放送局襲撃中ナウ
雑多だ。
街行く人々の人種には規則性がなく、大角が生えた者やエルフのように鋭く尖った耳を持つ種族、果てやケンタウロスモドキが跋扈するレベルである。
「ひぇ……気色悪いな」
「まあ気持ちは分かるがお前もう少し気遣えよ」
俺はそもそも虫程度でキャーと甲高く悲鳴を上げるようなか弱い女子ばかりが跋扈する地球で生まれたが故にこのような光景にあまり慣れていない。
逆にガバルドは戦場などで多くの魔人族をその目にし、そして葬ってきたためあまり感慨はないらしい。
「おいおい、それは魔人族に対しての喧嘩とみてもいいのか? ア”ァ?」
鋭い眼光で俺を射抜くレギウルスが俺を睥睨する。
しかしながら――、
「――レギ」
「あっ、はい」
「落ち着くのだ。 確かにこの人間がうざいのは痛い程分かるけど」
「ま、まあお前が言うなら」
ふむ、完全に尻に敷かれていやがる。
実力的にレギウルスはメイルを大幅に上回っているはずなのだが、しかし何故かメイルの言葉には忠実に従う。
何がそんなに彼を駆り立てているのだろうか。
なにか昔トラウマでもあったのか?
「まあとりあえず――密入国は成功だな」
「――――」
レギウルスと再会したのは船ごと国境線を超えてから数一〇分後の話である。
樽の中で大人しく丸まっていた俺たちは、その後レギウルスが軍隊を引き連れることなく普通に合流。
ちなみに色々と物資を整えてくれたレギウルスは、俺たち三人の素性――特にガバルド――が看破されないようにロープも渡してくれた。
こうして無事密入国は成功。
次なる問題は――俺の種族である。
俺やガバルドの種族は紛れもなく人族。
故にその敵国であるこの国施設を利用するにおいて様々な障害が存在し、不審者扱いされ見分でも受けたら最悪の事態に発展してしまうだろう。
しかも――、
「――裏切者、いるよな」
「……さあな」
「おいおい、俺の国の文化ではそれは『イエス』と同義なんだぜ? 意味合いが同じならもうちょっとハッキリ答えろよ」
「……面倒なヤツなのだ」
そう悪態を吐くメイルであるが、その表情はどこか重苦しい。
俺は周囲を見渡してみる。
雑多な種族が入り乱れ、その至る所に警官らしき人物が周囲へ目を凝らしている姿が容易に確認できた。
これが俺がさっさと種族についての問題を解決したいと願った由縁の一つでもあり、そして同時に大きな懸念事項を生み出す光景でもある。
最初、この量の警備が普通なのかなと思っていた時期もあった。
しかしながらメイル曰くこれは『異常』。
心なしか、周囲の人々も普段よりなお多い景観をちらちらと横目で一瞥しながらも通り過ぎている。
どうやら、彼らの反応からメイルの言葉には嘘偽りはないらしい。
確実に、これには何らの理由が存在する。
色々と可能性は常に存在しているが、その中でも特に頭を悩ませるモノ――つまること、俺たちが魔王城へ近づかないようにと、そんな意図がある気がする。
もちろん、これは憶測できしかない。
根拠だってないに等しいに、これは空虚な妄想――だったのかもしれない。
どちらにせよ、さっさと『アレ』を行った方がよさそうだな。
「レギウルス、放送局の地図はこれで間違いないな?」
「……随分と疑い深いな。 さっきジューズはカメンにも確認していたし」
「そういう難儀な性格なんだよ」
「まあ、確かに性根が腐りきっていることは否定しない」
「そこは思い切って否定して欲しかった」
俺はどこか日本の高度な技術を彷彿とさせる地図を片手に、レギウルスへ指示――というか合図を下す。
「――死ぬんじゃねぇぞ。 お前が死んだら俺が困る」
「相変わらず横暴なこった。 お前が失敗したら俺ももれなく魔王の野郎に叩きのめされて死刑だ。 お互い死なないようにすんぞ」
「同感だ」
そう不敵に笑い合い、俺たちは別々の方角へ進んでいった。
「――ここが放送局、ね。 ガバルド、間違いないな?」
「まあ俺たちの解釈が間違っていなければな」
ふてぶてしい態度でそう返答される。
眼前、厳重という重苦しい態度からかけ離れた、どこか日本の秋葉を彷彿とさせる建築物が広がっている。
ぶっちゃけビルである。
ちなみに、何故こうも外装が日本の文化と瓜二つなのかというと、驚くべきことにそれにもちゃんと理由があった。
「――実はこれ作ったのも放送っていう文化を伝えたのも、だいたい全部『来訪者』――日本人なんだよなあ」
「? ニッポンジン? なんだそれは?」
「――私の知らない女?」
ガバルドは純粋に疑念で、そしてライムちゃんは純然たる狂気を能面で隠し淡々と語り掛けてくる。
もちろん、ここで「彼女です♡」とか頬染めて宣言したら確実に血祭になるので自重することにしよう。
「ニッポンジンについては知らなくていいし、そもそも個人名の意味合いはないよ。 それにしても日本の文化を乱用するのは少し気が引けるな」
「よく言うよ」
あ、そういえば俺客船の件でバリバリ放送という日本人の文化悪用しちゃってるんだったなと今更ながら気が付く。
ちなみに、放送という文化は既にこの国に浸透しているらしく、既に大多数の人々は魔力により拡散された電波で音を発するラジオモドキも常備しているとのこと。
日本人活躍し過ぎな!
「それじゃあ――ライムちゃん、よろしくね」
「了解したわ。 全く、お兄ちゃんは私がいないと何もできないわね」
「――――」
「ねえなんで君たちは事あるごとに慈母さながらの眼差しで俺を見詰めてくるの!?」
「安心しろ。 誰もお前を非難しないから」
「罵倒しろよ!」
大方ライムちゃんの狂気に心底ビビッて飛火しないように不干渉の姿勢を貫きたいからだと思うんだけどね。
「お前……もう何でもありだな」
「君たちってどうして思考回路がそっちにいっちゃうの?」
実は彼らの方がむっつりだったりして。
「それじゃあお兄ちゃん、準備はいい?」
「下半身にバナナも装着してるから大丈夫!」
「お前の頭は果たして大丈夫なのだろうか……」
背後で極めて失礼な悪罵が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
「それじゃ行くわよ――『転移』」
そして、世界の情景が移り変わる。
まふまふさんは忍者装甲も似合うんだなあ……と思いました
茶々ごまさんに、敬礼!




