露呈する闇と
まさかのラスボス登場。
本当は奴を乱入させるつもりでした(過去形)
なにせもう既に三万文字先まで書いてますからね
――『厄龍』
かつて世界の管理者、つまること『神獣』たちを喰い尽くし、今では器ごしにしかその権威を示せない程に弱体化する要因となった人物だ。
ちなみにガバルドは例外である。
彼を中心に渦巻く禍々しい気配は同じ空気を吸っているだけでも人々の正気を奪い、そして狂気へと溺れされていく。
そんな、おぞましい冒涜者はニタニタと交渉を浮かべている。
本当に、どうしてこのタイミングで……
まるでタイミングを伺ったかのような展開である。
「何しに?」
「システムの礎になるために、君たちが手を取り合う未来は許されていないんだよ。 分かっているだろう?」
「ケッ」
「まあ、それももしかしたら不要になるかもしれないんだけど?」
「はあ? 黙れよ、クソ野郎」
「――――」
俺にしては珍しく明確な憤慨をあらわにして、今にも激昂しそうな形相でルインと言う名の冒涜者を睥睨する。
無論、俺がここまで憤怒するのには由縁が。
「――お前、沙織に手出ししたろ」
「――――」
「死ねる、なんて甘ったるいことを考えるなよ。 お前には生れ落ちたことを後悔する義務が課せられている」
「本当にそうかい?」
「真実とか、悪とか正義とか一切合切どうでもいいんだよ。 ――殺す」
「おやおや、対応を間違えたのかな?」
それこそ眼差しだけで人を殺してしまいそうな眼光でルインを射抜くが、残念なことに彼は何の痛痒も感じてしないらしい。
ならば、苦痛で顔面がくしゃくしゃに歪ませてやる。
だが、ふいに無言で鉄刀を構える俺へ野太い声音が。
「おい、どうしてキレてるのか知らねぇが、今そんな場合か!?」
「――。 スマン」
全魔力を振り絞って脚力を限度まで強化し、踏み込み跳躍する――寸前、『英雄』が水を差してしまう。
……確かに、この状況でそれは愚行でしかない。
沙織が関連するとたちまち冷静さを失ってしまうのは俺の悪癖だなと反省する。
「ハッ。 お前にも人間味があるってことに俺は心底安堵したど」
「泣けてくるねえ」
「……調子は?」
「少なくとも、俺にとっては俺らしくなった」
「ハッ。 道化師も大変だな」
「痛み居るよ」
自分でこのような難儀な生き方を選択しているので、ガバルドの無遠慮な声音を咎めることもない。
俺は凪いだ眼差しでルインを見据え、問う。
「それで、お前は何を企んでいる……? 俺が居ればシステムの意義がなくなる? 一体全体どういう意味なんだよ」
「それを僕が口に出すとでも?」
「なら咽び泣きながら白状したくなる魔法と言う名の武力行使を味わってみたいか? 俺としてはそれでもいいんだが」
そう悪態を吐きながらもルインの挙動に注意する。
その間にライムちゃんに合図して千切れていった右腕を治癒してもらう。
本当にドラ●もん顔負けの妹である。
そしてルインは冷徹な、それでいて万象を呪い嘲弄するかのような憎たらしい眼差しでこちらへ一瞥する。
「その未来が訪れることはないよ。 率直に言う。 ――スズシロ・アキラ、僕たちと手を組まないかい?」
「――――」
「――アッハッハ」
「――――」
ルインの空虚な妄言に、思わず場違いな笑みが出てしまった。
ここまで魂の奥底からの笑みが吐き出されたのは幾年ぶりか。
それこそあの黄金時代ですらこれに勝る笑みなんて、到底存在しないのかもしれないと益体もなく思案する。
そんな俺を訝し気に見据えるルインへ俺は堂々と啖呵を切る。
「――寝言は死んで言えよ、クソ野郎」
「――――」
「お前がこれまでやってきた悪事を全て吐き出してみ? それこそ某仮面でライダーでダブルなあの人の名言が猛威を振るうな」
「……おやおや、信用してもらえないのかい?」
「信用信頼信仰――下らねえな。 俺が信ずるのは明瞭明解鮮明な数字だ。 これ以外の指針なんてクソ喰らえだね」
いや、訂正。
沙織に関しては数時とか関係なしに信じることができるわーと茶々をいれつつ、俺はこちらを睥睨するルインへ問いかける。
「考えてみい? いきなり全身タイツの変態野郎から「ヤラナイカ」って言われて普通イエスって言いますかねえ」
「……流石にそこまでの変態ではないよ」
「ぶっちゃけ俺の認識はお前全身タイツと遜色ないよ」
「……流石に、傷つく」
「アッハッハ、ドンマ~イ♡」
「訂正するアキラ、もっと激怒してキャラ崩壊してしまえ!」
どうして冷静になったのにこうも罵倒されるのだろうかと心底不思議気に首を傾げながら俺は鉄刀を構えながら、『厄龍』が発する禍々しい気配に気後れする魔王を一瞥する。
「おい、魔王。 ビビるなよ――なんてことは言わないが、自分の身くらい自分で守れ。 言っとくが多分お前を守りながら立ち回るのは不可能だぞ。 お前が死ぬと最悪もう一度世界を遡らないといけないから、もっと頑張れよ」
「……無論だよ」
魔王は薄い笑みを浮かべながら大剣を構える。
準備は万端。
後はキッカケさえあれば――、
「おや、戦う気なのかい?」
「生憎のところ好感度が低すぎるんだよお前。 来世の来世に期待しな」
「僕の来世は否定されるのか……」
この男は何を当然のことでしょんぼりしているのだろう。
しかしながら次の瞬間嘲るような、嬲るようなおぞましい鬼気と共に、凄惨な嘲笑を浮かべていく。
「――もし、君の御執心の女の子に手を出さないと約束しても」
「――――」
「今ここで君が僕と手を組めば、憂慮する出来事は起こらないと思うよ? なんなら、訪れる危機から守ってもいい」
「……どうしてだ」
「?」
掠れるような声音に首を傾げるルインへ、俺は再度問いかける。
「どうしてお前はこうも俺に固執する? それこそ、ルシファルス家当主の方が余程優秀だと思うのだが」
「ルシファルス家当主……?」
「? まさか管理者なんて名乗っておいてこれを知らないのか?」
「いや、そういうわけじゃない。 ……成程、そういえば君たちはアレを知らないのか。 なら、必然それに辿り着けないわけだ」
「だから何を――」
「君には関係ない。 これが回答だ」
「――――」
答えにすらなっていない解答に目を細め、俺は「それで、一体全体何が目的なんだよ」と問い返す。
それにルインはニタニタと気色の悪い笑みを浮かべながら答える。
「――システムの崩壊」
「……はっ?」
予想だにしなかった答えに思わず絶句してしまった俺であった。




