カメン=シラザキ・サオリ
かなり初期(三章ぐらいから)構想自体はあったのですが、展開を考慮すて断念したモノです。
意味わかんない事も多いかもしれませんが、そもそも開示している情報が少なすぎるのでしょうgないと反省したり。
多分十章くらいになったら語ります。
「――――」
彼に睨まれた瞬間、体から滝のように冷や汗が流れ落ちた。
逃げたい。
でも逃げたら殺される。
故にカメンはただただ震えることしかできずに、ゆらゆらと幽鬼のように近づくその青年を遮ることさえ満足にできやしない。
だが、それでもなけなしの矜持は守る。
「――何の用?」
「おや……やっぱり、似ているね」
「――?」
「いやいや。 なんでもないさ」
まるで懐かしむかのように虚空を――厳密には、記憶の深海に潜っていった『厄龍』の意識が再度カメンへと向けられる。
そしてルインはおおむろに歩み寄り、彼女の美貌を覆う平淡な仮面に触れる。
「久しぶりだね、カメンちゃん」
「――――」
微笑み、そして触れた仮面を乱雑に放り投げる。
それと同時に、その少女の頭髪を覆い隠していた、真っ白で淡白なローブが勢いよくに翻されていった。
それに呼応して彼女の雪のように色彩が抜けた長髪が波打つ。
そしてルインはニヤリと微笑み、まるで確信を得たとばかりにしたり顔で告げる。
「――それとも、沙織という名の方が正しいかな」
「――ぁ」
――一人の、か弱い少女の名を。
カメン――否、沙織はマジマジと鮮血で染め上げたかのような色鮮やかな瞳孔でルインを凝視する。
「確か、君の異能は『ドッペルギャンガー』だったね」
「――――」
「推し量るに、本体が世界の垣根を死亡という形で超えてしまったイレギュラーな事態により独立、そして変動してしまったのだろうね。 しかしながら魔族軍の幹部を携わっているとは……流石に度肝を抜かれたよ」
「……どうしてっ」
掠れた声で呆然と疑念を紡ぐ。
「どうして気が付いたって? 僕は『神威システム』の最高管理者だ。 もちろん、君のことは報告にあがっていったさ」
「――――」
そもそも、今この場に居る沙織は沙織であって沙織ではない。
本体の沙織がこの世界で得た異能が『ドッペルゲンガー』。
それは魂を分割し、それによって分体を作り出すというモノである。
しかしながら、その本体は既に眼前の『厄龍』ルイン直々に始末され、元の世界に送還されていった。
本体が世界から消失するという異常事態に『神威システム』、及び『輪廻システム』が狂いだし、そうして今の沙織を形成している。
そうして経緯で誕生した沙織は、眼前の悪意を体現した冒涜者を、精一杯の敵愾心を込めて睨み返す。
「おやおや、睨まないでおくれよ。 僕に君へと危害を加えるプロットはない。 ――僕の要求に従えば」
「……アキラは、渡さない」
「ん? 僕も人の事を言えないが、随分と彼にご執心しているのだね」
「――当然」
「ほう」
力強く睥睨する沙織の瞳には確固たる意志が宿っており、それに気圧されるようにルインが後ずさる。
「アッハッハ――そっかそっか」
「冒涜者には理解できない感情だった?」
「――。 もちろん」
「そう」
木霊する哄笑。
それに眉をひそめながら、沙織は大鎌を拾い集める。
「おや、僕と戦う気かい?」
「――そろそろ、私は消える時が来た」
「――。 君と本体が出会えば、おそらく君たちは統合され記憶が共有されるだろう。 そうなれば君の本体がどうなるか、分かっているのだね」
「当然」
「それで自分を犠牲にするか……つくづく、記憶こそ違えど君達は本当にお人よしだね」
「よく言われるよ」
己の中の残りカスである『赫狼』の片鱗を解放し、静かにこの世界を生成した黒幕を睥睨する沙織。
確かに、沙織程度の実力ではルインに一太刀いれることさえ叶わないだろう。
だが――文字通り、命を懸ければどうだろうか。
おそらく、この手段は本体には不可能だ。
沙織の本体が秘める能力は莫大だが、しかしながら暗闇に閉ざされた■■が邪魔をしてそれを遺憾なく発揮させることができない。
ならば、その我ながら不甲斐ない本体のためにも、一皮脱ごう。
沙織はちらりと力なく横たわる同僚を一瞥する。
沙織がその領域へ到達してしまえば、彼女の命を尽きぬ燃料にすれば、彼らを救い出すことは、可能だ。
彼らは沙織の隣に居てくれた。
そんな彼らのために死ねるなんて――、
「――案外、幸せだね」
「――――」
そう安らかに微笑む沙織の姿の鮮烈さといったら。
それは、世界の悪意を体現したルインさえも見惚れてしまう微笑であった。
「――ごめんね、アキラ」
小さく、掠れるようにあの時傍に居てくれた少年に頭を下げる。
今までありがとう、と。
きっと、今ここで灰となる沙織の代わりに、正真正銘の沙織が幸せになってくれる筈だ。
でも、ちょっと後悔もあるけど。
「――――」
誰かのために命を懸けるだなんて、アキラならクソ喰らえだって言うんだろうなと思いながら、そこへ足を踏み入れようと――、
轟音。
――そして、それと共に世界中の流水を搔き集めたかのような激流が魔王城から溢れ出していた。
押し流される、押し流される。
不思議なことに波打つ激流は意思を持つかのように沙織やレギウルスを絡めとり、安全圏へ強引ながらも誘導する。
もちろん、冒涜者には制裁を。
「――ほう」
「主様っ」
ルインとビルドを中心に廊下を覆い尽くす水流が氷結し、そして氷蔓へと変貌を遂げ、容赦なく牙を剥く。
そして、ようやくそれらが何を意味するのか理解した沙織の頬に一筋の水滴が流れ落ちる。
「――アキラ」
アキラの魔術――正確には彼に宿った神獣の魔術――は水塊を虚空より生成し、それらを自由自在に操作するというモノ。
故に、このような事態も可能なのだろう。
しかしながら零れた涙は歓喜などではない――落胆だ。
また、助けられ。
また、生きてしまった。
また、死ねなかった。
そんなどうしようもない感情に悄然とする沙織を置き去りにして、大波は進みゆく。
どこまでも、どこまでも。
余談ですが、白咲沙織というネーミングの元ネタは某「ありふれた」のヒーラー兼ヤンデレのあの子です。
性格あんまり似てないけど。
……苗字、変わってる気がしますけどスルーしてください。 変わってなければいいな……




