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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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裏切り


 どうでもいいけどデミカツ丼喰いたい













――アーティファクトには、様々なタイプが存在する。


「――――」


 例えば所有者の生命力を握るだけで自然と治癒する太刀、例えば燃え盛る烈火を刀身に纏わせる大剣。

 その種類は多種多様の一言なのだが、共通する特徴が一つ。

 

 アーティファクトには基本的に魔法魔術の類が付与されており、それ故なのかそれとも別の要因が相まっているのかは定かではないが、通常の鉄筋よりもなお魔法という超常現象への耐性が高いという点だ。


 更にアーティファクトに付与された魔術が『戒杖刀』のようなモノの場合、それこそ魔法と言う超常現象の一切合切を無効化してしまうだろう。

 

 こんな風に。


「――ッッ」


「――――」

 踏み込み、それと共に幽鬼のような動作で抜刀。


 低い視線で薙ぎ払われたその漆黒の刀身がカメンから吐き出された燃え盛る業火に触れた途端、そもそも最初からそのようなモノが存在しなかったかのように灰となり、そして闇色の刀身に吸い込まれる。


「――黒龍」


「そういうことだ」


 推し量るに、あの刀身は黒龍の骨や鱗によって錬成されたモノなのだろう。


 そもそも龍種は総じて魔法への耐性が凄まじいが、その中でも黒龍は並みいる龍のそれとは一線を画すモノである。

 故に、その素材をふんだんに使用し研ぎ澄まされた刃は起こりうる超常現象の一切合切を否定してしまう。


「さて……これはどういう意味だ?」


「――――」


「仲間へなんの前触れもなく烈火を浴びせる……随分と物騒なモノだな」


「――――」


「だんまりか。 なら喋らせてやろうか? アァ?」


「――――」


 剣呑な眼光でカメンを射抜くジューズは静かに歩み寄る。

 そんなジューズへ、カメンは澄み渡った声音で問いかけた。


「なら、一つ聞いてもいい?」


「……なんでだよ。 そもそもいきなり魔法、それも上級魔法をぶっ放されたんだ。 話を聞きたいのはアタシの方――」


「――どうして、アキラの意見に賛同したの?」


「――――」
























 カメンの要点のみを的確に指摘する声色にジューズは瞳を鋭く細める。 

 

――俺たちの中に内通者がいやがる


 悪態を吐きながらそう苦々し気に告げるアキラの声色を思い出す。


 カメンもアキラから『念話』で大まかな襲撃の概要は聴いた。

 今回アキラの根回しによって魔人族たちの違和感はすり抜けている以上、自分たちの策が外部に露見することは有り得ない。

 そう、アキラの言葉通り内部に内通者が居ない限り、は。


 アキラ曰く妹と人族代表の『英雄』は有り得ないそうだ。

 それこそ明確な根拠は開示されなかったが、それでも彼の言葉ならば何の疑いもなく信じられることができた、


 しかしながら同時にそれを信じたくなくて。

 カメンの記憶が正しければ、『核』の破壊の概要を表明したのは幹部連中とアキラとその一派である。

 アキラの連れが無実な以上、容疑者は限られてくるだろう。


「――っ」


 新参者であるカメンであるが、しかしながら初めて己の声色に耳を傾かせたメイルとはそれなりに良好な関係を築けている。

 故に詳しい概要は不明だが、メイルが何故アキラのあの荒唐無稽な言葉に賛成の意思を表明したのか納得できた。


 レギウルスに関してはそもそも嘘を吐く必要性もないし、それに彼は今現在アキラの奴隷的な立場な筈。

 その劣悪な立場で策謀に長けたあの少年の目を欺くのは到底不可能だろう。

 そして自分は記憶喪失でもしていない限り関与はしていない。


 ならば――必然、消去法で答えが導き出される。


「答えて、ジューズ」


「――――」


「答えられないの? なら、質問を変えるね」


「――――」


 俯き沈黙するジューズを見据えながらカメンは口を開く。


「――『厄龍』。 この名に聞き覚えは?」


「――。 ないね」


――『厄龍』


 カメンもうろ覚えなのだが、確か多重の世界を『神威システム』によって超常現象と共に作り出した人物である。

 その性格を一言で言ってしまえばクズである。

 ちなみにこれでさえアキラ的にはオブラートに包んでいったらしい。


 あのアキラでさえ顔をしかめながらそう説明していた。

 

 そして同時に、この世界を管理する『管理者』を設けたことも。


「『厄龍』の目的を考慮すれば、アキラの意見は唾棄すべきモノ。 なら、必然妨害もけしかけてくるでしょ?」


「だから、あんたは何をっ」


「――なら、貴方がいう『野暮用』とやらを早く説明して」


「――――」


「早く」


 もしジューズに何らかのやましいモノがなければ淀みなくスラスラと答えられる筈である。

 

「……言えない」


「なら、お話しやすいようにしてあげようか?」


「――――」


 カメンが人差し指に焔を灯す。


 渋るのならば実力行使もやむを得ないと言外に示しながら、カメンは油断なく愛用の大鎌を構える。

 

「私だって仲間に手荒な真似はしたくない。 それにやましいことが何もなければ何の躊躇いもなく言えるでしょ?」


「――――」


「それでも答えられないってことは――何か、私たちに隠していることでもあるの?」


「――――」


 普段口を閉ざしていた彼女にしては珍しく饒舌に口を噤むジューズへ畳みかけるが、当の本人は黙秘を決め込んでいる。

 立場が文字通り逆転し、更に核心を突こうと――、


「もしかして、アタシのこと疑ってんのか?」


「――――」


「沈黙は肯定の証……ったくそういうことかよ」


 俯くカメンの態度で意思を確認したのか、ジューズは心底下らないとばかりに「はあ……」と溜息を吐いた。


「はあ……背に腹は代えられないな」


「――――」


 武力行使で押しとおる気か、警戒心故に鋭く目を細め、固くその大鎌を握るカメンは衝撃に呑まれることとなった。


「別に、アタシはあんたらを裏切る算段はねえよ」


「なら野暮用って」


「あー、恥ずかしいから言わないつもりだったんだが……」


 何故かほんのりと頬を染め、その続きを紡ごうとした瞬間。


「――油断禁物ですよ、カメンさん」


「なっ――」


――そして、背後に音もなく忍び寄っていたビルドが仮面の薄い胸を刺し貫いた。



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