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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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種明かし














――世界を揺るがす大変革を巻き起こそうとする俺たちは、現在退廃的極まりない自堕落な生活を謳歌していた。


「あー」


「――――」


「……どうしてこうなったんだ」


 ぼけーっと情けなく天井を眺める俺を、まるで腫物を扱うような眼差しで見るガバルドが重苦し気に溜息を吐く。

 まるでニートを軽蔑するような眼差しである。


「どうしたんだ、ガバルド。 何か用?」


「……お前、ロリコンの上にニートスタイルって……どんだけ業が深いんだよ」


「それほどでも……」


「だから、誉めてないッ!」


 ガバルドの制裁と言う名の拳骨が炸裂する。

 流石は腐っても『英雄』なんていう大仰な異名をほしいままにした歴戦の戦士で、その鉄拳は容易に頭蓋を陥没した。


「ぐは……っ。 お前、いきなり何するんだ!」


「それは俺のセリフだ! どうしてちょっと目を離したらこうも立派なニートになれるんだよ」


「訂正しろ、ガバルド。 俺は別に親のスネにかじりついているわけじゃないし、有り余る財産を散財してこうして怠けているのだぞ? 一体全体この俺を誰が咎める?」


「性質悪ぃな」


 『英雄』という異名にそぐわない荒々しい口調で悪罵するガバルド。


 ここはこれまでストックし使わずにしていた多くの武器を適当に売り捌き、それで得た金品で手に入れた部屋である。


 これでもそれなりの古参。

 これまでほとんど使わなかった武具のほとんどを売り払うと、莫大な財産を手に入れることができ、一気に小金持ちである。


「にしても……本当に溶け込んでいるな、私たち」


「別に俺はお前の部下でも上司でもないんだから素の一人称でいいぞ」


「はいはい」


 どうやら未だガバルドは幾多もの魔人族たちの列に自分のような敵国の人間が混じることに戸惑っているようだ。


 ちなみに、変装も『隠蔽』も使っていない。

 そんなことしても無意味だし、というか逆に不毛に魔力を浪費してしまうから逆効果というのが主な理由である。


 人間と魔人族の魔力は大きく異なる。


 やっぱりそれには『神威システム』が起因しており、その意図は不明である。

 しかしながら、レギウルスやメイル曰く、傍らに人族が居れば、容易に察することができるらしい。


 発する魔力を抑える器具も存在こそするが、基本的に魔力を発さない生物など存在しないので逆に怪しまれることとなってしまう。


 だからこそ用意したのがあの放送である。


「違和感の消去、か」


「厳密にはその他諸々調節のため消したモノもあるけどね」


 俺の魔術『天衣無縫』は対象のありとあらゆる概念を自由自在に消去できるというぶっ壊れ魔術である。

 これを使ってしまえば容易に周囲の違和感も消し去ってしまえるだろう。


 それと、ついでにレギウルスたちのフォローにもこの魔術は大いに役立つこととなったようである。

 おそらく、俺があの裁判に介入していなければ確実にレギウルスたちは八つ裂きになり、そして考案した策力も水の泡になるだろう。


 レギウルスが亜人国へ向かったのはその滅亡を目論むビルドとかいうヤツの意向だ。


 しかしながらそれは俺が阻んだせいで亜人国を滅ぼすどころか大樹に足を踏み入れることさえも叶っていない。

 必然、魔人族たちも大いに疑念を抱くだろう。


 レギウルスたちには最低限魔王城へ居座ることができる程度の信頼が必要不可欠なので、流石にそれは不味いだろう。

 そんなわけで俺がとった打開策があの放送である。


「……恐ろしい奴だ」


「おや、それは誉めているのかな?」


「おぞましい」


「酷くない!? それはちょっと酷くない!?」


「正当な評価だと俺は思うぞ」


 そう苦々し気に吐き捨てるガバルドであった。

















「――それで、どういうカラクリだ?」


「ん? 何のことカナ?」


「……今更誤魔化すなよ。 お前はどうして放送局を占拠しようとした? その真意を、俺は知りたい」


「――――」


 ガバルドは慣れた手つきでそこらのマーケットに売られていた肉をフライパンモドキで炒めながらそう問う。


「どうしても言わなきゃいけいの?」


「どうでもいいと言えばどうでもいい。 だが少し気になる」


「はあ。 お前も変に拗らせたツンデレ――なんでもないです! なんでもないからフライパンで素振りしないでくれる!?」


「安心しろ。 証拠は残さん」


 最近の中年はやけにキレやすいなと思いつつ、撲殺されたくはないので渋々先日のカラクリを説明する。


「俺の魔術は、術式範囲が無茶苦茶狭いの」


「そうなのか?」


「魔術事態の能力がえげつないせいで、それが術式範囲に全部引き算で作用されていやがる。 我ながら面倒な魔術だ」


「そ、そういうモノなんだな……?」


「ああ、そういえばガバルド魔術持ってないんだっけ。 じゃあそこら辺の感覚知らないで当然かー」


 知っての通り俺の魔術『天衣無縫』は限りなく強力なのであるが、それにしてもやけにデメリットが多い魔術でもある。

 まず浪費魔力が桁違いであること。


 存在の否定なんて『ループ』にまでは届かないものの、改変魔術においてはかなり上位に位置する芸当である。

 そして、浪費魔力は一部の例外を除いて発揮する魔術の規模によって左右される。


 もちろん、これを繰り出すには相当な魔力が必要となるワケで。

 更に魔術自体が強力無比であるが故にそっちにリソースがいって術式範囲が極端に狭くなってしまうのである。


 というわけで、こんな時にはドラ●もんさながらの『賢者』であるライムちゃんの出番なのである。


「そんなわけで、今回ライムちゃんに創造してもらった魔術は『拡散』だ。 声を媒体として魔術範囲を広大にする魔術だ」


「ほう……」


「放送局を狙ったのは俺の声を魔人国に響かせるため。 ああでもしなきゃ、違和感が消えることはねぇからな」


 『拡散』により広大となった術式範囲を更に放送局を利用することによって増幅すれば魔王城にも響き割るだろう。


「それで、お前らはどうしてそうも怠けていられるのか?」


「話が急に変わったな。 ……まあ、単純な話やることがない。 後はレギウルスたちに任せたっしょ」


「そう、か」


 ガバルドのどこか複雑そうな横顔がやけに印象的であった。



 

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