■■■? ■■■■■!
チルドレンレコードをまふまふさん×天月さんが歌のは熱い
――千日手だな
それがレギウルスが俯瞰的にこの戦局を見て、そして下した判断である。
「――――」
レギウルスにどれだけ不快傷跡を刻もうと瞬く間に修復されてしまうし、そして血液のストックは無尽蔵。
大してビルドも『液化』によって物理無効自体。
故にこの戦局が永久、とは言わないモノの、それなりに続くのだろうと分析していた。
冷徹にビルドの大槍を見切りながらおざなりな、一片たりとも活力が感じられない気だるげな表情で致死の斬撃が放たれる。
しかしながらやはりその感触は空を切るかのようなよう。
こんなことに力を加えるのは余りに不毛。
「――――」
そして、その分余った気力は回避に。
この勝負、如何にエネルギーを節約して立ち回れるのかが重要となってくる。
そもそも魔術には魔力が必須だ。
ビルドだってその状態を維持するのにそれなりの魔力を浪費しているはず、というかしていると思いたい。
もちろん、レギウルスにも限度という概念は健在である。
幾ら血液のストックが無尽蔵とはいえ、それにはどうしても限界が生じてしまう。
このペースだと三日程度で空を切ってしまいそうだ。
果たしてそれまでビルドの魔力が尽きているのだろうか。
(五分五分だろうな……)
正確な予測はできないが、それでも推し量るに左程二人の終着点に差異は生じないと思う。
ならばその結末を如何に先送りにできるから重要で――、
「――■■■? ■■、■■■■っ!」
「あがぁっ」
「――――」
――刹那、何の前触れもなくレギウルスの頭蓋から鮮血の華が咲き誇った。
いつのまにやら『傲慢の英雄』の頭部には背後から鋭利な鈍器を彷彿とさせる鋭利な刃が生え渡っている。
その事実に最もたる容疑者であるビルドが愕然と目を見開く。
そんな混沌とした戦局を作り出した存在は、けたましく身の毛もよだつような哄笑を木霊させていく。
「■! ■■■■■‼」
「……何を言っているのですか?」
レギウルスの頭蓋からその姿を現したのは猫ほどの小動物を彷彿とさせるモノであった――少なくともシルエットだけは。
しかしながら、ハッキリとそのおぞましいという言葉ではとてもじゃないが形容できない姿形が否応なしに理解できる。
できてしまう。
「――――」
「■■。 ■■■■! ■■■■、■■■!」
「――――」
その小動物は、異形の化け物としか言い表せないような、猛烈に吐き気を誘う外見をしていた。
異形の存在の脊椎からは絶叫でもするかのような、他者の正気を奪い尽くすおぞましい人型の顔面が浮き上がっていた。
更にその目玉からは、ミミズにも似た得体の知れない生物が蠢いており、それが嘔吐を促していく。
その他にも明らかにこの世界の生物のそれを遥かに凌駕し、もはや一周回って嗤えてくるような醜悪という言葉を体現したかのようなモノであった。
「――勝手に刺すなよ。殺すぞ」
「■■■?」
「何言ってるのか分からねぇ」
魔人族語でもましては人族語でもない、どこまでも醜悪な吐息と共に得体の知れない言語を解する異形に極力触れないようにしながら突き刺さった刃を引き抜く。
盛大な血飛沫、だがそれは一瞬のこと。
瞬きすらも地を這う亀のように感じられてしまう超短時間で傷跡を修復していったレギウルスは、躊躇することなくその深紅の刃を振り払う。
もちろん、目標は異常で異形な謎生物。
直後、鮮血という言葉さえ不適切なドス黒い血飛沫が迸る。
「あー。 キッショ」
「――。 何なんですか、それ」
「さあな。 俺は知らんが、どうせあいつの策略なんだろうよ。 にしても容赦ねえな。 後で殺すか」
「――――」
ぶつぶつと呟かれる独り言に含まれる意味が理解できないビルドが動けないでいる中、レギウルスは何でもないように紅血刀を構える。
「驚いていないんですか? 唐突に刺されたのに」
「あぁん? なんか勘違いしているようだが、これでも驚いているぞ。 まあぶっちゃけこの程度日常茶飯事なんだが」
「――――」
「ん? どうした?」
「……正気じゃない」
ビルドが幽霊でも見てしまったかのように珍しくその瞳に恐怖を張り付け震わせている。
実を言うとビルドはほとんど実践を経験した記憶がない。
ビルドはあくまでも政治官よりの役職であり、故に戦場に駆り出される時は大抵指揮などを行うのが相場である。
だからこそ、戦場では当たり前の狂気に気が付くことができなかった。
だが、真に恐ろしいのは眼前の狂人が己のことを狂人だと認識していないことである。
「そういう暴言は大将(笑)に悪罵してくれ。 俺は専門外――。 あぁん? なんでお前にそれが……ああ、どうせ教えてくれやしねえんだろ? で、どうすればいい?」
「――――」
不可視の何かと対話するレギウルスからにじみ出る不自然極まりない自然な狂気に戦慄を隠し切れない。
「あぁ? 毒ぅ? あー。 分かった分かった。 でもこれで失敗したら来世まで呪ってやるからな」
「――――」
「……何だよその顔。 調子狂うな」
にべもなく鼻糞をほじりながら罵倒ともいえるビルドの心の奥底からの本音を受け流し、そのまま流水が如き自然さを以て劇毒が多分に含まれる短刀を投擲する。
その流麗さに瞠目しつつ、しかしながら特に躱すことはない。
そんな行為に何の必要性も――激痛。
痛い。
痛覚という最も身近な感覚に呻き、文字通り血反吐を吐く。
おぞましい感覚に凌辱され、神経という神経が、余りにも無遠慮に無作為に無思慮に叩きつけ、犯す。
「あがぁっ、ぁああ」
「ハッ。 あのクソ野郎の言葉通りだってこたあ」
「ぁべばぱば、っヵは」
「はあ……後始末は黒幕に任せて、さっさと楽にさせてやるか」
正気を手放したビルドに憐憫の眼差しを向け、せめてもの情けと大量の劇毒が詰まった小瓶を取り出す。
その量は致死量をゆうに超えている。
一滴でも垂らせば容易に楽になれる――、
「■■! ――■、■っ、■!」
「――。 まだ生きていやがったのか」
しかしながらそれは文字通り醜悪にも生き足掻くおぞましい生物がけたましく絶叫しながらレギウルスへ鈍器を振り上げる。
それを対処しようとした直後――レギウルスの腸に風穴が。
「ぁあ?」
「アハッ」
――そして、哄笑が響き渡った。




