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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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凪ぐ


 愛言葉Ⅲに今更ながらハマる作者。

 八章はこういう純情なキャラ作ってみよっかなって思っちゃいますよね(笑)















 他にも色々と要因は存在するが、しかしながら人族と魔人族が手を取り合えない最もたる理由は単純明快。

 過去の遺恨。

 それが六百年も降り積もればそれも膨大な怨嗟となる。


 そんな中で手を取り合うとか無理ゲーなわけで。


 そこで猛威を振るうのが俺の魔術、『天衣無縫』である。

 ルーツに関してある程度察しのつく俺の魔術は、ご存じの通り一定の技量にさえ到達していればありとあらゆるモノを消去することが可能だ。

 これを上手く併用すれば、遺恨なんて数秒で消え去るだろう。


「それにこの国には放送なんていう便利極まりないモノがあるんだからね。 これを利用すれば余裕っしょ」


「――――」


 原理は幹部連中への不信感その他諸々の都合の悪い事象を拡声器ごしに黙らせた数日前の干す嘔吐同じである。

 だが、必然疑問も生じるだろうな。


「……何故、それを私に?」


「? 分からないの?」


「――――」


「……魔王とやら。 多分、これは素だ」


「うん、分かってる。 分かってるよ」


 何故か一瞬俺でさえも身震いするような殺意が溢れ出した気がする。


 まあ、多分魔王殿も俺の真意はある程度把握している筈。


 もしそれすらもできなければそれまでということだ。

 単純に彼が欲しかったのは確信。

 ならば寛大な俺がどこぞの脳筋すらも否応なしに理解できるように親切丁寧に――腹部に激痛がっ。


「次は頭蓋だ」


「マジスミマセンでした」


 何故この世界の住民は平然と人の思考回路を見透かせるのだろうか。


 さて、閑話休題。


「まあ、確かに前のようにお前には無断で怨嗟を断つこともできた。 無論、こんな面倒な手段ん五打って出たのには理由があってな」


「――――」


「――魔人族を動かすには、相当な権威を持ち合わせ、更に諸々の事情への理解が強い存在が必要となってくる」


「――。 扇動しろと?」


「そういうことだ」


「――――」


 俺が保有する魔術、『天衣無縫』にはある制約が存在する。

 実を言うと『天衣無縫』によって消去されてしまった存在を、まるで辻褄合わせでもするかのように補足させるのだ。

 

 例として挙げれば、俺が仮に屋敷を適当に消し飛ばしたとしても代わりの屋敷が勝手に配置されることとなる。

 この辻褄合わせというのが曲者であり、仮に今魔人族の遺恨や戦争やらを吹き飛ばしてしまえば――あの客船での出来事がなくなってしまう。


「そうなれば、『亡霊鬼』の説明とか、レギウルス君奴隷化とか美味しい諸々のイベントが消えちゃうんだよなー」


「――――」


 そうなってしまえばこれまで積み上げてきた者が水の泡になってしまうだろう。


 『傲慢の英雄』は十分以上に優秀な手駒。

 こんなところで失うわけにはいかないのだ。

 














「――――」


 ちなみに、実を言うと何故こうも面倒な形にしたのか、その理由は辻褄合わせ以外にもまだ存在するのだ。


「……まさかの実力不足」


 そう、そうなのだ。


 円滑に同盟についての話し合いをする以上、どうしても『魔王』の記憶は残しておかなければならない。

 更には重要な手駒、もといレギウルスやメイルもそうだ。

 しかしながら、術式範囲が増幅すれば必然的に制御が手薄になってしまうんだよな。


 そうなると、最低限の前提がぶっ壊れてしまうのだ。


 そこで急遽このような形で時間を稼いでもらい、俺はひたむきに魔術操作の水準が一定値に到達するまで修練に勤しんでいたのだ。

 俺だって怠けてばかりではないのである。

 ちなみに、講師は『賢者』ことライムちゃんだ。


 ぶっちゃけ魔王城の占領なんていう荒唐無稽な計画を提案したのがこれがメインだったりする。

 まあ前者の理由もそれなりに重要なんだけどね。


「ちなみに、余談だが厄龍が猛威を振るうまであと最長でも三日後だぞ」


「――っ」


 その切迫した期限にアンセルが瞠目する。

 

「まあ、そんなわけで俺としましてはさっさと準備を整えたいワケですよ。 お分かり?」


「……その話の信憑性は?」


「さあね」


「――――」


 俺が何故『老龍』が人類へ猛威を振るうまでも期間を既知の情報としてとらえているのかというと、単純な話この瞼で見てきたから。

 だからこそ、それを説明するのは容易ではない。

 『ループ』は改変魔術の極地。


 おそらく魔人族にとっても荒唐無稽な話だろう。

 故に、それを言葉にして言明するのは不可能。

 だからこそ最大限可能性が上昇するように肯定も否定もせず――あっ。


「――言うに及ばんな」


「――ッッ」


 刹那、眼前に黒光りする鋭利な切っ先が映りこむ。


 避けろ。

 そう魂が声を張り上げているというのにも関わらず、脚が竦んで微動だにできない現状に瞠目する。

 本能的な恐怖……ではないな。


 何らかの干渉を受けている。

 推し量るに、それこそがアンセルの魔術か。


 極限まで強化された脚力を遺憾なく発揮し、『魔王』は低い姿勢から跳躍、抜刀した漆黒の大剣を俺目掛けて振るう。

 その動作の一切合切は瞬きすらも満たない超短時間で無駄のない洗練された仕草で行われ、結果間合いへ到達するのは一瞬。


「――――」


 振るわれる刀身に触れれば、脆弱な人間程度文字通り一刀両断してしまえることはその気迫と鬼気から一目瞭然。

 そしてその大剣が俺の首筋を撫でるかのような鮮やかさで薙ぎ払う――


「――緊急回避っと」


「――っ」


 そう小さく呟き、俺はすぐさま『天衣無縫』により外的要因を取り払い、間髪入れずバックステップ。

 刹那神速が如き刀身が虚空を薙ぐ。

 あの膂力だ。

 迎撃という選択肢は捨て去った方が賢明か。


「さてはて……何のつもりだ、『魔王』」


「ほう。 今のを躱すかい。 随分と修練を積んでいるようだね」


「俺が欲しいのはお褒めの言葉じゃなくて理由だよ、理由」


「アハハ――分からないのかい? 君たちは、余りに不審すぎる」


「――――」


 まあ、だろうな。


 俺はアンセルの言葉に納得を示しつつ、すり足歩行で間合いから離脱する。


「そもそも君たちの素性はテロリスト。 確かに『老龍』の件は真実なんだろうけど、君たちと協力する筋合いはない」


「『老龍』に勝てるとでも?」


「それは君たちが立ち入る問題ではない」


「ハッ」


 俺はちらりと音もなく抜刀し身構えるガバルドと、形容し難い怨念を周囲へ無造作に放つライムちゃんを一瞥する。

 勝てない……ことはないな。 

 この面子ならば死者がでることは少ないだろう。


 だが、それでも今ここで魔王を殺せば必然的に俺の目的にはそぐわない。

 ならば――、


「――一つ、聞いていいか?」


「遺言かい?」


「いいや――脅迫文さ」


「――――」


 刹那、火薬が盛大に爆破したかのような破裂音が響き渡った。



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