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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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●●しちゃいましょう♡


 

 














「――――」


 『老龍』。


 もはや説明の必要性さえも存在しないほど世界へ轟いた名だ。

 そしてそれは、人族魔人族共通の認識である。

 その単語を聞いた瞬間、ガバルドの頬が強張り『魔王』アンセル・レグルスは鋭利にその目を細める。


「戯言かな?」


「その選択肢が最初に出てくる時点で泣くぞ、俺」


 好きでそういう風に振る舞っているとはいえこれは酷い。 

 自業自得であるとかそういう意見はスルーの方針で。

 まあ、そんな雑感はさておき。


「大真面目だよ。 何なら確認しにいくか? まあ、お前ならもう既に察しはついていると思うがな」


「――――」


「世界にぽっかりと空いた空洞を悟られない程あんたは愚かじゃない。 なあ、そうだろ『魔王』様」


「――。 それで?」


「おや、それは認めるということでいいのかな?」


「――――」


 沈黙は肯定の証明。

 そう受け取った俺はニマニマと我ながら不気味な笑みを浮かべながらドラムのように倒れ伏す中年を足蹴にする。


「もう一つ、新たな情報を開示してやろう。 ――『老龍』を解放したのは、『亡霊鬼』の連中だよ」


「――――」


 その声音が鼓膜を震わせた瞬間、『魔王』は小さく目を剥く。

 衝撃の事実に直面した、という程でもなく、されど完全に驚いていないこともない。

 何となくその反応に至った理由も察することができる。


「まあ、あんたの情報収集能力ならとっくの昔に知ってると思うんだけど」


「……なんとなく、君の言いたいことは理解できたよ」


「おっ。 流石キング。 聡いねー」


「それほどでもないよ」


 その謙遜の姿勢、まさか前世は日本人か。

 まあそんな雑感はともかく、先刻のアンセルの反応からある程度の情報は読み取ることができただけ行幸か。

 魔王軍の諜報機関の網は広く深い。


 正直なところ沙織という内通者自体は存在するのだが、彼女でも魔人軍の全容を理解するのは不可能だから運頼みな面もあったのだが、どうやら俺の憂慮は杞憂だったらしい。


「今こそ手を取り合うべきだと」


「そういうことだ」


「――――」


 かつて『老龍』がこの世界にもたらした傷跡はあまりにも深く、それは今もなお持続していっている。

 そして、二百年の時を経て再度その厄災が猛威を振るおうとしているのだ。


 故に、過去の遺恨がどうとかそういう問題知ったことではないというのが俺の偏見に満ちた個人的な見解である。

 

 そう、あくまでも俺個人の。


 もちろん、一切合切がそういうワケではないのだ。


「――それだけでは、不十分と言わざるを得ないね」


「――――」


 そう、鋭く目を細めた『魔王』は王者として相応の威信を言葉に乗せて示していったのだった。
















 六百年だ。

 これだけの月日の中でおびただしい数の命が散っていったのならば、必然飛散した命に比例して人々の怨嗟も増幅する。

 それが六百年も続いたのだ。


 訪れるそれがどれだけの脅威だと満遍なく理解していながらも、きっといがみ合うことは止められないだろう。


 下らないのかもしれない。

 

 だが、それが人間だ。


 俺たち部外者――『来訪者』とは根本的に歩んできた歴史が違う。

 流石に俺でもこの国で生まれ育ったのならば「和平しよう」なんて酔狂なことを叫ばないだろうと確信できる。

 そんなご時世の中でもそれに賛同するガバルドこそが異常なのだ。


「君も、理解している筈だと思う。 どれだけ私が語り掛けようが、私たちが積み重ねてきた怨嗟が消えるワケはない。 ――消えてたまるものか」


「――――」


「それが世論。 手を取り合うことなんて、到底不可能だよ」


「――――」


 正論だ。


 彼らが歩んできた歴史はどこまでも苛烈で、こびりついた鮮血が落ちなくてしょうがないのだろう。

 下らないことに頓着する。

 それが人だ。


 ならば――、



「――洗脳しちゃいましょう♡」



「は?」


 絶句。

 その一言が大変似合う表情をされる魔王の姿は本当に愉快であった。

 ガバルドも魔王様と同じように愕然と「こいつ正気か?」とばかりに口をあんぐりと開いている様子。


 何故ライムちゃんが「流石私のお兄ちゃんだよっ」的な尊敬に似た眼差しを向けていることに関しては断固としてスルーする。

 スルーするのだ。


「いやさあ、別に洗脳って言っても廃人なんかにするわけじゃない。 ――俺の魔術『天衣無縫』は対象の一切合切を否定する」


「――。 ちょ、まさかっ」


「うん、『人族への忌避感』、これを跡形もなく消しちゃえばいいってこと」


「君は正気かい?」


「安心しな。 ――もう狂ってるよ」


 そろそろ本当に自分が狂っているように感じられるからそんな眼差しをするのは止めて欲しいと所望する。

 ガバルドに無言で鉄拳を加えつつ、俺は滔々と語る。


「俺たちが手を取り合えない最もたる理由。 それは根強く残った遺恨だ。 ここまでは理解できるな?」


「その教師面は止めろ。 顔面に靴跡を刻まれたいのか」


「こればかりは人族の『英雄』に同感だね」


「だまらっしゃい。 これさえ取り除けば迫りくる『老龍』という危機に立ち上がらないわけがない。 お分かり?」


「……理屈は分かる。 だが魂が解せない」


「だろうな」


 流石にガバルドの芋虫並みの脳味噌でも理論自体は理解できたようだ。


「殺すぞ」


「俺まだ何も言ってないからな」


「強いて言うのならば、お前という存在自体が醜悪だからだろ」


「(無言で号泣)」


 醜悪って!

 嫁に言葉遣いを教わらなかったのかと心配になる。 殺そう(唐突な殺意)


「確かに、そもそもお前ら全員が俺の魔術を拝見したこともないのも分かるし、そして過去の遺恨が根深いのもよーく分かりまちゅよゴボッ」


「次は頭だ」


「頭蓋陥没させておいてよく言うよ」


 脳味噌が吹き飛ぶかと思った。




 ここで終わるかと誰よりも先に作者が驚きました。

 いえ……その、面倒臭くなったんですよ! はい(土下座)

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