謁見
私貴族とかじゃありませんですから礼儀作法とかマジで無理で……。 ロリコンですから
ちょっと、いやかなりこれがあっているのか心配です。
どうぞ温かい眼差しで「しょうがないなー」と眺めてやってください
「――――」
亜人国へ派遣された俺を含めた幹部連中が再度魔王城へ足を踏み入れることとなる。
流石に俺もこの時ばかりはいつものように傲岸不遜に振る舞うことはできずに、やや緊張した心境で足を進めていく。
「レギ、間に合うのだ?」
「さあな。 あいつらが裏切れば必然俺たちも滅ぶ。 今は唯、あいつらが正直な愚者であることを祈るばかりだ」
「愚者、ね」
「――――」
それぞれがこの作戦を主導したあいつ思いを馳せる。
初めてそいつを見た時から、胡乱気なヤツだなと思っていた。
殺伐とした戦局にも関わらずへらへらとした態度は大道芸をお披露目する道化師を彷彿とさせていた。
だがしかし、次の瞬間あいつがただの道化ではないことは明白となった。
奴の瞳を見た瞬間――思考が凍り付いた。
――やあ、久しぶりだな
その瞳はどこまでも冷徹で、何もかもを見透かしているようにも感じられた。
道化師?
俺が身勝手にも下した評価がいかに見当違いか、あの言葉を、あの深淵を彷彿とさせる瞳を一瞥した瞬間否応なしに理解できていた。
だからこそ――、
「あいつにとって俺たちはただの捨て駒だ」
「――――」
「だがな、あいつは打算以外じゃあ動かねぇよ。 現状『核』を破壊できていない以上、今更切り捨てることはないだろ」
「……提示してない情報が多数あるとしても」
「まあな」
「――――」
自分でも、どうしてあんな道化師を信用しているのか分からない。
だがそれでも、ただ漠然とその由縁が理解できていた。
――君がメイカ君の息子かな?
不意に、あのおぞましいほどの不純物が含まれる、排水が流れる、汚らわしい裏路地に木霊していた声色がフラッシュバックした。
多分、アレが起因なんだろうなと漠然と悟っていると、ふいに胴を小突かれる。
「――レギ。 ついたのだ」
「あ、ああ」
「大丈夫なのだ? 少しボーっとしていたのだ」
「大丈夫大丈夫。 ちょっと思い出を振り返っていただけだから」
「そ、そうか」
傍らのメイルは特に言及することもなく、煌びやかな装飾がなされた重厚な大扉が眼前に広がっていた。
現状警備上の問題から俺たちは得物を没収されている。
まあだが、俺からしてみればあんまり意味合いは無いと思うんだがな。
どうせ武器があっても無くても、結論に差異はないのだから。
「――どうぞ」
「感謝する」
「――――」
門番は俺たちを確認すると恭しく頭を下げ、大扉に少量の魔力を浸透させる。
直後、重々しい音と共に大扉が開かれる。
「くれぐれも、粗相のないように」
「おいおい、それは俺に言ってるのか?」
「自覚があるようでしたら猶更、です」
「ああそうかい」
「ハッ」と吐き捨てようとした刹那、腹を小突かれた。
幼馴染は黙れと仰せである。
「それじゃあ――征くぞ」
「お互い命運を祈る、のだ」
「ん」
そして俺たちは、肌を刺すような凄まじい圧迫感が演出されている魔王城の一室へ、脚を踏み入れていった。
「――――」
スタスタと、決して粗相のないように深紅のカーベットで彩られた豪華絢爛を体現したかのようなお部屋である。
しかしながら周囲の視線はどこまでも冷たく、まるで腫物を扱うようである。
「――一分四十七秒」
「――――」
「遅刻ですよ、皆さん」
そうやんわりと俺たちの遅刻を咎めるのは筋骨隆々な大男だ。
しかしながらその外見に反してやけに理知的な雰囲気が醸し出されており、その瞳はどこまでも冷淡だ。
――魔王軍幹部、ビルド・ケアレンス
魔王軍の中では俺をのぞいてトップに君臨する男だ。
その実力がお墨付きであり、一度たりとも決闘したことはないが、それでも俺と互角程度のレベルであろう。
「失礼したのだ。 少し混雑していて」
「それが言い訳になるとでも?」
「ならないから、、ここは素直に謝るのだ」
「――――」
メイルはそう恥も外聞も無く頭を下げる。
俺も珍しくそんな神妙な態度のメイルにならって頭を下げると、不意に周囲の心拍数が上がった気がした。
「あのレギウルス殿が、頭を下げた?」
「『傲慢の英雄』が……!」
「おしまいだ……」
……何も聞かなかったことにしよう。
ビルドが「ゴホンッ」と咳払いをし周囲のざわついた空気を窘める。
我に返ったのか気まずそうにビルドから視線を逸らし、周囲を取り囲んでいる政治官たちは再度頬を引き締める。
「――それでは」
「――――」
不意に、張り詰めていた空気が唐突にピークを迎え、心無しか周囲の刻まれる拍動のペースが刻一刻と早まっていっている気がする。
もちろん、それは俺も同様だ。
――なにせ、これは軍事裁判なのだから
「魔王様の御成り!」
「――――」
その言葉に呼応して醸し出された緊張感は最高点へ到達する。
俺たちは一斉に一見しただけでも相当に高級な品物であることが判別できるカーベットに触れる程に深く頭を下げ、跪く。
次の瞬間、周囲を取り囲む人々の視線を一身に集めていた玉座に何の前触れもなく年齢のわりには若い青年が君臨する。
しかしながらそれはあくまで俺の気配察知能力で察知できたにすぎず、その他大勢は彼が玉座に君臨していることさえも判別できないだろう。
――木霊した声は、歓喜するような悲哀するような独特な声色であった。
「――頭を、上げて」
「――――」
その言葉に従い、俺たちは染み付いた動作で深紅のカーベットで固定していた視界を移し替えていった。
「――やあ皆、久方ぶりだね」
そう、青年――『魔王』アンセル・レグルスは微笑んだのだった。




