乙女ゲー(ちょっと過激)
そもそ作者が一度たりとも乙女ゲーしたことない件について。
……モンハンが……正義なのだよ……!
なんか妹が痴話喧嘩を起こしたし。
痴話喧嘩にしてはやけに殺伐とした喧嘩だったなあーと思い返しつつ、俺はニコニコと笑顔でライムちゃんをチョップを以て制裁する。
それをロクに防御することなく喰らったライムは「あぁん」と喘ぐように呻き、どこか恍惚そうに頬を染める。
どうやら俺の妹は生粋の変態であったらしい。
そんな衝撃でもない事実に今更向き合い悄然としながら、我に返って猛然と抗議するライムちゃんの対応に追われる。
「どうしてこんな酷いことするの!? 私はお兄ちゃんの周りをうろつく鬱陶しい蠅虫を追いはらっただけなのに!」
「それが全面的な理由だよ」
「はあ」と重苦しい溜息を吐きながら俺は不出来な妹に世間一般の世論を説く。
「いいかい、ライムちゃん。 別にボクはキミの趣味を止める気はない。 ――でも、あの子を虐めるな」
「――――」
「分かったかい?」
「――。 どうして」
「――?」
「どうして、どうしてお兄ちゃんはあんな無口な奴を大事にするの!? どうして私には振り向いてくれないの!?」
相当に興奮しているからか喘息のように荒い吐息は吐き出しながら、そうライムちゃんはぶちまける。
(あっ。 判断ミスったら死ぬな)
俺が、ではなくライムちゃんが。
かつて何度かライムちゃんがこのような癇癪を起し、その度に俺はその後始末に追われた記憶がある。
選択する言葉を間違えれば、誇張抜きにこの子は気が狂って自刃する。
乙女ゲーかよ!? しかもかなり過激な!
だがしかし、この何も生まない不毛なイベントはもう既に何度も経験しており、対処法も網羅済みである。
俺はそっと壊れ物を扱うように優しく、撫でるようにライムちゃんを抱きしめる。
言うまでもない――事案現場である。
「大丈夫、大丈夫、ボクはずっとライムちゃんの虜さ」
「お兄ちゃん……」
「だから二度と離れていったりしないし、ずっと一緒だよ。 ずっと、ずっと」
「――――!」
感極まったようにライムちゃんは頬を盛大に濡らしながら俺をきつく抱擁する。
ライムちゃんが時折起こす癇癪の起因は孤独への本能的な恐怖。
その闇は深淵のように深く、彼女が一人で過ごした数千年もの歳月に比例してどす黒くなっている。
二度と、あの暗闇に戻りたくない。
そんな強い願望が癇癪という形で現れるんだろうなーと和服モドキが盛大に湿っていく感触を味わいながら考察していると――、
ガチャ。
「おい、魔王城の構造で一つ言い忘れたことが――えっ」
「――――」
不意に、俺に用意された部屋の扉が開かれていた。
余談だがこの部屋はメイルが「策を模索するのならせめて落ち着いて考えるのだ」と歩き回る俺へ提案しそして手に入れたモノである。
メイルにしては微かな違和感で俺がニンゲンだと察知されるのを憂慮したからこそなのだろうが……心なしか、まるで面倒な奴を追いやるような意図が感じられた気がする。
きっと気のせいだろう。
閑話休題。
まあそんなわけで用意された空き部屋の位置はメイルも把握しているわけで。
そして先刻協議した魔王城の攻略に一応とはいえ策謀として相談に来るのはある程度予想できる事態で。
扉が開いた瞬間、何が起こっているのか分からないとばかりに愕然と目を見開き――、
「あ、うん。 お取込み中失礼っ」
「待って! 待ってくれ! これはとんでもない誤解――」
「うん、分かってのだ。 大丈夫なのだ。 社会は許してくれないと思うが、それでも私は応援するのだ!」
「止めてね!? 応援されたって困るから!?」
このままでは風評被害ではなく現実になってしまう!
そもそも何故かロリコンだと囁かれていた俺だったが、それでも確固たる証拠は無かったのである。
だからこそ魔人族連中も冗談のようにからかっていた。
きっと心の奥底ではそれが思い違いであることを理解していたはずなのである。
だがしかし、考えて欲しい。
幼気な幼子を強く抱擁するこの姿――紛うことなきロリコンである。
最高のタイミングで最悪な結果を巻き起こしやがった!
もはやメイルはからかうことすらも忘れ、まるで全てを受け入れるとでも言うかのように慈母のような眼差しを向けて入る。
うん、これは精一杯罵声を浴びる方が百倍マシな空気だね!
というかロリコン(誤解)である俺を非難するどころか受け入れる時点でもう手遅れ感が漂うが、それでも諦めない。
何とかこのおぞましい誤認を払うべく――、
「……お兄ちゃん、私の事嫌いなの?」
間が悪い女は大っ嫌い♡
とかいったら確実に癇癪をおこして客船爆破する未来しか見えないので、俺は何とか道化を演じようと――、
あれっ。
これが二人きりであればまだよかった。
だがしかし、隙を見計らっては退避しようとするメイルの耳がある以上、ここでロリコン宣言をしてしまえば誤解が現実となってしまう。
まだ、まだ抱擁ならば慈悲はあった。
しかしながら、愛の告白となると話は変わってくる。
熱烈な愛を囁けば社会的に死に、ライムちゃんを無視するとこの客船がリヴァイアサンごとぶっ飛ぶこととなる。
どちらの方が損害が大きいか――、
「――もちろん、大好きさ!」
「お兄ちゃんッ!」
開き直って熱烈に抱きしめ合う。
ロリコンで何が悪い!
ただただ、世間一般の趣味嗜好と少し食い違っているだけの、どこにでもいる普遍的な一般人ではないか!
心の無しか晴れやかな心境で振り返ると――そこには誰も居なかった。
「あっ」
「ん? どうしたのお兄ちゃん?」
「……何でもない。 今度からは暴力描写は控えめにするんだぞ?」
「うん。 お兄ちゃんがそう言うなら私なんでも従うから」
だったらお兄ちゃん今すぐタイムマシン欲しいなあ!




