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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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『液化』


 














「――――」


「ほう」


 突進――そう見せかけておいて虚空を回転しつつさりげなく触れただけでいとも容易く即死させるような劇毒が塗り固められた短刀を投擲する。


 しかしながらビルドは軽やかな動作でそれを察知、回避。

 軽快なリズムを刻みながら、鋭利な魔剣片手に独楽のように回転しながら迫りくる短刀の一切合切を迎撃する。

 

(チッ。 流石幹部ってこたあ)


 ビルドの実力は未だ未知数。

 あれだけのパフォーマンを存分に発揮していながらも息の一つも乱れておらず、平淡に吐息その姿からはまだ全力でないことを示している。

 魔術すら発動していない肉弾戦でここまでレギウルスと太刀打ちできるのか。


 だが――それは少々、『傲慢の英雄』を侮りすぎているだろう。


「オラァァア――!」


「――――」

 

 裂帛の気合と共にレギウルスの姿が掻き消える。


 その事象に微かに目を見開くビルドの背後に、突如として気配が。


「――!」


「残念だったな」


 目聡く察知した気配へ鋭利な魔剣の刀身を振るうが――それはただただ空虚に虚空を切り裂いただけである。

 

 レギウルスは人外の脚力を駆使し視認さえも不可能な程に加速。

 天才的なセンスを、遺憾なく発揮し、不規則な動作でビルドへ肉薄し、そのまま踏み込み――一閃。

 頬にこびりつく鮮血に目を細め、レギウルスは薄い笑みを浮かべる。


「『傲慢の英雄』をあんまり舐めんなよ」


「……これは、失礼を」


「謝罪はいいからさっさと誠意を見せろよ。 誠意」


「――――」


 挑発でもするように憎たらしく笑みを浮かべるレギウルスに特に反応することもなく、ビルドは止血することなく再度魔剣を構える。

 止血する暇がなかったのか、はたまた必要がなかったのか。


「……やっぱり、一筋縄じゃあいきませんか」


「あったり前だろ。 逆になんで片手間で始末できると思ったんだか。 もしかしてお前俺すらも上回る阿呆か?」


「アハハ、涙目になってもいいですかね」


「どういう了見だよ、オイ」


 悪意が混じった発言に眉を顰めつつ、レギウルスもビルドにならって紅血刀を構える。


 そう、幸いにも今レギウルスの両手には愛刀が握られているのだ。

 この状況下で、果たしてビルドの勝算は如何様か。

 確かにビルドの近接戦での実力派一般の傭兵と比べると見劣るモノではないが、しかしながらそれは比較対象が一介の傭兵の話。


 この程度、幹部クラスですらない。

 

 しかしながらビルドは名実ともに魔人族幹部。


(やっぱ、なんか種があるな)


 あの魔王が金を貢がれてこのような重鎮にビルドのような実力を頭に据えるわけがない。

 ならば、それは逆説手にビルドにはそれ相応の実力を持ち合わせているという確かなる事実の裏付けであった。

 そして――その憂慮は、大当たりである。


「いいですね。 愉快ですよ。 偶には、こうして本気を出してみるのもなかなかにそそりますねえ」


「――――」


「最近はずっと書類仕事だったので、腕が鈍っていないといいのですが、お手柔らかにお願いしますね?」


「そいつは出来ねぇ相談だな」


「ですよね。 貴方ならばそう答えると思っていましたよ」


「勝手に無許可に無遠慮に理解者面すんなよ。 気色悪ぃんだよ、クソマッチョ」


「おやおや。 それは誉めているのでしょうか、それとも、ただ単に侮蔑しているのか判断ができませんねえ」


 反吐をぶちまけるレギウルスを、どこか愉快そうに眺める気色悪いビルドに虫唾が走る。

 そしてビルドは静かに微笑み――『それ』を解放した。


「では、勿体ぶるのはそろそろお終いにしましょうか。 ――『液化』」


「――――」


 刹那、ビルドというモノがどろどろに融解し――、
















――瞠目した直後、つい先程まで対峙していた大男は大量の液体となってぶちまけられていた。


 その事実に目を見開きながら、溢れ出す水溜まりからはんば反射的に後ずさる。

 直後――水溜まりから何の前触れもなく鋭利な大槍が出現する。


「――ッッ」


「おや。 これすらも避けてしまいますか」


 レギウルスの頑強な頭蓋骨をかち割って脳漿をぶちまけちょうとする液状の大槍を迎撃ではなく、バックステップで躱す。

 その洗練されや身躱しの技術に液状のまま目を細めるビルド。


「お前……何なんだよ!?」


「そういう魔術でしてね。 自分限定ですが、個体液体期待と外見と内部すらも改変できるんですよ」


「……どうして、そんなことを?」


「いえいえ。 どうせならば貴方とは正々堂々白黒つけたかったからですね」


「殺意満載の奇襲をしかけておいてよく言うよ……」


「そういう性なので」


「ハッ」


 鼻で嗤いながらも、剣呑に目を細める。


 ビルドの言動などから推し量るに、彼の魔術は自身の身体をノーリスクで液体・個体・気体と改変するというモノ。

 しかしながら真実にノーリスクなのかは依然として不明。

 細心の注意を払い、まずは様子見か。


「ふんっ」


「――――」


 極限にまで鍛え抜かれた肉体を駆使して音速さえも超越する速力を遺憾なく発揮し、再度視認さえも許さぬ速度で肉薄。

 踏み込みさえも不要となる致死の一撃が振るわれる。

 でも、その感触はどこまでも空虚で。


「チッ……! お前はバリバリ干渉できる癖に、物理攻撃無効かっ!」


「御名答、と言っておきましょうか」


 膨張、破裂。

 

 器用にもところどころ鋭利な氷破片となったビルドは風船のように爆発し、散弾のように周囲へ弾丸を吐き出す。

 範囲が広すぎる。

 回避は、到底不可能。


 ならば――躱す必要性もない。


「――――」


「……よもやこれほどまでとは」


 ビルドの嘆息に込められたのは単純な驚嘆か。


 ビルドが真に驚愕しているのはレギウルスの強靭さ故――ではない。

 常識はずれな肉体を持ち合わせりレギウルスとはいえ、至近距離で散弾を直撃すれば無傷では済まないだろう。

 だからこそ、彼の両腕には深紅の愛刀が握られている。


「――『吸血』」


「……互いに、厄介極まりないですねえ」


――『吸血』


 実を言うとレギウルス・メイカは吸血鬼と魔人族とのハーフ――などではない。

 それは彼を生み出した顔も知らぬ母親のことである。

 厳密には、あくまで巡る血流の片隅にそれが宿っているだけで。

 そもそも吸血鬼などとっくの昔に滅び切っている。


 だがしかし、それでも微かとはいえレギウルスの鮮血に吸血鬼の遺伝子が刻まれている以上、この紅血刀の権能が発揮できないわけではないのだ。


「――千日手だな」


「同意見です」


 互いにかつてない長期戦になる予感に冷や汗を流しながら、爆砕音と共に、衝突する。



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