女は撫でるかのような手つきで青年の掌を優しく握っていった。

 青年も一瞬驚いたが、直後「また心配させたか」と苦笑まじりに握り返す。

 そんな微笑ましい兄弟を周囲の人々が温かな眼差しで見守る。


――直後。



『――聞こえるかい、皆』



「――――っ」


 数日前、町の一角が火の海になった際と同じように何ら前兆を晒すこともなく、どこまでも冷徹な声音が街に――否、魔人国に拡声される。

 無論、一人の国民としてその声色には覚えがあった。


「――魔王様?」


「――――」


 それは、たとえ首筋に鋭利な刀身が添えられようとも冷静沈着でいられるような、そんな冷酷で不思議と安心感が得られる声だ。

 過去、このような事態が無かったわけではない。


 『放送』という概念は既にこの国には大きく広まっており、極稀に国の命運を左右する宣言がなされる場合、このような設置された放送器具の一切合切をジャックして、例外なくありとあらゆる国民にその美声が響き渡るような措置が取られることがある。

 推し量るに、今回もそれ。


 ならば一体全体、何を宣言するというのか。


 最も有力な候補は先日の爆発騒ぎの件だろう。

 だがしかし、青年の次の瞬間その結論が浅慮であることをしみじみと実感させられることとなった。


『お察しの方もいるかもしれないが、私が今こうしてマイクごしに声を響かせている理由は唯一無二。 ――今この国は大きな転機を迎えようとしている』


「――――」


『故に、私は一晩魔人国の民へと降りかかる厄災に対処する術を模索し――そして、ようやく見つけることができた』


「――――」


 不思議なことに常に威風堂々としている魔王の声色は高揚か恐怖故か微かに震えており、それがやけに臨場感を演出する。

 そして――直後、世界が騒ぐ。


『我々魔人族は、怨敵である人族と手を取り合い――復活を遂げた『老龍』を討つ』

















――意味が、分からない


「――――」


 人族と手を取り合う?

 偉大なる魔王は乱心でもしたのだろうか、そのような愚行をするのならば、青年は喜んで穢れてしまう前に自害するだろう。

 そもそもの話前提条件が荒唐無稽だ。


 長きの眠りについたはずの『老龍』の解放。

 二百年もの間維持されてきた安然が、何故この期に及んで再起を果たしてしまうのだろうか。

 もしや、これは何らかの陰謀――、


『失礼。 誤解を招いてしまったかもしれないが、私が今口にした一切合切は残念なことに全て真実だよ』


「――――」


『そもそも『老龍』の警護に関しては二百年前から昼夜問わず行われている。 私が今更即座に露見する愚かな虚言を吐き出すだろうか』


「――――」


 有り得ない。

 今代の『魔王』は一代前の前任者とは異なり冷酷無慈悲でこそあるが、しかしながら生粋の現実主義者でありその合理性は筋金入り。


 それはかつて立ち直れない程にまで打ちのめされた魔人国がたった数年でかつてないほどに繁栄した事実から火を見るより明らかだろう。

 そのような賢者が、このような下らない戯れ言を吐き出すだろうか。

 否、否、否。


 それこそ天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。

 

『理解してくれたかな?』


「――――」


『現状を嘘偽りなく宣言しよう。 ――先日、『老龍』が二百年もの長き眠りから醒めたと、そのような報告があった』


「――――」


『更に付け足すと、『老龍』は多くの眷属を引き連れ、魔人亜人人類関係なく、一切合切を滅ぼす所存であると』


「――――」


『私なりに現状を分析し、最悪の場合を想定した。 ――結論から言おう。 仮にかつてのように『老龍』が私たちを猛威を振るい、牙を剥けば確実に私たちは絶滅してしまうだろう』


「――っ」


 その発言に虚言の気配はなく、どことなく、投げやりな雰囲気さえも感じられ青年は一瞬憂慮する。


『だが、一つだけ。 一つだけ、我々が生き残る最善策が存在する』


「――――」


 まさか。

 魔王が何を申したのか否応なしに理解し、魂がその回答を拒絶してしまうが、しかしながら容赦はない。


『――人族を共に、『老龍』を今度こそ確実に滅ぼす』


「――ぁ」


 無理だ。

 理性ではなく六百年もの年月に降り積もった死体の山を魂が想起した瞬間、そんな弱音が吐き出される。

 

――知ったことか。


 一瞬、そんな高い声音が耳朶を打ったのは気のせいだっただろうか。


『君たちの忌避感は、私もよく分かる。 それは例外なく我々魔人族の総意であり、決して恥すべきことではない』


「――――」


『でも、一つだけ言わせてくれ。 ――「人族との怨嗟の一切合切を忘れてしまえ」』


「――ぁ」


 瞬間、重なった声音が木霊すると共に青年の魂に何かが侵入していき、直後途方もない高揚感が胸を支配する。

 そうだ、そうなのだ。

 あの叡智の具現者である魔王の勅命だ。


 ならば――それに従うのが道理。


 溢れ出すのは果てしない闘争心。

 魂が見えない何かに突き動かされ、自分自身でも困惑する程に体中から活力が漲ってくる。

 

『――戦え』


「――――」


『私たちは、私たちの手で未来を掴み取るために――戦え』


「――ッ」


 戦え。

 そのたった一言に魂の裏側から得体の知れないモノが溢れ出す。

 何を躊躇するのだ。

 人族との共闘?


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()|!


 全ては、魔人族の繁栄と未来のために。

 ならば――■■である人族と手を取り合うことも、厭わない。

 


 中々に面倒くさかった話です、

 もしかしたらこの兄弟再登場するかもです

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