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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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忘れないように、その瞼に刻み付けて


 どうして今の沙織さんの好感度がこんなにも高いのかはまた別の機会に














 斬られっ。


 そんな何と無しに抱いた感慨と共に不可視の刃と共に吐き出された絶刃が容易に俺の腸を切り裂く。

 宙を血飛沫とドス黒く染まった臓腑が舞う。

 ああ、気持ちが悪いな、この景色。


「――ぁ」


 死ぬな。

 感慨も悔恨もない。

 ただただ脳が拒絶することもなく、その残酷で優しい未来を許容し、受け入れ、そして意識が――、


「――『廻天』」


「――――」


 不意に、宙を独楽のように舞う俺をあたたかな陽光が包み込み、まるで母に抱擁されたかのような安心感が溢れ出す。

 いや、あんなクソ野郎母親なんかじゃないな。

 それこそ、沙織こそが俺が俺であるルーツを作り出した、いわば生み親――、


「――アキラ、しっかりしてっ」


「ぁっ?」


 いつのまにやら仄かな朝日は無様で不格好な内面や臓腑を晒す要因となった傷跡を修復していった。

 ぶちまけられた血液は神聖な陽光と共に回帰する。

 俺は閉じた瞼を開き――、


「――沙織?」


「――。 よかったっ」


 雪のように色彩が抜けきったその長髪がまるで夢のように舞い、そして鮮血のように深紅に染まり切った瞳が俺を射抜く。

 いつのまにか彼女が常に纏っていたローブは外れており、無論仮面も彼方へ。

 そういえば、ルインのクソ野郎に剥がされたんだっけ。


 そんな益体もないことを考えながら、ふいに意識は暗闇へ――熱い。


「アァッ!? 熱ッ!?」


「あっ、良かった。 アレなら最高火力で丸焼きにするところだった」


「酷くない!? もうちょっと人を丸焼きにすることに対して忌避感を抱こうか!?」


「大丈夫。 あんまり罪悪感はないから」


「傷つくなあ!」


 そろそろこの不当な扱いにも慣れ始めた頃合いである。


 そして俺はカメン――もとい、沙織へ向き合う。


「ありがとな、沙織。 後少しで死んでたわー」


「……アキラこそ死ぬことに対してもうちょっと忌避感を抱こうよ」


「安心しな。 ――この程度、日常茶判事だ」


「全然安堵できないよ」


 どうやら沙織はまだこの殺伐とした世界に慣れていないようである。


「にしても大丈夫か、沙織。 あのクソ野郎に変な事されなかったグガボッ」


「ちょっ!?」


 沙織の身を案じた刹那、何かの拍子に口元かた大量の鮮血が吐息でも刻むかのようなナチュラルさで吐血される。

 この出血量、死ぬな。


「……沙織、最後に言いたいことが」


「何諦めてるの!? 『廻天』、『聖典』っ!」


 瀕死の俺を暖かが温もりが覆う。

 ああ……天に召っされる。

 

「お兄ちゃん、浮気した。 ――殺す。 嬲って抉って刳りだして剥がして残虐に殺す。 それで私も死ぬんだあ」


「ちょ、何この子!?」


 どうやら俺は狂える妹に殺されかけたようだ。

 先刻の温もりに満ちたあの心地の良い陽光にもう一度包まれるのならば、ファインプレーと評するしかないだろう。

 だが、このままではライムちゃん自身も死んでしまいそうな形相である。


 それはちょっと困る。

 別にかつてのクソ賢者が野垂れ死のうが何の感慨も抱かないだろうが、それでも長期的に見ると我が家のドラ●もんが自害するのは痛手だ。

 ここは一つ、お兄ちゃんとしての貫禄を見せつけなければ。


「安心して。 お兄ちゃんはライムちゃんだけのお兄ちゃんだよ」


「お兄ちゃん……!」


 妹マジチョロっ。

















「あのー、どうして拗ねていらっしゃるのでしょうか、沙織」


「……浮気者っ」


「はへぇ?」


「アキラの浮気者っ!」


「はぅ」


 何故だろう。

 意中の女の子に罵倒されたというのに、嫉妬してくれて嬉しいなんて的外れな思いが飽和してしまう。

 なんだろう、この謎の幸福感。


 それこそ今にも天界へ召されても可笑しくはないシチュエーションである。


「――おい、スズシロ。 無事か。 殺すぞ」


「人のイチャコラタイムを無下にしやがって! ぶっ殺すぞクソ中年!」


「「ア”ァ?」」


「仲良しかっ」


 不本意極まりない評価である。


「……君たちは今がどんなに切迫した状況なのか理解しているのかい? それこそスズシロ君は生と死の挟間を揺れたんでしょ?」


「平常運転だろ」


「ありふれた日常わね」


「君たちは異常者の集まりというのがしみじみと理解できたよ」


 何故か魔王が俺たちを畏怖の眼差しで見ているのが心底不思議である。

 

 というか、つい先程まで険悪な関係だった魔王がどうしてこうも自然と会話に参加しているのやら。

 さて、そんな雑感はともかく。


「――何だよ、これ」


「――――」


 『厄龍』は――否、■■■■は低い唸り声を木霊させ、その瞳を深紅に染め上がら悶え苦しんでいる。

 「死ね、死ね」とうわごとのように呟き、己自身の首筋を強く強かに万力にも勝る膂力で占めている。


「あがぁっ、黙れ消えろ死ね■■■■。 僕を返せ。 返せ。 黙れ黙れ黙ってしまえ、クソガキがっ」


「……誰と会話していやがるんだよ、これ」


 稀に呟かれる『■■■■』と言う名は何故かベールに包まれており、明瞭に聞き取ることができない。

 まるでそこらの中二病患者を彷彿とさせる光景である。

 一切合切の元凶であるルインがこの様なので俺たちは安心してコントに移れたのである。


 というかこんな状況でコントなんかすんなよ。

 何故俺は自分自身をツッコんでいるのだろう。


「――消すか」


「私も、アキラと同意見」


「――――」


 『厄龍』が害悪。

 これ以上相応しい認識などこの空虚な世界に存在しないことは火を見るより明らかである。

 この男が吐く息さえも醜悪。

 ならば――今この場で始末するのが得策だろう。


「消えちまえ――『天衣無縫』」


「――ぁ」


 直後、それまで蹲ってひたすら頭髪を狂ったかのように掻き散らしていたルインの動きが不意に停止する。

 俺はそれに意識を傾けることもなく――、


――そして、声が聞こえた。



「――今この瞬間だけは、明け渡してやるよ」



 刹那――空っぽの世界に、『月』を顕現したかのような少年が君臨していった。





 久しぶりに太鼓の達人やってみてボロクソ言われた天辻の気持ち、分かりますか?

 

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