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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
247/584

――約定


 ようやくタイトルを返上できました!

 

 ……それと、本当に今更ですが何の考えも無しに書き散らした三章とか四章については考えないでください。

 七章と他の章は別物!

 そう考えてもらった方が自然だと思います。














 木霊する爆音に殺伐と張り詰めていた空気が一気に静まり返る。


 あのライムちゃんでさえ何が起こったのか分からずに若干慌てており、それとは対照的にガバルドは冷静に片手剣を構えている。

 無音が響き渡る中、俺は欠伸混じりに嘆息する。


「確かに、荒唐無稽な話だよな。 警戒するのも理解できる」


「――――」


「もちろん、俺たちの手を握る算段もないよなあ。 ――なら、死んでも俺の話に乗る程の光景を見せつけてやんよ」


「止めっ」


 轟音。


 魔王城の外側からまたも耳朶をけたましく打つ爆音が木霊し、響き渡る轟音にアンセルの頬から滝のように汗が流れる。


 その横顔を滑稽に思いつつ、俺は更にライムちゃんへ指示を出す。

 予想以上の高火力にいささか気後れしていたライムちゃんも俺の合図と共に更なる魔力を展開していく。


 それと同時に、悲惨な悲鳴や断末魔と共に再度爆炎が吹き荒れる。


「止めろ……止めろ」


「止まれと言われて停止する逃亡者なんて果たして存在するのカナ?」


「――っ!」

 

 爆音、轟音。

 ご丁寧にもライムちゃんは魔王城の外の光景を投射魔術によって映し出す。


「――――」


 かつて活気に溢れていた町は、視界を覆い尽くす爆炎によって支配されており、その情景は阿鼻叫喚の一言。

 繁栄していた魔人国はたった一瞬でそれこそ廃墟になってしまいそうなくらいの大打撃を与えられていた。


「――っ」


「おっと、怖い怖い」


 その悲惨極まりない光景に真っ先に行動したのは言うまでおなくその国を統べる者――即ち『魔王』。

 アンセルは鬼気迫る形相で俺へと肉薄する。


 だが、その軌跡は燻る激情故にどこか精彩を欠いており、容易に身躱すことができる。

 薙ぎ払われた大剣を屈んで躱し、そのまま勢いを殺さず右腕を支点にして独楽の如く旋回していく。

 払った脚撃は容易にアンセルの体勢を崩す。


 無論、その隙を逃す筈がない。


「――お前が冷徹な『魔王』のままだったら、あるいは危なかったのかもしれないな」


「――っ」


 俺は冷静に『戒杖刀』と比べるといささか不格好にも思えてしまうなんの変哲もない鉄刀を無造作に振るう。

 鮮やかな軌跡を描くその刀身の狙いは――アンセルの得物だ。


「まあ、それもありもしないIFだがな」


「ぐっ」


 鋭く踏み込み、崩れた体制を立て直す暇さえも与えず鋭利な刃で万力にもまさる握力で握られていた体験を弾き飛ばす。

 無論、再度得物を取り出す機会も与えない。


「――歯ァ食いしばれ」


「――――」


 そして、俺の鉄拳が『魔王』の頭蓋を盛大に陥没させていったのだった。

















「――――」


 苦々しい表情で雁字搦めにされながらも、失神から立ち直ったアンセルは鋭く俺たちを親の敵とばかりに睥睨している。

 ……あながち間違ってもないんだよなあ。


「――さて、不貞腐れてないで、交渉の時間だぞ『魔王』」


「これが、交渉に見えるかい?」


「殺してないからまだセーフだろ」


「満場一致でアウトだな」


 何故ガバルドは不倶戴天の怨敵である魔王に同情の眼差しを向けているのだろう……


 それはさておき。


「さて、状況は理解したな、魔王」


「……音響魔術でも使ったのでないのかい?」


「希望的観測に縋りたい気持ちも分からなくもないが、だがまあ現実はご愁傷様とか言いようがない惨状さ。 なんなら自分が殺した国民でも眺めてみるか?」


「お兄ちゃん、出番!?」


「うーん、鬼畜な提案を真に受けないようにね」


 ちょっとしたジョークに嬉々として喰いつくサイコパス――もとい、ライムちゃんをやんわりと宥めつつ、俺はアンセルを見据える。


「余談だけど、今のでも十分手加減したんだぞ? 仕込んだ火薬全部ぶっ放したら確実に俺事この国消滅するから」


「……脅迫かいっ」


「いいや、交渉だよ」


「――――」


 吐き捨てるかのように、というか実際王らしからぬ態度で唾を吐きながらアンセルは鋭い眼光で俺を射抜く。

 それこそ赤子ならば号泣しても可笑しくはない形相である。

 もちろん精神耐性高めな俺には痛痒しませぬ。

 

「――今の一連の出来事で、一体どれほどの人々が天国に昇天していったと思う?」


「――――」


「答えらないっか。 そうかそうか。 なら親切丁寧にお兄ちゃんが教えてあげよっか♡」


「……鬼が」


「意気地なしよりかは上等な評価だよ」


 自分でも一応自覚はあるが、それでも目的を遂行するためならば鬼畜外道と罵られようと結構である。

 

「……俺裏切ってもいいか?」


「ジジイ、墓場はどこがいい?」


「ヤベぇ……薄々気が付いていたんだがスズシロも妹もヤベェ……。 というか俺が死ぬの前提条件なのかよ!?」


「骨は拾ってやるよっ」


「お前に慈悲はないのか!?」


 あったらこんな非道な策略思いつきもしなかったぞ。


「さて、話を戻すぞ。 現状、お前には二つの選択肢がある。 か弱い俺の願いを無下にして魔人国を火の海にすること。 まあ、それはそれで爽快な景色だから俺としてはどっちでもいいんだけどね」


「――――」


「そして二つ目が――少し時を戻してこの爆破テロで犠牲になった人々を蘇らせ、そして人族と同盟を結ぶ」


「――っ。 どういう意味なのかな?」


 一筋の光を見出し、しかしながらも俺のような外道の言葉を鵜呑みにするはずもなく詳細を尋ねるアンセル。

 その信頼の無さに涙目になりながらも、俺は滔々と語る。


「まあ、時を戻すとは訳が違うし、それはそれで不都合が発生しちゃからやらないけど……まあ、似たようなモノだ」


「――――」


「俺の魔術は一切合切の消去。 つまること、『爆破テロ』という事件を消去することも可能なわけ。 まあ最近できるようになった芸当なんだけどね」


「……それで、どうなるのかい?」


「必然、辻褄合わせ――つまること、つい先程散っていった儚い命が回帰するってこたあ。 もしかして、ここまで親切に教えてあげても分からなかった?」


「――――」


 鎖によって雁字搦めにされていたアンセルは、数秒瞑目し、そして思案するかのように熟考していく。

 そして――、


「根拠は?」


「無い。 ――でも、言葉なんかよりも余程優秀な証明がこの世界には存在するだろ?」


「――――」


 俺は不敵な笑みを浮かべながら、『魔王』へ告げる。


「――今、ここに約定を」


 

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