激突
イブさんの楽曲作業用BGMとしての才能高過ぎね
「――おや、久方ぶりですね。 レギウルスさん」
「……よおビルド。 ちょっと迷ってこんな隠し扉見つけちまったんだが、どうにかしてくれないか_?」
「いえいえ、それには及びませよ」
苦し紛れに弁明するレギウルスを置いてクスクスと上品な笑みを作り出すビルド。
だがしかし、その瞳は明らかに笑っておらず、それはまるで獲物を狙い定める肉食獣のように思えた。
そしてその予感は的中する。
「此処は本来ならば到達し得ない秘境。 魔王様の厳命により、貴女の命を刈り取らせていただきます」
「……厳命って?」
「――『ここに無許可に足を踏み入れた子は問答無用で殺せ』、と」
「あの人らしい台詞だな。 躊躇しないのか?」
「ええ。 魔王様の勅命に従う。 これこそが、魔人族として至極当然の有り方と言えるでしょうね」
「――――」
「そこに情も躊躇も介入する余地はありません。 ――咎人には等しく死を」
「ハッ」
そう宣言するビルドに冷や汗を流しながらちらりと横目でメイルを一瞥する。
おそらく、まだレギウルスたちの密命が露見してはいない。
だがしかし、この機を逃せは最悪魔王城に足を踏み入れることさえも叶わなくなる。
ならば――、
「――メイル。 頼んだ」
「任されたのだ」
意思表示などこの程度で十分すぎる。
お互い強がりか不敵な笑みを浮かる。
直後、メイルが足元を『龍化』することにより爆発的に脚力を強化、俊足の足並みで奥へと逃走する。
逃がした、わけではない。
これは単純にそれが合理的であるからという至極当然の理由故の行為である。
ビルドの実力は幹部連中の中でも人一倍ベールに包まれており、最悪レギウルスよりもなお上手かもしれない。
ならば、今この場で最も戦力の無いメイルがレギウルスの代わりに『核』を破壊し、それまでの秒針を『傲慢の英雄』が掴み取ればいいだけの話だ。
「――逃がさせるとはでも?」
「逃げ切れないとでも?」
軽快な足音と共に韋駄天の如き俊足でビルドが跳躍。
瞬間床を構成するブロックが木っ端微塵になるほどの勢いで背を向ける無様な逃走者へと肉薄して――、
「勘違いすんなよ。 あいつは逃げたんじゃねえぞ」
「――――」
その刀身が華奢な少女の背中に震わせる刹那、猛烈な脚力で強引に介入したレギウルスが代わりに受け止める。
一瞬の停滞。
直後、レギウルスは力任せに回し蹴りをビルドの足首へと薙ぎ払った。
ビルドはその巨躯に似合わぬ羽毛のような軽快さで跳躍し、そのまま回転して遠心力を上乗せした強烈な一撃をお見舞いする。
「ふん。 いっちょ前に剣程度は使えるようだな」
「ええ。 紳士として当然の嗜みですよ」
「問答無用で切りかかってくる紳士か……この乱世も随分と世紀末になったモンだな」
「貴方には劣りますよ」
「ハッ」
自嘲のような響きが混じったビルドの吐露を鼻で嗤い、レギウルスは凄惨な笑みを浮かべながらも抜刀した紅血刀を構える。
「――刻んでやんよ」
「できるものなら」
刹那、『傲慢の英雄』と『自称紳士』が轟音と共に激突する――。
「――――」
初めて彼を一瞥した時から、かなりの手練れだとは理解していた。
その居住まい、武道を納めた者特有の足取り。
そして何より、彼から溢れ出す圧倒的な才気と獰猛な獣を彷彿とさせる闘争心に、だ。
こうしてレギウルスはその自称紳士と対峙しながらも、あの頃の認識は見当違いではなかったのだと安堵する。
同時に、滝のように冷や汗が滴る。
「――ハァアッ!」
「――――」
双剣の強みはその手数。
リーチの有利を捨て去ることで小回りが利くようになり、また同時に難点だった手数も爆発的に増幅される。
「――――」
「ふむ……流石は『傲慢の英雄』ですか」
その圧倒的な技巧は神でさえも羨んでしまう程であり、それが作り出す斬撃の結界からビルドは抜け出すことができない。
しかし――それでも、その肌には傷一つ刻まれていなかった。
(巧いな。 そういう流派か?)
ビルドの剣劇で特徴的なのは「受ける」ではなく「流す」という点である。
大抵の剣士は斬撃を受け、弾くことで防御を成り立たせるが、それも一概に言えないなと思いなおしていた。
この大男の剣技は受けるでも弾くでもなく、流す。
超越した技術でビルドも刻もうと放たれる刀身の大半をあらぬ方向へ押し流し、時には誘導する。
「お前、随分と強いな」
「それほどでもありませんよ」
「謙虚は嫌われぞ。 もっと堂々とすればモテるだろう、なッ!」
「――――」
大地が陥没する程の踏み込み。
それと共に放たれた塗り固められた殺意を体現したかのような鮮やかな横薙ぎをビルドは巧みな技巧で『流す』。
勢い余り崩れる体裁を何とか強引に整え、反撃へ備えるが予想していた斬撃が宙に軌跡を描くことはなかった。
「……何の真似だ?」
「何の、とは」
「どんば名剣であろうとも振るわなければなんの価値もねえよ。 お前が今やってる蛮行はそういう意味合いだよ」
「ふむ。 これは失礼を」
吠えるレギウルスとは対照的に冷静に頭を下げるビルドの姿が霞む。
「――できれば、勝手に自滅して頂ければ楽だったのですがね。 こうして露見した以上、それは失礼だ」
「――ッッ!」
唐突に背後に出現したビルドに瞠目しつつレギウルスは咄嗟に左腕の筋力を屈しして迫る刀身を弾き返す。
「ったく、まだ余力残していやがったかよ!」
「汗を掻くのが嫌いでしてね」
「ハッ。 潔癖症で何よりだ」
ビルドの妄言を鼻で嗤いながら、レギウルスは剣呑な形相で睥睨しながら再度体裁を整え、紅血刀を構える。
「それじゃあ――こっからはマジだ」
「――。 来なさい」
そして、閃光が衝突しあい、激突する。
余談ですが、活動報告でアキラ君とシルファーちゃんのプロフィール公開しました! よかったら見てみてくださいな




