閑話・夕暮れ
久しぶりに蜘蛛ですが何か読んで「アレ!? ちょ、システム似てるというか瓜二つじゃん!」と心底焦りました。
似ているのはそもそもこの世界観がゲームだからであり、システムが出来上がった経緯も世界を救うためではなく、彼がある一人の女性を生き返らせるためですから!
まあ、そこら辺の事情は九章で語ると思われます。
総評 システムが似てるのは偶然! つまり無罪!
――世界が燃え盛り、紅の情景を醸し出している
「――――」
それこそそこらの風景画にでも描かれていそうな鮮やかな景色に目を細めていると、いつのまにやら隣に華奢な少女の姿が。
実を言うと反響した音や足音のテンポで誰が肉薄しているのか分かっていたが、それでもあえて驚くように瞠目する。
「メイル、お前も来てたんだな」
「……一人では落ち着かないのだ」
「そうかそうか。 なら立場同じな幹部連中とわいわい騒げばよくね? 同性なんだしさあ。 たまにはそういう付き合いもやっておいた方がいいぞ」
「あ、あのレギがこんな言葉を……!」
「俺が気遣うのがそんなに不思議なのかよ!?」
「ハッ……! まさか偽物――」
「違ぇよ!」
何を悟った瞬間、メイルはずさっと素早く後ずさる。
メイルが今までどんな風に俺を見ていたのかよく分かる光景である。
猛然と抗議する俺を見て己の誤解を察したのか、少し申し訳なさそうに離れた距離を縮めるメイル。
そんなメイルを横目で一瞥しながら、俺を懸念事項を尋ねる。
「ロリコンとの悪巧みは順調か?」
「……気が滅入るからそういう具体的なことは言わないで欲しいのだ。 アレは今まで出会ったキワモノのどの類にも分類されない珍獣なのだ」
「ただのロリコンなら居た気がするが……」
「言うな」
実を言うと魔人族の傭兵にも約一名こよなくロリ――もとい、いたいけな幼女を愛する嗜好を持つ自称紳士が在籍する。
自分では紳士と呼称しているがその実態はただのロリコンである。
もちろん外見に関しては幼子と形容されても致し方がないメイルもかつて求愛されたことがあるのだが、最終的に奴は諦めた。
メイルは龍と人のハーフ。
そこら辺の事情でかつて色々と面倒な事態を巻き起こしたこともあるがそれは割愛しよう。
龍の寿命は莫大だ。
個人差こそあるが、最低でも数千年、最大では億という単位すらも上回る個体すらも存在するという。
故に総じて龍種は成長が遅く、それは半分とはいえ誇り高き龍の血筋が巡っているメイルも例外ではない。
俺も俺で吸血鬼なんていう面倒な種族なので寿命は長寿であるから実際のところ外見よりも老いている。
『幼子は、外見が幼いから幼子なのではありませぬ。 ――清らかで純粋無垢な魂。 それこそが幼子たる者としての何よりも証』
自称紳士の迷言を思い出す。
あの紳士によって幼子は外見も精神も無垢であることが最低条件。
メイルが龍の血筋を引き継いでいることを知ると、「チッ。 ンだよ違法ロリじゃねぇかよ」と悪態を零していた。
きっと彼は脳に腫瘍でもあるのだろう。
「あいつは良い奴だったよ……!」
「生きてるがな」
ちなみにその紳士は今頃魔族軍の参謀として日々頭を悩ませ懊悩しているらしい。
「しっかしなあ、未だに信じ切れん」
「それは、奴がしでかしたことか? それともその思想と目標?」
「どっちもだ。 特にあの混乱を解決した手段だ」
「――――」
即答する俺に思考を整理するように沈黙するメイル。
――亜人国への軍隊が乗せられた客船の占拠
――最強の『英雄』レギウルス・メイカ敗北
――正体不明の組織『亡霊鬼』の襲撃
――そして、『傲慢の英雄』が革命を起こすべく魔人族からの反逆
更には長年俺たちを苦しめてきたあの『英雄』が今度は俺たちと手を組み、変革をもたらそうと画策しているのだ。
必然、客船の面々は大いに混乱するだろう。
最悪、今回の件――俺たちの謀反行為に近い決断を密告させられる可能性だって大いにある。
――だというのに、客船はまるで日常の風景を切り取ったかのように平然としていた。
隠している訳ではない。
そもそも傭兵なんていう馬鹿げた肉体労働を自ら志願するような阿呆どもだ。
そんな腹芸ができるほど芸達者では無い筈。
つまり――彼らは、本当にこの客船に起った異常事態を看破していなのだ。
平常こそが最もたる異常事態なのだ。
俺はある心当たりのある人物に詰問したが、彼女はやっていないらしい。
そんなワケでメイルにはもう一人の心当たり――スズシロ・アキラについて尋問してもらっていたのだ。
こんないたいけな容貌もしているがメイルも幹部。
尋問はさぞかし凄惨に――、
「ああ、アッサリ白状したぞ」
「エ”ッ」
「鼻くそほじりながら『洗脳した』って言いやがったのだ」
「頭おかしいな」
「おかしいのだ」
おそらくあの自称紳士よりも頭に治癒魔法が必要な男はスズシロ・アキラぐらいしか存在しないだろう。
「なんでもそういう魔術なのだとか」
「……それってヤバくないか?」
「私もそう思ったのだが、本人曰く『思想の改変はそう簡単にはできない。 莫大な魔力使ってそんな面倒なことするより普通に篭絡した方が有意義だ』らしい」
「ニンゲンとしてそれでいいのか」
「だってあいつニンゲンじゃないし」
「成程」
確かに正論である。
多分メイルは体質故に魔術には疎い俺にでも分かるように噛み砕いて説明してくれたと思うのだが……あの男ならば笑顔でそういう戯れ言を吐くので侮れない。
それはさておき。
「――なあ、なんでカメンとジューズのヤツ、俺たちに賛同したんだろうな」
「――――」
「お前はまだ分かる。 今のままじゃ母親に会えないからな」
「……人の心を見透かされるのはちょっと不愉快なのだ」
「スマンスマン。 俺も俺なりの信念があってあいつに賛同した。 ――だが、他の奴らはどうかな?」
「……裏切者がいる、と?」
「そうとは明言していない。 ……ただな、魔王の奴にえらく順々なジュースが裏切るっていうのは、イマイチ実感に欠けるんだよ」
「――――」
ジューズはアレでも魔王の野郎を酷く敬愛している。
そうなった理由までは、部外者である俺には計り知れないが、それでもその度合いは常軌を逸している。
だからこそ、今回のジューズの行動が不思議で堪らない。
どうしてそんなジューズが、その矛先を魔人族――魔王へ向ける?
「カメンもそうだ。 アレに関しても色々と分からねぇよ。 ぶっちゃけアキラよりも得体が知れないな」
「それは一理ある」
カメンはつい最近幹部となった傭兵の少女(?)だ。
常にその容貌は平らな仮面によって隠されており、透き通った美声を披露する機会も極端に少ない。
そして、あのアキラにしても従わざるをえなかった人物でもある。
「……どちらかが密告すれば面倒なことになるぞ」
「だからと言ってどうするんだ? 一日中監視でもするか?」
「――――」
もちろん、そんなことは不可能。
「現状、さりげなく警告でもするしかないか……」
「それでどこまで効果があるかは知らないのだ」
「だよな……ったくどうすれば――っ?」
「? どうしたのだ、レギ」
「いや、アレ――」
俺の視力は種族的な要因からなのか相当良い。
だからこそ、遠目であろうとつんざく風を浴びる二人の少女の姿が視認できたのだろう。
「カメンと……アキラの妹? こんなところで何やってやがるんだ?」
「噂をすれば……盗聴は任せたのだ」
「盗聴って犯罪行為なんだぞ」
そして俺は足音を忍ばせ、心なしか剣呑な雰囲気を醸し出している二人の少女へ接近していったのだった。




