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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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胡乱


 カメンさんはたまに炭治郎になってしまう時があって大変。

 

 カメンさんは主人公さえも性根が腐ってる『器用値』において最大の清涼飲料です! ちなみにその正体は後程。














「――――」


「――――」


 無言で華奢な少女を抱え、全身を真っ白なローブで覆ったカメンはそれでもなお疾風の如き速力で疾駆する。

 流石は若くして魔王軍幹部となった少女と言うべきか。

 

 その足並みはとてもじゃないが華奢とはいえ、人一人持ち上げていることを忘却させてしまいそうなほど軽やかだ。

 カメンはチラリと肩にぶら下がった少女を一瞥する。


 その宝石が如き瞳は閉じられて瞼によって遮られており、いっそのこと生きているのかさえ怪しい。

 だが、それも当然か。

 なにせ一度この少女は己の不手際で生死の境を彷徨ってしまったのだ。


「――――」


 抱えた少女の拍動が微かにカメンの鼓膜を揺さぶる。


 外見こそ死人さながらであるが、それでも『神威システム』において最高峰の魔術『廻天』ならば蘇生も容易。

 心拍も安定している以上、悪化の可能性は限りなく少ないだろう。


「――ごめんね」


「――――」


 小さく紡がれた謝罪の言葉を聞き入れる人物は誰も居ない。


 死は怖い。


 それは誰にだって――それこそ『神』でさえ共通する認識だ。

 そしてカメンは、足音もなく忍び寄る『死』の気配の恐ろしさ、そしておぞましさを誰よりも知っている。


 そんな自分がメイルの儚き命を死守できなかったことが今はただただ歯痒い。

 

――メイルの加勢が済んだら、後は『傲慢の英雄』を頼む


 疾駆しながらお調子者の声音を思い浮かべる。


 おそらくこの優先順位は両者の実力を考慮した上で、更に『核』の件も相まって定められたモノなのだろう。


 不出来な自分はただそれに従うだけだ。

 その言葉が途方もない頼もしさを持ち合わせているから、なんていう理由はきっと口が裂けてもいえないのだろう。

 乙女の恋心はいつまでたっても閲覧禁止なのである。


「それはさておき――」


「――――」


 カメンは静かに握られた『神託の羅針盤』を一瞥する。


 確かこれはかつて何代目かは忘れたが、ルシファルス家当の魔術が付与されたアーティファクトらしい。

 そして付与された魔術は『探したいモノへ導く』。

 カメンは静かに探したいモノ――『傲慢の英雄』を思い浮かべる。


 直後、脳内に鮮血の情景が。


「――っ」


 歯噛みし、膨大な魔力で脚力を強化、疾走する。


 一陣の風となったカメンを遮るモノは何もなく、電光石火が如き勢いで薄暗い廊下を駆け抜けていく。

 分かれ道の度に『神託の羅針盤』の魔力を流しながら、前へ。

 そして――、


「――――」


――そしてカメンは、鮮血に染め上がった『傲慢の英雄』レギウルス・メイカの死体を、目撃していた。
















「――――」


 疑問、疑念、猜疑心。


 沸き上がる感情の一切合切を押し殺し、カメンは極力死体から目を背けながらその拍動を確認する。

 案の定、レギウルスの骸からはメイルの微弱な心拍が大砲のように思えてしまう程に鼓動が一切感じられ買った。


 予想は、していた。

 『神託の羅針盤』がレギウルス・メイカの座標を示す度に脳内にひしめく鮮血が不吉な予感を誘ったが、まさかこれほどまでとは。


「――――」


 かつて『傲慢の英雄』だった『それ』は、幾度も幾度も鋭利な刃物で刺突され既に原型をとどめていない惨状だった。

 必死に抗おうとしたのか既に肉塊と成り果てた両腕は、その原動力が掻き消えた今もなお紅の刀身が握られている。


 しかしながらその眼光だけは物言わぬ骸となった今でもなお健在で、溢れんばかりの怨嗟が満ち満ちていた。

 直視すれば嘔吐は避けられないその惨状。


 それから必死にカメンは目を背けながらもシステムの力を借り、仄かな青白い光を生み出していく。


「――『廻天』、『聖典』『慈愛の極光』」


「――――」


 『廻天』によりその拍動を無理矢理ながらも再開され、そして間髪入れず深々と刻まれた傷跡を『聖典』により修復する。

 そして欠損した部位は『慈愛の極光』によって無傷同然にまで治癒され、筋肉同士が再度触れ合った。


「これで一応大丈夫……」


 唯一の懸念は死亡時間が迂遠故に蘇生不可という可能性だったが、どうやらその憂慮は杞憂だったようだ。


 無事に拍動を開始したレギウルスの心臓を見届け、ふとカメンは周囲にスライムらしきゲル状の物体が飛散していることに気が付く。


「ゼリー……? スライム系モンスター?」


「――――」


 しかしながらゲル状の物体からは命の鼓動は一切感じられず、スライムという選択肢は除外された。

 「まあ別に関係ないならいっか」と思い直し、カメンは『神託の羅針盤』を再度強く握る。


 思い浮かべるのはこの城を永劫守護するであろう不動の結界、その『核』である。


「――『起動』」


 微弱な魔力を連鎖的に浸透させ、正規の手順で歴代の人族最強魔術師を多く輩出してきた名家ルシファルス家当主が直々に制作したアーティファクトを起動する。

 直後思う浮かんだのは四角い真っ白な部屋だ。

 そして羅針盤は『核』への道標を示し――、


「――あれ、居たの」


「――っ」


 その声色を聞いた瞬間、即座に抱えていた同胞たちを多少手荒ながらも投げ捨て簡易の避難を済ませる。

 そしてアイテムボックスから『白裂の大鎌』を取り出し、体制を整える。


「あー、心配すんなよ。 アタシだ」


「――――」


 仮面ごしにスタスタとこちらへ歩み寄るグラマーな美女を睥睨する。

 その気配に気が付いたのか、美女――ジューズは苦笑しながら両手を掲げ、降伏の意を確かに表明する。


「安心しろ、アタシはあいつらの手先じゃない」


「――――」


「それで、戦局は?」


「――――」


「――。 ったくよお、たまにはちゃんと言葉に現わせよな。 そんなんじゃモテねぇぞ」


「――――」


 飄々としたジューズの態度に、しかしながら一向にカメンの眼光は険しくなる。

 一つ、疑念が。


「――今まで、何してたの?」


「……ああ、野暮用だ。 誰にだってあるだろ? 済まねえな」


「そう」


「――――」


 静かに瞑目し、カメンは目を細めながらジューズを射抜く。


「私は、『核』を壊しに行く」


「おっ。 もう見つかったのか? それは行幸だな」


「同感。 ――ジューズは、どうする?」


「――――」


 その問いかけの瞬間、ジューズから得体の知れない何かが溢れ出したのを確かにカメンは認識した。

 

「――んじゃ、アタシも同行させてもらおうか」


「そう。 ――残念」


 直後、カメンの掌から魔王城すらも覆い尽くすような爆炎が解き放たれた。



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