貪り喰らう死
中盤のシーンめちゃ書くのも見るのも大変でした。
平仮名表記は面倒くさいのだよ
じゃあしあきゃいいじゃんとかそういう悲しいことは言わないでください。 創意工夫って大切ですよ?
「――――」
――意識が溺れていく
吐き気がする。
失血した分だけ意識が掠れ、ふとした瞬間自分が自分ではなくなってしまったかのような不可思議な錯覚に陥る。
否、これが錯覚などではなく残酷な真実なのかもしれないな。
そんな場違いなことを考えながら、メイルは足音を殺し疾駆する。
「――――」
認め難いが、あの踊り子はかつてない強敵。
『傲慢の英雄』ならばまだしも、己のような矮小な存在が手出しできるような、そんな存在などではない。
ならばどうするか。
その答えがこれである。
「――『神託の羅針盤』。 ちゃんと導くのだ」
「――――」
『それ』に魔力を微かに流した瞬間、情景が思い浮かぶ。
それは白い部屋だ。
真っ白な、どこまでも淡白で平淡な正方形の四角い部屋。
その中枢に、頑強に封印されていったこの魔王城全土を囲い、不許可にこの神聖なる城へ足を踏み入れようとする不埒者の一切合切を拒む鉄壁を生成し、展開している起因となるモノが、眠っている。
アレを、アレさえ壊せば――、
戦術的にはメイルの行為は決して非難されるようなモノではなく、逆に称賛しその勇気を褒め称えるべき品物だ。
メイルが傭兵でいなければ。
「くっ」
堪え難い屈辱にメイルが頬を歪ます。
傭兵という人種は野蛮で無遠慮と思われがちである。
確かにそれは間違っていない。
レギウルス・メイカ然り、本名不詳の自称紳士然り、そしてこうして屈辱に耐えかねるメイルも、また然り。
傭兵という人種は度し難い程に愚昧だ。
だが――それでも、彼らには決して譲れないモノがあるのだ。
傭兵として生まれ育った者は必然的に人死にを経験し、そして何度も何度も狂気に染まってしまう程に誰かの命を奪い取る。
だからこそ、そんな中で狂気に染まり上げられない者たちには、それ相応の信念が培われているのだ。
そして今――メイルは己が深く心酔していた信条を自らの手によって破り捨てた。
その激情に叫びだしてしまいたい。
自己嫌悪に吐きだしてしまいたい。
野蛮な獣のように吠えてしまいたい。
しかしながらこの切迫した状況はそれすらも叶えさてくれないのならば。
ただ、走る。
無様に、恥も外聞も投げ捨てて、薄暗い廊下を駆ける。
そして――、
「――浅いんですよ、貴女」
「――――」
そして、その醜悪なメイルの脊髄を、突如としてその吐息がすぐ傍に感じられる距離で肉薄していったメリッサの『絶斧』が抉りだしていた。
抉りだされた脊髄が神経と共に溢れ出し、激痛がやがてどこか心地いいモノとなっていく。そういえば、この薄暗い廊下に頭でも可笑しくなってしまったかのように哄笑が響き渡っていた。気持ち悪い。気色が悪い。吐き気がする。虫唾が走る。消えろ。そう悪罵を尽くしたところでその嘲笑は永劫木霊し、メイルという存在が溺れさせていく。やがてしかいがくらくなってきた。いしきがもうろうとし、いよいよもうそんなよゆうもないとばかりにはきけなどといったかんがいもかんかくもしょうしつしていっている。ふしぎだ。あれほどおぞましいとおもっていた『し』がみじかにせまっているというのに、しかしながらめいるのおぼつかないのうないをしはいしたのはあんどであった。そう、あんどだ。うまれかわったらしょくぶつにでもなってなにもかんがえずにただただせかいのさだめのままいきていくのもまだいっきょうかとおもえてしまった。そんなばちがいなことをしあんしするめいるのいしきはこくいっこくとくろにそまっていく。あ、そういえばいたみってなんだっけ。なにもきこえなくなったせかいのなかで、めいるはそういえばれぎはどうなったんだろうなあとおもいながら、しずかにそのまぶたをとじましあばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば。
「――死にましたね」
「――――」
静かに、目を細めそうメリッサは断言する。
その事実に特に感慨にふけることもなく、ただ淡々と悲惨な死体を受け入れ、そして放置しようと――、
「――間に合わなかった」
「――――」
静かな、吐息が響き渡る。
その声色は、どこまでも澄み切っており、鮮やかな湖を彷彿とさせる鮮やかなモノであった。
いつのまにやらメリッサの背後――正確には安らかな死に顔ではにかむメイルへ迫る気配に瞠目する。
何故、気が付けなかった。
諜報機関の中でも特に隠密能力が高い自分が、何故――、
「大丈夫。 まだ死なない。 ――『廻天』」
「――――」
「――――」
脊髄をぶちまけるメイルを仄かな蒼白い光彩が染め上げる。
おそらく高度な治癒魔術なのだろう、その朗らかな光にメイルが覆われた瞬間、彼女の儚い命を貪っていた傷跡を殺し尽くす。
「何者、ですか?」
「――――」
「気配や体系からして女性……それも少女ですね。 その年でどれだけの修練をつめば、その領域に辿り着くことができるのやら」
「――――」
皮肉にその美貌を平淡な仮面で覆い隠した少女――カメンは目を細め、静かにメイルの命を奪い去った女を見据える。
その眼光には、形容し難い気迫があった。
必然、自然と後ずさった自分をメリッサは愕然とする。
意味が、分からなかった。
何故、己が小娘ごときに後退する?
その堪え難い事実がメリッサという踊り子の矜持を酷く傷つけ、必然彼女は無言でその大斧を構える。
会話は不要。
今はただ、この間違いを血飛沫と鮮血を以て正すだけだ。
メリッサはしなやかな筋肉を遺憾なく発揮し、強かで軽快な音と共に薄暗い廊下を滑走、そしてその刃を――、
「――甘い。 『絶唱』」
「――――」
――パチンッ
そんな軽やかな音が木霊した瞬間――世界が紅蓮に包まれる。
世界中の光景が今まさに猛威を振るい燃え盛る烈火によって更新され、そしてそれが途切れることはない。
何とかその猛威から逃れようと『絶斧』を盾代わりにするが、しかしながら業火は全方位から迫ってきている。
故に、防御など不毛。
それに包まれたら最後、灰となってようやく鮮やかな色彩を拝めるだろう。
その時には既に呼吸さえも強制的に中断されているのかもしれないが。
「――ぁ」
燃える、燃える、燃える。
メリッサという存在が完膚無きままに燃え盛り、眼球を覆っていた水分は一瞬で蒸発し、その直後体中が爆炎に包まれる。
体が灰となっていく堪え難くおぞましい感覚に発狂するメリッサへ、カメンは冷酷に最終宣告を言い渡す。
「――メイルと同じ激痛を、苦痛を、鈍痛を、痛みを、知って」
「ぁぁああぁあああ」
――そして、メリッサという美女は燃え盛る烈火によって灰すら残さず消失していったのだった。




