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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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三日月が微笑んでいる


 ……シリアスなカンジにしようとしたのに、どうしてこんな茶番になってしまったのだろうかと心底不思議です。

 誰が悪い。 私だっ。


 後半はちゃんとシリアスですよ!













 は?

 意味が分からん。

 色々と自分の精神構造が複雑奇怪である自覚はある俺であるが、こうも単純明快な思いを抱いたのはいつぶりか。


 本当にこの男は俺を揺さぶる。


 それはそうと――、


「ちょっと何言ってるのか分からなうですぅ」


「変顔しながら言うなよ。 殺すぞ」


「ねえ、時々不安になるんだけどガバルドさんって味方だよね? ねえ仲間だよね? ちょ、どうして無視するのかな!?」


「自業自得でしょ」


 魔王にさえも罵倒される日々。正論である。

 

 そろそろ真面目に生きようかなと今更ながらも現実逃避気味に思案しつつ、俺は至って真剣な顔色でルインへ問う。


「――で、どういう意味だ?」


「だから変顔は止めろって」


「してませんが!? 至って真摯で真剣な表情ですが何か!? ちょ、どうしてお前ら爆笑してるんだよ!?」


「今のは最高のジョークだわ」


 ついにヤンデレさえも裏切る始末。


 なんだか『厄龍』が可哀想だなこの生物……とでいうかのような形容し難い眼差しでこちらを見ている。

 ついに俺、悪意の体現者にさえも憐憫を垂れられたぞ。

 そろそろこの不当な扱いに断固として抗議を申したい。


「さて、落ち着け。 落ち着くのだ皆の者。 今この事態が異常事態であるというのが果たして分かっているのだろうかと問いたい」


「存在自体が不祥事なお前にだけは言われたくねえよ」


 酷い。


 このままでは世界を超常現象で満たしていった黒幕の前でコントを披露するというひたすらシュールな光景になるのでこの際外野は無視だ。 

 というかいい加減心底哀れそうな眼差しはよしてくれルイン。

 お前までコントに参加したらいよいよ収集ができなくなるだろ。


「――それで、どういう意味なんだ!?」


「……君の心境は分かるけど唐突に怒鳴らないで欲しい」


 「はあ……」まるで社畜さながらの重苦しい溜息を吐きながら、今まで珍妙なやりとりを傍観していたルインが語りだす。


「システムの存在意義を思案すれば容易に判別すると思うのだが」


「……存在意義?」


「? 知らなかったのかい?」


「――――」


 まるで「どうして1+1ができないの?」とばかりに心底不思議そうに首を傾げるルインの顔面を陥没させたくなる。

 成程、これが煽られる苦しみか。

 いよいよ日頃の態度を改めようと思案しつつ、俺は恥を忍んで問い返す。


「……それで、存在意義って?」


「――教えな~い♡」


「ライムちゃん、今すぐこの国にしかけた火薬を爆破してくれないかい?」


「や、止めろぉ」


 魔人国が火の海と化すると一番ダメージが深くなる魔王が必死に論ずるが、しかしながらもう遅い!


「魔王、勘違いしないでくれ」


「――――」


 縋るかのような眼差しを向け、俺は堂々と啖呵を切る。


「――俺はただただこのクソ野郎がムカつくだけだ」


「『英雄』君、戦闘準備はできているかい? 今すぐ彼の寝首を掻こう」


「了解だ」


「君達って本当に裏切りヌルヌルが好きだよね」


「その原因の百二十パーセントはお前な」


 責任転嫁は彼らの悪癖である。


 そうしみじみと実感した瞬間であった。
















 武力を以て茶番の幕を閉じ、俺は冷ややかな眼差しでルインを見据える。


「……生憎、意味も分からねえのにただえさえ存在するだけで精神衛生が悪くなるお前の提案なんてクソ以下なんだよ。 お家に帰りな」


「……どうでもいいのだが、君は仲間を傷つけることに躊躇いは覚えないのかい?」


「?」


 ルインはちらりと倒れ伏すガバルドやライムちゃんを一瞥する。

 ちなみに魔王は心象が悪くなると面倒なので鎖で口元を雁字搦めにしてついでに目隠しもしてある。

 無論、犯人は俺だ。


「ナカマ? 新種の巨大魚なのかな?」


「……うん、僕も自分がとんでもない外道だと思っていたのだけど、やはり君のような猛者には負けるよ」


「ありがとうって素直に言えばいいの、コレ」


 なんだが貶されている気しかしないのだが。


「閑話休題。 ――さっさと帰るか、今ここで消えるか。 答えろ」


「――君は、僕に勝てると思うのかい?」


「? 当然だろ」


「ほう」


 ルインから発せられる鬼気は明らかに常軌を逸しているが、しかしながら隔絶した実力差こそ感じられない。

 それに、今の俺には『天衣無縫』がある。

 これを上手く利用すれば『厄龍』とて容易に葬ることができるだろう。


 そう分析している中途、ルインが意味深な言葉を零す。


「――最弱」


「――?」


「――僕は、四つ存在する同胞の中でも最弱に位置する」


「は」


 その弱気とも受け取れる発言に笑みが浮かび上がり、それと共に真新しい驚愕も生じてしまうことになる。


「おいおい……まだ居るのかよ」


「当然だ。 僕たちは仲良しこよしだからね」


「ハッ。 それはそれは。 で、一体全体何が目的だ? 最弱だからハンデをくだちゃいとか赤ちゃん並みの知能でないことを切に願うよ」


「安心して。 流石にそれはないよ」


「そいつは行幸」


 俺としても世界の黒幕が認知症末期のジジイのような思考回路をしているとなると幻滅しかねるからな。

 ラスボスは、ラスボスでなくちゃ。

 だが、どうやらルインの言葉にはまだまだ続きがあるようである。


「確かに、『今』のボクは紛うことなき最弱。 それは変えようのない事実だよ」


「――――」


「でもね、それは僕が常日頃己自身――正確には、『核』となったあの子の魔術を封印しているからなんだよね」


「――――」


 刹那、暴風が吹き荒れる。

 

 本来、魔力粒子単体が物理的な干渉を成し遂げることはない。

 それは光がただ眩しいだけで無害という点と似ているのかもしれない。

 そして今、本来ならば干渉不可能な筈の魔力は竜巻のように吹き荒れ、俺でさえも踏みとどまることで精一杯。


「クソッ、余力でも隠していやがったのか?」


「余力……まあそういばそうなんだろうね。 これを使うと、しばらくは呼吸さえも億劫になるけど――致し方ないね」


「……俺を取り込まなくていいのか?」


「逆に問おう。 今この現象を目の当たりにして、己の意見を変えるつもりは?」


 試すようにウインクする愛嬌溢れるその姿に吐き気が差す。

 無論、答えは生まれる前から決まっている。


「――論外だな」


「だろうね」


――そして、世界から音が消える。



「――『■■■■』」



 胴体が泣き別れになる瞬間――ほんの一瞬、『月』が見えた気がした。





 正確には三日月じゃなくて如月なんですけど


 はっ、これってネタバレなのでは……!?


 というかどうでもいいけど木曜日更新しないのなんでやねん


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