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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
三章・「眠りの道化師」
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掌握














「――極力殺すな。 面倒なことになる」


 侵入した廊下に、ライムちゃんの『隠蔽』の魔術を付与し気配を極限まで消した俺は小声でそう指示する。


「お兄ちゃんがそう言うのなら許してあげるわ」


「もとよりそんな物騒なことするつもりはねえよ」


「『英雄』がよく言うよ」


「ハッ」


 現在俺たちが不法侵入しているのは魔人国全土へ電波を響かせるこの放送局の一角である。


 ちなみに気配遮断に関しては問題ない。

 ライムちゃんの『賢者』としての手腕はすこぶる優秀で、魔力さえあればどのような無理難題でも現実に代えてしまう。


 そして樽の件同様、今回も大いに活躍する魔術が『隠蔽』である。


 詳しい説明は省くが、端的に言うとシステムにあるスキル「隠形」の究極形態とでも形容しようか。

 その効果は物理攻撃以外の外界の干渉の一切合切を拒むというモノ。


 まあそれにも例外があるのだが、それは割愛する。


「さて……どこから狙う」


「……慎重にいこう。 一度でも外部に連絡されたら最後、雪崩のように傭兵が押し寄せる。 そうなれば、間に合わない」


「まあ、そうだよな」


「各員慎重に制圧して。 放送はこのビルを完全に掌握してからでも間に合う」


「ん? 本当に間に合うのか?」


 と、ガバルドが不思議そうに首を傾げる。


 掲げる目標が目標なので俺たちに協力者は限りなく少ない。

 現状、ビルの制圧に使用できる人員はたった三名。


 果たしてこれだけでそれなりに出来のいい警備さえも数多く配置されているこの放送局を制圧できるのか、不安なのだろう。

 だがしかし、その憂慮は杞憂だろう。


「おいおい、今この場に勢揃いする面子の戦歴をお忘れなのだろうか?」


「――――」


「俺ことスズシロ・アキラは加勢なしでガチンコ勝負で『傲慢の英雄』レギウルス・メイカを打ち倒した。 んで俺も妹も初代『英雄』に善戦した猛者。 更に、この面子の中に『英雄』までもが加われば――」


「――鬼に金棒なのよ」


「そういうことだ」


 ここからは時間との勝負となる。


 一刻を争うこの事態の中で、余すことなく、このビルの人員を戦闘不能にしなければならないのだ。

 ああ、確かに無理難題だろう。


 それを実行するのがただの村人だったらの話だが」


「お前……もうちょっと謙虚にな……」


「物事を俯瞰しただけさ。 これで不安は晴れたか?」


「……色々とあるが、まあやってやんよ」


 そう勇ましく宣言するガバルドの姿はどこまでも『英雄』じみていて。


「ちなみにここで拒否してたらお前の事魔王に突き出す所存だったからね。 良かったな命拾いして」


「……時々お前が得体の知れない化け物のように思えるよ」


 解せぬ。

















 結論から述べよう。 

 この放送局が不可視の刺客によって制圧されるのに二桁以上の時間はかからなかった。


「だから言ったじゃん。 楽勝って」


「――――」


 数分程度で制圧され、一同に集められた捕虜たちを眺めながら俺は隣で拗ねたようにそっぽ向くがバルを一瞥する。

 中年が拗ねてそれで需要あるのかと問いだしたい。


「お前……人間か?」


「イエスイエス。 バリバリの人間さ」


「――ッッ‼」


 俺のその宣言を聞き入れた瞬間、捕虜たちから吐き気がするほどの殺意が周囲に漏れ出しているのが分かった。

 どれだけ俺が、ニンゲンが嫌悪されているのか一目で判別できる光景である。


 これが地獄絵図か……と遠い目をしてみる。


「落ち着け落ち着け。 俺たちに害意はない」


「ならなぜこのような暴動に――」


「だーかーら、お前たちに俺がそんなことわざわざ説明すると思いますかぁ? 教諭でもあるまいしさー」


「――――」

 

 おざなりな態度に一層殺気を放つ人々。


「それじゃあ、ガバルドはこいつらの警備ヨロシクね」


「……不本意ながらも任された」


 渋々とガバルドは俺の意思に従う意向を示す。


「それとライムちゃんはもれなく俺と同行ね」


「言われなくてもそうするわ」


 人はそれをストーカーと言う。


「ライムちゃん、『拡散』の性能は?」


「慣れていない系統の魔術なんだけど、案外やってみれば容易だったわよ」


「それは頼もしい限りだね」


 不敵に微笑するライムちゃんの横顔からは確かに自信が溢れている。

 どうやら強がりを言ったわけではないらしい。

 ならば行幸。


「んじゃ、ガバルドは警備頑張れー」


「……承知した。 お前も失敗するなよ」


「安心しろ。 例え悲惨な結果になったとしてもきっと神様が何とかしてしまう」


「お前もうちょっと信用させろよ」


 釈然としな顔で見送るガバルドへ踵を返し、俺たちは放送室へ向かう。

 

 数分後、メイルがから手渡された地図に従い廊下を駆け抜けると、大仰な廊下の片隅に地味な扉に辿り着く。

 警備上、目立たない場所に設置したようだ。


「罠は?」


「ないわよ」


 ライムちゃんに頼んで『罠感知』の魔術を発動してもらう。

 数秒間食い入るように扉へ目を凝らしたライムちゃんは、特に問題が無いという旨を俺へと伝えた。


 そして俺は意を決して質素な扉を躊躇することなく響く。

 扉の奥に広がっていたのは、周囲の簡素さに似合わぬやけに派手で絢爛な、生活感溢れる光景であった。


 その中心には乱雑な放送室の雰囲気にそぐわぬ重厚で歴史を感じさせる古びた拡声器が備わっていた。

 どうやらこれで放送を行っているらしい。


 俺はちらりと横目でライムちゃんを一瞥しながら指示を繰り出す。


「それじゃあ、俺は魔術を構築する。 ライムちゃんはライムちゃんで頼んでおいた魔術ヨロシクね」


「了解したわ」


 サムアップズするライムちゃんを一瞥しながら、俺は宣言通りに魔力を繊細に練り上げる。

 集束する魔力は、おそらくこれまで繰り出してきた魔術の、どれよりもなお莫大である。

 

 次第に周囲にスパークにも似た仄暗い魔力が迸る。


「――準備、できたわよ」


「俺もだ。 ――それじゃあ、やるぞ」


「了解なのよ」

 

 そして俺はおおむろに古びた放送器具を慣れた手つきで手に取り、口元に魔力を込めていく。

 そして――万象を否定する禁忌の魔術が、放たれた。


「――『天衣無縫』」


「――『拡散』」


――そして、魔人国全土へと高音が響き渡った



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