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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
225/584

暗転













 

 王室に溢れ出す殺意が爆破し深紅に染まったカーベットに幾つもの生首が飛び舞うと思われた瞬間――、


『あー、あー! 聞こえていますか魔族の皆さーん!』


「――――」


――刹那、突如として飄々とした声色が魔人国全土へ響き渡っていた。


 誰も彼もが突然の事態で動けないでいる。

 『魔王』アンセルは目を細め、木霊する声色に耳を澄ます。

 この独特の砂嵐から音源は放送器。


 アンセルも『来訪者』がもたらした技術である放送には一定の興味を示し、こうして嗜んでもいたからこそその音に心当たりがある。

 魔王城にも緊急事態に備え放送器が設置されている筈。


 それを壊せばこの無遠慮な声音を遮断することもできるが、しかしながらアンセルは冷静沈着に睥睨するだけに留める。


 今この場では軽率な行動は命どり。

 傍観という姿勢が最善だろう。


『今ただいま皆様は非常に混乱していると思われます。 いやー、御免ね? 本当はちゃんと予告したかったんだけど』


「―――――」


『一応言っておきますが、コレを止めることはできません。 放送器のチャンネルは強制固定ですよー』


「――――」


 番組の固定は放送局内部の人間しか不可能な御業の筈。

 つまること、これは放送局の粋な計らい――、


『それと補足。 俺は放送局関連の人間じゃないよー』


「――っ」


 否。


 今この飄々とした雰囲気の少年は、自らが放送局内部の人間ではない――つまること、侵入者であることを示唆したのだ。

 まだ、確定ではない。


 だがしかし、そうである可能性が出現した時点で先刻とは別の意味で周囲の人々の緊張感は溢れ出す。

 

「……如何いたしましょうか、魔王様」


 この事態に冷や汗を流すビルド。

 流石にこの異常事態をビルドだけの判断で対応するのは愚策と判断したらしい。


「――。 放送局に私兵を使って確認しにいって欲しい。 もしこれが誤解でなければ――殲滅して」


「委細承知」


 冷酷に判断を下すアンセル恭しく頭を下げながら、『念話』の魔術を発揮し遠く離れた私兵へ指令を渡す。

 そんな混乱の最中、レギウるとメイルが抱いたは安堵だった。


「……とりあえず、助かったのか?」


「さあなのだ」


 お互い複雑な表情でけたましく鳴り響く声色が発せられる包装器を眺めながら肩の荷が下りたようにリラックスする二人。

 一瞬どこからか「チッ」という舌打ちが聞こえた気がしたが、そんなこと些事である。


『あー、一応言っておくけど俺は別に君たちに害意はない。 ちょっと俺に協力して欲しいだけなんだよね』


「――――」


 一瞬、『魔王』はその拍子抜けするような声音を聞き入れた瞬間、何故か鳥肌が立つような悪寒がその身を走った。

 不味い。


 次発せられる声色に耳を傾けてはならないと、そう根拠も理念もなしに直感したアンセルは慌てて警告しようとする。

 だが、アンセルの美声が木霊するよりなお早く、その少年の声は響き渡っていった。


『――忘れて欲しい』


「――――」


『俺が君たちに求めるのはただそれだけ。 俺という異種族がお前たちの王国に足を踏み入れることを至極当然に考えて欲しい』


「――――」


『あ、それとついでにこの最中裁判にかけられている『英雄』殿の罪も、もれなく忘れて欲しいかなって思っていたり』


「――っ」


――瞬間、魔人国に居座るありとあらゆる生物の『何か』が消去されていった、


 少年の意図も素性も依然として不明。

 だがしかし、不思議なことにその少年の言葉は魂の奥底にまで響き渡り――直後、世界が暗転し、無遠慮な辻褄合わせが、始まる。
















「――――」


 不意に、暗転していた視界が唐突に光を帯びる。


「おいおい……ここは魔王城、か?」


「王室、ではないのだ」


 唐突に意識が舞い戻る奇妙な感覚に瞠目しながらも、レギウルスとメイカは周囲を見渡す。

 

 眼前に広がるのは、数刻前レギウルスたちが軍事裁判を受けていたあの王室――ではなく、何の変哲もない図書館だ。

 しかも魔王城ですらない、どこにでもある何の変哲もない。


「……成功、したのか?」


「多分っ」


 先刻まで死刑される一歩手前だったレギウルスだが、唐突に安然極まりない光景が広がっており唖然とする。


 推し量るに、全ての起因は意識が暗闇に包まれる前までけたましく鳴り響いていたあの放送なのか。

 

 その現状を理解した刹那、耳鳴りのような深いな感覚と共に唐突に思念がレギウルスの脳内へ直接おくられてくる。

 声色に味はないが、それでもそれが誰なのか否応なしに理解できてしまう。


『ハロハロ―。 今私は貴方の脳内に直接語り掛けていまーす』


「アキラ、お前か!」


『そうそう。 それと、できることなら思念飛ばして返事してくれない? 聞き取れないことはないんだけど砂嵐がスゴイ』


「そもそも俺に魔力はねえから無理だよ。 ――それで、何をしやがった?」


『うーん、端的に言うと、事実を改変したの』


「……俺でも理解できるようにわかりやすく説明してもらえると助かる」


『そんなあなたには脳筋という称号を明け渡しましょう!』


「いらねぇよ」


 そんな雑談を交わし、ようやく思念の送り主――スズシロ・アキラは心底愉快げに今回のあらましんを解説する。


『俺の魔術に関してある程度は把握しているよな?』


「まあ、本当にほんの少し程度だがな」


『それで十分さ』


 本人曰く、自分の魔術は『消去』という。

 ある程度の誓約こそあれど、その魔術に消し去れないモノは存在しないらしく、一度消えてしまった存在は世界から忘却されてしまうとも。


 客船で説明された事項を思い出し――ようやく、気が付く。


「つまりお前は、あの放送で俺たちの不祥事を消しやがったのか!?」


『あっ、聞いていいなかったの』


 鋭い剣幕で問うレギウルスへの返答はどこまでも軽く、飄々としていた。


『紆余曲折あって、お前たちの不祥事は強引に揉み消してやったぞ。 感謝して咽び泣け』


「……お前は相変わらずだな」


『誉め言葉と受け取る。 今回は俺が本当に頑張った。 ――次は『傲慢の英雄』様が足掻く番だぞ」


「――。 分かっているさ」


 苦々しくレギウルスが嘆息する。


「――またな」


『これが最後でないことを切に祈るぞ、『英雄』』


 念和を切り、レギウルスが苛立ちをあわらにし舌打ちをしながらも、どこか清々しい笑みを浮かべる。


「聞いたなメイル。 ――今度は俺の番だぞ」


「――。 合点承知なのだ」

 

 傍らの相棒が頼もしく微笑む光景を見なくても分かった。



 


 放送の技術を伝えた日本人、もとい『来訪者』が正式に登場するのは早くても七章終盤、遅かった九章ぐらいですかね。

 もちろん、ピカソ並みの変人ですよ(偏見)。 ……あれ、ピカソって発明家だっけ? 

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