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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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閑話 惨劇


 そろそろアニメも終わるし呪術廻戦買おうかなって思い悩んでいます。










――血飛沫が、宙を舞った。


 鮮やかな、鮮やかな鮮血だった。

 思わず、見惚れてしまうほど。


「――――ぁ」


 冷たくなったその肌に触り――凍り付いた。

 

――冷たい


 まるで氷でも触っているかのような、そんな感覚だ。

 やがて、次第に視界がぼやけていく。

 大量の血だまりに転げ落ちる――の死体が、こちらを見ているような気がした。

 でも、それを確認する術はもうないのだろう。


 冷たくなった彼女がその時その瞬間何を思ったのか。

 それは、まどろんでいたシルファーにはまだ分からなかった。

 全てが夢物語のように。

 全てが残酷な運命であるかのように。

 

 息を吸い、吐く。

 

「――貴女のせいだ」


 呪いの言葉を――
















 地面は、嫌に冷たかった。


 あの惨劇により、シルファーの給仕や執事、そして家族らも皆殺しにされ、生き残ったのはその日でかけていた父と、捕虜として捕縛された自分だけ。

 どうして、殺してくれなかったのか。

 今はただそれだけが恨めしい。


 この、温度の無くなった世界に救いなんてないのだから。


「チッ……この嬢ちゃん、まだ喋らねぇぞ。 捕虜にした意味ねぇじゃねぇか、オイ」


「落ち着け、『傲慢』。 交渉のカードとしては限りなく有用よ」


「……まぁ、確かにな」


 誰かの囁き声が鼓膜を震わせた。

 だが、シルファーは興味を示さない。

 痛いのは、嫌だ。

 拷問でも受けたらまず間違いなく無様に泣き叫ぶだろう。


 ただ、今はこの凍てつく寒さの方が数千倍もその身を削っているだけだ。

 人の温度が感じられない。

 微かな温もりすらもない地下牢に永遠と監禁され、心が限界を迎えたのか。

 もしくは――


「爺ぃさん。 それで、なんで俺は共和国に?」


「お前さん以上の適任者がおるか。 お前さん一人でも十分滅ぼせるじゃろう。 兵を派遣してやるだけありがたく思え」


「いや、そうじゃなくてさぁ、……俺は俺で、やることがあるんだよな」


「……父親殿がそこまで大事か?」


「まぁな」


「……儂には到底理解できん考えじゃな、『傲慢』」


「ハッハッハ、スラム育ちの成り上がり爺ぃさんにはちょっとよく分からなかったようだな! あぁ、別にお前を嗤っているわけじゃないぞ?」


「そうか」


 その言葉を区切りに気配が遠ざかる。

 猫のように無駄のなく、それでいてしっかりと満遍なく鍛えられた後ろ姿を、シルファーの無機質な瞳がただただ捉えていた。


 徐々に、自分が自分ではなくなってしまっていることが漠然とではあるが理解できる。

 このままでは、意志なき人形と成り果ててしまうだろう。

 

――冷たい


 今はただ、その感情しか浮かばなかった。












「――よぉ、姫さん。 王国側から救援が来たぜ。 ま、あくまで俺はバイトなんだがな」


「――――ぁ」


 鉄格子がへし折られ、そいつは侵入した。

 また、また魔人族が来たのか。

 そう判断しようとしたシルファーの考えは少年のその一言によって吹き飛ぶ。


 救援? 

 何を今更。

 まるで嘲るような、姫には到底似合わない不貞腐れた感情が浮かび上がる。

 

 救う?

 己惚れるのも大概にしろ。

 そしてシルファーは隠すことなくその言葉を吐きだす。


「…………ぃ」


 だが、その言葉は掠れて声にならない。

 なら――もっとハッキリと告げる。


「はぁ?」


「――要らない」


 男は思わず呆気にとられたような顔をした。

 驚愕でもしているのだろうか。

 

「……うわぁ、面倒臭ぇ」


 ……………………。


 聞き間違いだろうか。

 シルファーという少女は、この短い人生の中で「ルシファルス家」だという単純で理解し難い理由で敬われ、尊敬されていた。

 最初こそ戸惑ってはいたが今ではもうすっかり慣れてしまい、その対応が当たり前だと錯覚していたのだ。


 だが、この少年は違った。

 傲岸不遜、そんな言葉が一番似合いそうな、身勝手な少年だ。 

 久しく「困惑」という感情の波が訪れる。

 だが、この程度のアクシデントは、アクシデントですらなかったようだ。


「よっこらっせっと」


 なんと、あろうことか少年は軽々と淑女であるシルファーを担いだのだ。

 しかもまるで丸太でも持ち上げるかのように乱雑に。

 余りに突然の出来事に呆然とし、抵抗することさえも忘れてしまうシルファー。

 

 だが――その腕は暖かった。

 

 まるで、慈母に抱かれているような安心感。

 それは魂にまで届いていたこの冷たさを一瞬で吹き飛ばした。

 その温もりを認識した途端、不思議と警戒心が薄くまってきた。

 もう大丈夫。

 そんな根拠もない考えまで浮かんでしまう程に。


 そしてシルファーは、強く強く少年の左腕を握りしめた。

 

 

 安心してください、回想はこれで終わりっすよ。

 次回からちゃんとアキラ君視点っす。

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